雲を突くような高層ビル。
現代版バベルの塔並に上へ上へ伸びる神羅の本社。
大都市ミッドガルの中心に位置するこの中で、不眠不休で働く社員と機械たち。
「ふあぁ………疲れた」
「ふぃぃ………腹減った」
「次の休憩で夜食でも食うか」
ガラス戸の向こうは完全殺菌されていて、機械の腕がプラスチック容器におかずを詰めていた。
一グラムの違いもなく絞り出されるポテトサラダと、皆そっくり同じに焼き目の付いたシャケ。
「なんかさあ………コレ見てると食欲失せるよな」
「味は普通だって分かってんだけどよ………」
今作られているのは朝定食用。
神羅のトップ社員が決めたレシピが機械に入力されると、その通り働く。
人間は作る側ではなく、次のメニューに備え機械を洗うだけ。
衛生面から見ても間違ってはいないし、合理的なのだが………


「しっ。上に聞こえたらどうなるか分かってるだろうが」
「最近ピリピリしてるからな」
「アレだろ?新しい弁当屋が出来たらしくてさ。これが評判良いんだまた」
「本当か?」
「噂になるくらいだもん、そりゃ美味いに決まって………」
「なんて所だよ」
「アバ………なんとかって………」


仕事の手を止めくっちゃべっていた不運な社員3人。不意に目の前が暗くなった。
「「「ギャ―――ッッ!!!!」」」




「むぎぎぎぎ」
30コの夜食弁当+お茶を持たされたクラウドは、必死の形相で道路をカニ歩きしていた。
「遅ェ!」
30コの夜食弁当+お茶+おしんこセットを持ってもビクともせず、普段と全く変わらない様子でスタスタ………というかドタドタ歩くバレット。
「だらしがねえな!ったくよぉ」
「っていうかお前が異常なんだ!」
「へっ。弁当に対する愛と、一人娘に対する愛があれば俺は百人力だ!マリ〜ン!」
「弁当と娘を一緒にするな………」
そもそも関係無いだろう、と俯くクラウド。
だがツッコミ虚しく、バレットは聞いてない。無視された。
やっと5番工場入り口に着いたかと思うと、2人は即身を伏せる。
「むぐぐぐぐ」
「しーっ、静かにしやがれ!」
「お前が一番煩いじゃないか」
「なんだとう!」
プップー、とアホらしい音を立てて見回っているのは、神羅の警備スタッフだ。
「ケッ、何時見てもいけすかねえ奴等だぜ………」
「………」
「でもま、神羅の社員さまが夜食にウチの弁当をご所望だぜ?いい気味だな」
「社員じゃないだろ。アルバイター、パート、つまりオバちゃんだ」
「でも神羅から給料貰ってる事には変わりねえ!」
「熱くなるなようっとおしい」
「テメエも神羅並にいけすかねえ」
………とまあ、こんな風に仲の良い会話を繰り広げつつ、警備が過ぎるのを待つ。
「よし!」
闇夜に紛れ、弁当を担いでサカサカ壁づたいに歩く2人の姿。
傍目にも全然格好良くない。
「今日の仕事が終われば、俺は下りるからな」
「クラウド………俺達の乗った列車は途中下車できねえんだ」
「そもそも乗ってない」
どうも、ペースに巻き込まれがちなクラウドは自らを反省し、きっぱり断ることに決めた。
「1500G+3000Gで合計4500G。キッチリ払って貰うからな」
「バッ、おま、何が3000」
「個数が倍なら時給も倍なんだよ」
「あ、足下見やがって………に、2000Gに負けろっ」
「やーだねー」
サカサカサカサカ。
「俺は厄介事なんてごめんだね。金貰ったらオサラバさ」
「ちくしょおー」




血と涙とポテトサラダと焼シャケにまみれた社員を足蹴にし、男は歪んだ笑みを浮かべた。
………が、衛生の為の白帽子とマスクと特製割烹着とゴム長靴を装着しているので顔が見えない。
「ツォン」
「はっ」
「こいつ等が喋っていたのは、何だって?」
「それは………」
「言え」
マスクと帽子越しに見える青い目が、鋭い光を放っている。
(クッ………!)
ツォンと呼ばれた男は(こちらも白一式身につけている)タラタラ冷や汗を流したが、やがてキッと前を見据え、口を開いた。


「ルーファウス様」
「うむ」
「前髪が出てますよっ!」
「何ィ?!」
ルーファウスはなんたることォォこの私ともあろーものがァァ!と叫ぶなり電光石火の早業で前髪を帽子に突っ込む。
その隙にツォンは山盛りの書類を上司の目の前に積んだ。
「そしてこれが明日までによく読んで判を頂きたい書類でございます」
「マイガーッ!!!」