エリシアのおはなし 2


秋の風が吹くころ、わたしと母さんは不意のお客さんを迎えました。まだ父さんが生きていたころからの知り合いですが、数えるほどしか会った事はありません。その人は今ではもうめったにこのまちには寄らないのでした。
戦争がひどくなっているせいでほとんどものが手に入りません。その人はかばんいっぱいに食べ物や遠い異国のお土産をつめてきてくれました。
その夜は久しぶりにおいしい食事をいただきました。夕食の準備をしているとき、食事の最中、終わった後のデザートの時間まで。その人と母さんは難しい話をしていて、国境近くのまちがいくつもいくつも隣の国の侵略を受けていること、国の中の戦がこれ以上長く続けば本当に危ないのだとその人は言っていました。そして母さんに2枚、汽車の切符を渡したのです。

「これがあればまちから出られます」

その人は昔、軍にいたことがありました。兄弟二人、いつも一緒にいるという話でしたが、今はもう一人なのです。一人でまちからまちへ、くにからくにへと旅をしているのです。
その人はとても軍に詳しく、戦争が今どうなっているかも教えてくれました。細かな名前は覚えきれないほどでしたが、今くには大きく二つに分かれ、かけていること、このまちの軍と、南の方にいる軍との間に挟まる形でいる焔の将軍の話をしていました。
わたしは今このまちにいる軍以外は、南の軍の何も知らないのですが、焔の将軍は知っています。というのはわたしの父さんの友達だったのです。彼は父さんのお葬式、お別れをするときに、ないていた母さんとわたしに、静かにほほえんでみせました。

(これはないしょの話しですが、わたしは焔の将軍が好きでした。といっても、たわいのない子供のときの話ですけど。
父さんと同じくらいの年齢で、やさしい人でした。10歳のとき、わたしは焔の将軍にはじめて一人で作ったお菓子をあげました。恥ずかしかったので、他の人にもあげたのですが、お酒を入れとくに念入りに作った一番形のいいものを選んで包み、ちゃんと手渡しをしたのです。でもそのとき焔の将軍は、「きみが欲しいもの、願い、望み。なんでもかなえてあげようね」と言ったのです。とてもやさしい顔で笑いながら。
わたしはその瞬間にわかってしまいました。この人がわたしを気にしてくれるのは、わたしが父さんの、死んでしまった父さんの娘だからと。)

「エリシア」

夕食の後、わたしはお客さまに呼ばれました。その人はとても真剣な顔をして、母さんは食器を洗いに台所へ行ってしまい、がらんとしたこども部屋の中央で、小さなわたしが寝ていたベビーベッドの脇で。
その人は言いました。父さんが死んだのは、自分のせいなのだと。そのときのその人と、わたしが同じ15歳になったので言ったのです。
わたしはそんなことを言う人には慣れていました。父さんが死んだときからずっと、軍の人は悲しい顔をしているか、でなければそういうのです。
どう答えてよいのでしょう。一番最初に言われてこのかた、ずっと困っています。だから今までの人たちと同じように、「父はとてもやさしい人でした」といいました。
そうすれば人々は顔をあげ、そのとおりだと頷いて去っていくのですから。
でも、彼は大きくなった今でもきらりと光る美しい両の目からぽろぽろと涙をこぼしました。それはとまることなくずっと流れ続け、わたしの両手を濡らし、落ちていきます。
その人がしたことは今までの誰とも違うのです。その人はまったく泣かないひとなのに、今はまるで堰切ったように感情があふれ出ているのです。あまりにびっくりしたので、わたしはその人がいっていることは本当なのではないかと思いました。父さんが死んだのは、本当にこの人のせいなのかもしれないと。

だからわたしはやさしかった父さんがしてくれたように、
今この場に父さんがいたならきっとしたように、

その人の額にそっとキスをしたのでした。