まさかァ
「お前が嫌なら、しない」
ぶっ。思わず噴いてしまった、テキストがコーラでぐちゃぐちゃだ。
全部アンタが悪いからな………睨み付けるがきっと顔が赤くなっているから効果は無し。逆にこっちが恥ずかしい。
というか、此処を何処だと思ってんだ、アンタ。
「バカじゃないの」
「俺はバカじゃない。と思うが」
「確かにアンタはすんごく優秀だけど、バカだよ」
天下のセフィロス様にこんな口を利いている俺は不敬罪で逮捕されるだろう。
当人は言われた意味を消化しきれずきょとんとしているが。
「嫌も何も、自然に逆らってるよ俺は男」
「見れば分かる。目は悪くない」
「それとも何?アンタまで軍人特有の病にかかっちゃった訳?」
「多いらしいな」
軍人特有の病ってのは男のケツを狙うもしくは突っ込まれたい奴の事。
戦場で女は貴重だから、衝動を同性で抑える訳で。それがエスカレートしてその趣味に。
どう考えても女に不自由無さそうな英雄様が俺をご所望だということは、病気かジョークに他ならない。
「経験無いの?」
「誘われたり懇願されたことはあるが襲われたことはない」
「アンタを襲う………?」
絶句。
想像するだけで嫌な汗がじっとり沸いてくる。それ自殺願望あるやつ?特攻隊?誘い………懇願………まあ、顔はイイし体つきは申し分無いし?
あ、変な意味じゃない。ただ鍛えてあるって意味だけ―――俺の初恋は年齢の割にグラマラスな黒髪の美人な子だった。冗談じゃないよ。
「言っておくけど俺鍛えてるから結構固いよ。女顔って言われるけどね」
「手合わせしただろう」
「そりゃあアンタやザックスに比べりゃ全然、だけどね………剥いてビックリして逃げてった奴とかいるから一応警告しとくぜ」
「襲われたのか」
その「やっぱり」みたいな言い方はやめてくれ。
俺はまだ清い体だ。後ろは。
「それは辛かったな」
「未遂だよ!変な憶測で適当な同情を言うな!」
「それは悪かった」
「謝られてる気がしない………」
「悪かった」
ガックリとテーブルに伏すと、前髪がコーラに浸ってしまった。
チッと舌打ちして摘み上げ、水滴を飛ばす。その僅かな雫でさえ来る前に紙ナプキンで叩き落としてしまう―――
そんな男に出来るだけ穏便な方法で諦めて貰うにはどうしたらよいか?
「セフィロス」
「なんだ」
「アンタ、ヘテロだよな?女好きだろ?」
「最初の質問は………恐らくな。ただ女は特別好きな訳じゃない」
「んー……じゃ、女のカラダ」
生々しいと言わないでくれ。俺だって必死なのだ。
滅多に無い愛想笑いでそっとお伺いを立てると、容姿能力年収合わせて世界一モテる男(推定)は神妙な顔で頷いた。
「嫌いじゃない」
「好きなんだろ。うん。分かった」
ガタッ。
立ち上がると俺の背丈はセフィロスより高くなる。
………相手は座ってるから当たり前だが。
「試してみりゃいいだろう、一番手っ取り早い」
部屋に行こうぜと言う俺の笑顔はとびきり胡散臭かったに違いない。
セフィロスは小首を傾げて妙な顔をした後、(ぜんっぜんかわいくない)頷いて俺の提案に同意した。
きっと一時の気の迷いか、一過性の頭の病だろう。あと風邪。頭痛いんだきっと。
最近お前が気になって仕方ないとか仕事の時でも思いだしてるとかそういう………クサれた告白まがいの言葉がこの男の口から出てくると真実味などまるで無い。ジョークジョーク、じゃなきゃなんちゃって騒動。
っつか午後から講習あるし、さっさとくだらない用事は済ませるに限る。
食っていたバーガーのセットをまとめてゴミ箱に叩き込む。マズい。
「無理しないで、ヤバイと思ったらすぐ引き返す。寧ろ引き返してくれ」
「分かった」
* * *
「大丈夫か?」
「ンなワケねえだろ………」
俺の午後の予定は見事に崩れた。
ンな訳がないよクラウドくん。