深夜の訪問

 

 

「ソルジャーってどうなるんだ?」

その質問をされたのは初めてではない。少し親しくなれば、興味がある者ならば簡単に口にする問いだ。
神羅のトップシークレットである。口外することは固く禁じられていた。
しかしこの場合はどうだろう。考えてしまう。
なぜなら相手は自分よりもずっと権限のある上官で、詳しい筈の立場にある。
「俺をからかってんのか?それとも何かのテスト?やめろよホント今何時だと思ってンだ………」
アホ、はかろうじてのみこんだ。
「午前2時17分、だな」
「勘弁してえぇぇ」
盛大にあくびをする。大口をあけた顔はさぞかし見苦しいだろうが、気にもとめなかった。
そんな遠慮をするだけ無駄だ。むしろ、少しでも不快に思えば万々歳。
仕方なく部屋の中へ入れる。一言で表すなら乱雑、雑誌や服、ビール缶だの酒瓶だのが転がる雑多な空間。
へこんだ壁に包まれるような簡素な寝台に先に腰を下ろし、目の上をやたらめったら擦り、不機嫌な唸りと一緒に指を指す。
「ビール取って」
「俺が?」
「他に誰がいるってのよ」
独り身用、備え付けの冷蔵庫には酒しか入っていない。
その惨状を目にした上官サマは秀麗な眉を僅かに顰めたが、なにも言わず言われたとおりに差し出した。

「俺に訊くってのもおかしな話じゃね?」
「お前は見かけに寄らず口が堅い」
ありがたいんだかありがたくないんだか。
「アナタが一番最初で偉いんだから、アナタが一番知ってると思うんだけど」
「他を知らない。比較しようがない。心当たりが多すぎて判別不能だ」
帰ってくる言葉は的確なようで、いつでも小さな疑問を残す。
とにかく不思議な人間だ。「神羅の英雄」と言えば少しばかり嫌な顔をして、操作されたメディアの戦略だのと蘊蓄を零すが、その言葉が滑稽に思えないのもやはりまた当人の素質なのだろう。
目立つ癖に。
そういう、ものを、軽蔑してる。
「………あんま思い出したくねーな。細かく詳しく?」
「できるだけ」





………最初に適性検査がある。神羅に入る時、兵士ン時とそう変わらない身体検査。病気無いかーとかの健康診断。その後、ラボに連れてかれて

「…宝条か」
「ナニ、ああ。あんたのハカセ嫌いもスジガネイリねー」
「くだらん男だ」

あのマッドが出てくんのは後半戦。まず助手の、白衣着たなまっちろい奴らがわらわら来て順々検査、とかっていろんな計器付けて一本目の注射。二本、三本、いい加減腕がまだらになっちまうって所で針弱い奴なんかがバタンと倒れる。
倒れると駄目なのかな。部屋別にされて、俺の場合は其処でハカセとご対面したぜ。なんだかんだ言って検査半日かかった………機械通されて、ルームランナーで走ったりして。薬渡されて帰れるかなーと思ったら専用の宿舎?っつか、独房?狭い部屋に2人ずつ閉じこめられてさ………

「俺ももう一人も途中で具合悪くなって、もうゲエゲエすんの。けど一晩寝たら直ったな。後は」
「もういい」

………。

ぶち、とキレる音がした。と思った。
思わず笑顔になってしまう。ニカッと歯を向いた獰猛なやつだ。意味は、通じたらしくさっさと立ち上がって帰ろうとする、背中に開いた缶を投げつけた。
「これぐらい自分で捨てろ」
「違ぁう!ムカついてんだよ!っっったいなんなんだチクショー!!」





ぐるんともの凄い勢いで振り返った顔が白くて青くて怖くて人間離れして見えた。人形みたいだ。感情が欠落したガラス玉みたいな目、糸みたいにずらずらと並んで滑る前髪にくくった後ろ髪が加わってゆらゆらと揺れている。おかしいのは、最初からだ。そもそも雪がちらついてるような寒空でも平然といつもの戦闘服オンリーの男が、厚い外套など羽織って手袋をしている。レザーのぬるりとした質感がその容姿に似合いすぎて気持ち悪いぐらいに。

「不適合だと」
「―――は?」
「あいつは、ソルジャーにはならない」

告げた唇が少しでも震えているように見え、瞬きをする。
完全に錯覚だった。男は冷え冷えとした眼差しのままもう一度繰り返した。
「クラウド・ストライフ。ソルジャーテスト結果、不適合」
「なんで」
それを知りたかった、そう呟いて消えていく姿を呆然と見送る。

なんで。

喉が渇く。真夜中の酒は不快な苦さだけ残して腹の中にたまる。
酔いなど欠片も訪れやしない。

 

 

 

 

 

 

ザックス視点。