"Princess of Wales"

 

 

簡素なテーブルの上に並べられたトレイ。中身は栄養と量のみを重視した、お世辞にも美味とはいえないものばかりだ。
それを実につまらなそうに、気のない様子でつついていたザックスは、列に紛れている黄色い頭を見つけて手を振った。
「クラウド〜」
「………うん」
同じメニューを選んだとばかり思っていたが、近づいてきたクラウドの手には飲み物しか無い。
「なんだぁ?小食だなー」
そんなんだからちっちゃいんだ、とうっかり言いそうになったザックスは、寸出の所で言葉を飲み込む。
クラウドに身長とか、体重の話は禁句だった。
体格の良い実践系兵士達の中、細身な彼は自分の体型にコンプレックスを持っている。
「違うんだ」
幸い、クラウドは気付かなかったらしい。何か考え事をしている様子である。
「これから飯だから」
「へ?これから出んの」
「うん」
頷いたその表情は、なんだか不安そうな顔色だった。ザックスは首を捻る。
「メシって、その辺だろ?別に凄いトコ行く訳じゃないだろう」
「や、それが………」


普段より良い物を身につける、というのは。
緊張するし、だいたい面倒だ。ボタンがまともについているシャツなど数年は買ってない。
見かねたザックスが服を貸してやる、と言い出さなければ行くのを止めてしまったかもしれない。
ネクタイを弄り、上手く結べす癇癪を起こしかけているクラウドを抑え。
奥さんのように甲斐甲斐しく結んでやったザックスはしみじみと呟いた。
「しっかし………マジにお前らつき合ってんのね………」
「?」
「レストランでデートするくらいに」
「デート?」
自覚は無かったらしく、妙な顔つきをしていたクラウドはややあって頷く。
「そうか」
「おいおい」
分かってなかったのか………と肩を落とした友人に、クラウドは薄く笑って見せた。
「プレゼント、考えないと」


そら最初に言ったのは俺ですけどね、相手を考えろよ。
ザックスは内心そう思ったが、口には出さなかった。効果を考えると面白いからだ。
クラウドは待ち合わせ場所の広場に通じる通りの花屋で、花束を購入を購入している。彼曰く、プレゼントである。
その顔つきからして大まじめだから、店員彼氏の微笑ましい努力だとばかり思っているに違いない。
「ありがとう、ザックス。助かった」
こそこそと逃げるように消えていく背に、上機嫌の声がぶつけられたところで。
ザックスはクラウドの無事を祈った。
(ま〜だまだ、付き合いが足らないねぇ)
クラウドはあの通り世間知らずでボケている。文字通りのプレゼントを渡してめでたしだと思っているだろう。
だがあの男がそれを真っ直ぐ受け取る訳がない。
大体、花を喜ぶのは女だけである。




待ち合わせ場所で空を見ていたセフィロスは、別に乙女な心を持っているのではない。
下を見れば嫌でも好奇の視線や、疎ましいアプローチに晒されるからだ。
冬近いミッドガルは気温も低い。にも関わらず、足を晒した若い女性は先刻からこの場所を離れようとしない。
薄手のコートを着て人待ち顔に立っている英雄、というのは。
物凄く目立つし、注目される。場所選びに失敗したか………と大変今更な事実を反芻していると、正面から真っ白い塊が近づいてきた。
そのてっぺんから黄色いふよふよが見えたところで、セフィロスは絶句する。彼にしては珍しいリアクションである。
「ごめん、遅れた」
こんな台詞はちまたに溢れていよう。
しかし、それを期に周囲の空気はピンと張りつめた。何しろ相手が凄い。
言った当人は気付かず、無造作に手に持っている物を無表情な英雄に差し出した。
「はい」
「………何の真似だ」
「何って、プレゼント」


………
………
………


たっぷり30秒は沈黙し、固まったセフィロスに花を押しつけ、クラウドは引っ張った。
「行こう」
此方もやはり、上着を着ている。よく見れば(格好から)分かっただろうが、とりあえず周りは『そうか、セフィロスってゆーのは男に花を贈るような変わった子が好みなんだ』という間違った認識を抱いた。