容赦なく朝は来る

 

 

 理由を考えるのは得意だった。昔から。
 一人で過ごす時間が多かったからだろう―――ひねくれた俺は自分の落ち度に上手な理由をつけるのだった。
 それで間違いを忘れてしまえばいいが、鬱屈した思いは一人歩きをする。言葉を持ち、激しく自身を貶す。
 結局騙せることは少なかった。
 自分自身でさえそうなのだから、他人など推して知るべし。


 一枚の紙が兵士の運命を決める。
 不適合との結果が下された翌日、クラウド・ストライフはいつも通り出社した。
 そう、神羅は会社なのである。政府ではない。事実上はそうでも、会社の利が最優先だ。
 シフト表を確かめ、銃を持って退屈な歩哨を務める彼の顔色を伺う人間は居ない。ヘルメットを被ってしまえばそれは大勢の中の一人でしかなく、個性は失せている。
 一兵士として任務に就くことでクラウドは込み上げてくる無念を押し込めた。
 何が悪い?
 何が足りなかった?
「お疲れさん、交代だぜ」
「何言ってるんだまだ………」
「いいから休んでこいって。な?」
 聞き覚えのある声にふう、と白い息を吐く。顔を上げれば私服姿のザックスが他の兵士にひょいひょいと手を振っていた。
「よーっす」
 くるりと振り返るその顔は男らしい精悍さと自信に溢れ、正に万人が思い描くソルジャーの姿だった。
(………今か。勘弁してくれよ)
 思わず苦笑が滲む。幾ら痩せ我慢が得意でも、ザックスの存在はそれだけでクラウドのコンプレックスを猛烈に刺激した。
 不思議なことに、完璧なソルジャーであるセフィロスはそういう事がない。純粋に憧れる。きっと立場や能力が違いすぎて比べる気にもならないのだろう。
「聞いたぜ。辛いな」
「別に…」
「ホント、こんな時にアレなんだけど。オレじゃ駄目だから呼びに来た」
「………何かあったのか?」
 ザックスは珍しく言いにくそうだ。顔を顰め、声を潜める。
「ダンナの様子がおかしい」
「え?」
「セフィロスだよ」
「あの人が、なんで」
 クラウドに自分がセフィロスに気に入られているという自覚はない。
 セフィロスの感情や反応はとても微弱で、表面はつるりとしている。とっかかりが無い。
 この人懐っこいザックスでさえあまりの無愛想に時々キレている。
 傍目から見たらただ友人繋がりで会うことの多いエリートと一般兵だろうが、これでもセフィロスはクラウドを気に入っている………とザックスは感じていた。
 それまで他のどんな知り合いを連れてきて会わせても、クラウド程に存在を認められ、言葉を交わし、反応する人間は居なかった。オール無視、が基本である。人見知りのガキかと思う。
「なんで俺が」

(なんで、ねえ………)
 戸惑うクラウドを見ていると、最初は本当になんで、と思った事を思い出す。
 クラウドは自己主張が強い方では絶対無い。部屋に居ろ、というと本当に何もせず黙って其処に居たり、例え何かし始めても―――雑誌をめくったり端末を使っても気配という物がない。空気のようなやつだ。会話も、必要最低限。自分から話すことはまずない。
「お前じゃないとムリ」
 冗談めかして喋る間も、クラウドのやや暗い表情を見て思う。
 こいつとセフィロスは根本で酷く似ているのだ。
 他人を信用せず、頼らない。期待をしない。
 片方は知らず、片方は臆病で。
「俺………」
「頼む。会うだけでも会ってくれないか」

 

 

 

 

 

 

ダンナ…