ギルドは混み合っていた。各地で魔物や怪物の類が大量発生したからだろう、多少なりとも腕に覚えのある冒険者はギルドに集い、それぞれが自分にあった依頼を受けて行く。
 悪い時期に当たった物だ。内心面倒に思いながらセラは人の連なっているカウンターを指し示して見せた。
 連れはまだ十六、七の線の細い少女だった。
 彼女は物珍しそうな視線をあちこちに向け、馴れない態度を隠そうともせず、セラは気が気ではない。
 彼女はセラの友人、ロイの血の繋がった実妹である。
 優しげな面立ちの兄同様、整った容姿をしている。黙っていれば所謂美少女だった。
 自分と姉も相当容姿に恵まれている方だが(これを嫌味なく、まっとうに信じているので、セラという男は誤解される事が多い)ロイも、まあこいつもまずまずだと言えよう。
 しかし焼け落ちたミイス村からエンシャントに来る道中で、セラはこの少女が見た目通りではない事を実感していた。一筋縄じゃいかない、というやつだ。
 成る程確かに、見た目だけは儚げな雰囲気すら漂わせるか弱い少女。
 しかしロイの妹だけあって基本的な武術は心得ているらしく、片手剣を軽々と扱って見せた。更にこの三日ほどの道行きの間、自分は近い内魔術師になるつもりだとセラに宣言している。魔法でブイブイ言わせてやるぜ、と。
「おっと」
 あと一人で番が来る、という所で。
 横から無茶な入り方をした冒険者――見るからにガラの悪い、盗賊まがいのやつら――が、ニヤニヤ笑いを浮かべて少女の腕を掴んだ。
「お嬢ちゃん一人かい。え?こんな所になんの用だ?」
「……」
 ブッ、と鋭く空気が押し出される音がして、男の身体は後へ吹っ飛んだ。
 少女が腕を振り払った挙げ句、腰を落として手の平を前に突き出したのだ。
 半分身を起こしていたセラは再び壁に寄りかかった。

そう、あれは村を出発して最初の夜だった。
 夜半過ぎ、隣りで寝ていた筈の気配が失せているのに慌てて探し回った。
 親を亡くし、兄までも何処かへ消えてしまった哀れな我が身を嘆き悲しんでいるのか。
 面倒だが叱って連れ戻さねばならない――セラが森を分け入っていくと、少し離れた場所で太い木に少女が「どおりゃあああああ」と突進している姿を目撃したのだった。
「……なんなんだよ」
 腰を低く落としてひたすら張り手をかましている少女の頬には涙の跡。
 どうやら悲しみをぶつかり稽古にぶつけ、ぐっと堪えているらしい。
 察したセラは、哀れに思うよりも戦慄した。

 ロイ、お前は一体どういう育て方をしたんだ……

「ぐへえぇ!」
 そんな訳で、可憐な見かけに騙された男が吹き飛ばされる光景にもセラはそんなに驚きはしないのだった。



「次はどうすればいい?」
 登録を終えた少女は心なしかさっぱりした顔つきで、セラの元へ戻ってきた。
「……」
 なんとなく、色々な事がやるせなくなったセラは複雑な表情で出るぞ、と呟いた。周囲の冒険者から「なんだろう、あれは」という目で見られているのが分かった。俺が知るか。