シンと静まりかえった部屋に、水音が響く。ピチャ…ピチャ…ジュル、と吸い上げる音と、詰まったような呻き声。 熱くぬめる舌が後ろと前を行ったり来たりしている。考えていたのより、ずっととんでもない事をされてんじゃないか、いやこれはよくない。止めて欲しい。 ずるりと後ろに退く、一瞬だけ顔を上げて獄寺が睨んだ。ツナはひっと息をのむ。 同い年にしては迫力のありすぎるそれに本気で怯えたのだ。 「ごくでらく……ん…」 「なにもしなくていいですからね」 なにもしなくていいというのは、なにもするなという事だろうか。 口調の柔らかさとは裏腹に、目つきは鋭いままだ。彼の機嫌がいいのか悪いのかツナには判断がつかないでいる。 「う…」 じわじわと体に熱を起こされて、喉が震えた。 昨日と、今日と、また今日。今。3度目。 人に触られて、びくびく痙攣したようにひくついているみっともない裸の足を見るのは。 獄寺という男は意外に辛抱強く、また執拗に愛撫と質問責めにしてツナを追いつめた。もう、いい加減にして欲しい。悲鳴を上げる程に容赦ない快感と羞恥を与え、絶妙のタイミングで繰り返し問う。 "誰に" "何を" "どんなふうに" されたのか? 初めは口を噤んで首を振っていたツナも、言わぬ決意がじわじわと崩れる。あなたは悪くないんだと甘言囁かれる度に、ガードが一枚一枚はがされていく。 「いっかい………いっかい、だけ」 はっきり名を言った訳ではないが、既に獄寺は察しているのだろう。今は行為そのものの方に注意が行っているようで、しきりに恥ずかしいことを真顔で訊いてくるので困ってしまう。 「本当に?」 「ぅ……んっ…」 べちゃべちゃ、ぬるぬるする尻を固く骨ばった細い指が這い回る。始めは遠慮がちに探るだけだったそれが中へ入り込み、痛みを上手にすり抜けて、今や奇妙な感覚を腹に宿している。ずくんと熱く疼き、落ち着かない気分にさせる動き。 「とりあえず、信じます」 訳知り顔で笑うその顔は、悪辣な表情をしている時ほど良く栄える。 女子が騒ぐ気持ちも分からないでもない。 それはこの先を嫌な予感と、どうにかしてくれるかもしれないという僅かな期待で埋め尽くす。 力を持った一本がずるりと奥へ入り込んだ瞬間、ツナは唇を噛んで目を閉じた。 「いた…い…」 それを獄寺は、聞こえないふりをした。真正面から、自ら認めた主の両足を抱え上げ、すくうようにして自分の腰を入れる。 ぴたりとあてられたそれにヒッと息をのむと、いつの間にか鼻が触れるほど近い場所にあったその額からバラリと前髪が落ちツナの頬にかかった。彼の習慣と同じ、スモーキーなグレイ。地毛なのだろうか。派手じゃないのに、獄寺の容姿に色を添えている。 獄寺くんはカッコイイからもてるからうらやましい、と思うことはあった。 でも、こんな事をしたいんじゃない。これは友達同士の行為ではない。自分だけそうありたいと願っていたのか、もしそうなら一体何処で間違ったのか。 「それは、だめ…」 「10代目」 「無理だよ、ね、も、やめよう、よ…」 「だって俺」 ぐり、と先端が入り口を抉った。動きは鈍いが容赦がない。ツナは声を上げて後退ったが、腰をしっかり押さえ込まれて直動けなくなった。 狙い澄ましたかのようにずくずく、深い場所まで入ってくる。 「ひぃ……ぅ…った、ぁ」 「貴方、だけです、なんでもします、お願いだから俺のこと追い出さないで」 「やぁ…!抜い、てぇ………痛、いぃっ」 ぐちゅ、ぐちゅ、濡れた音を引きずって注挿される他人の熱が怖い。気持ち悪い。これはおかしい。 涙が出てきた。鼻がグズグズ鳴ってるし、腕に力が入らない。胸の上や腹をぴったり滑る皮膚の感触、熱っぽい目をして顔じゅうに、首や鎖骨や肩にまでキスの雨を降らす獄寺の唇の温度。声。 いいのかわるいのかだめなのかよろこんでるのか全部なのかツナは混乱する。 知らぬ間に意識が飛んでいた。 あー、スミが埃かぶってる。細く見えるのはクモの巣?いっぺん大掃除しなきゃ……… 暗い天井を睨みながらツナは脈絡のないことを考えていた。散々楽しいことをしたらしく、人が寝てる間に(衝撃のあまり意識がぶっ飛んだ!)勝手にベッドの半分を陣取って、腕で人をぐるぐる巻きにして、幸せそうにムニャムニャ言ってる獄寺の頭を肘でごつんとやりながら衝撃に響いた腰をさする。イテテ、イテテ。 さんざんコンチクショウと思っても、さっきまでの恐怖が周期的な腹痛の如く襲ってきても、目の前でニマニマしている間抜け面を見ると気が抜ける。 なんて酷い顔。 元が元だけにギャップが凄い。こっちばかり見慣れてたけど、実は相当に酷い。 なぐってやろうかなあ。 それでもあまりに無防備な寝顔があって、無意識に尖ったくちびるが音無くじゅうだいめ、などと呟くと、やる気が失せた。疲れてるしな。面倒だしな。 とりあえず。 明日、獄寺くんも含めてあいつらが揃ったらまとめて考えよう………などと疲労に負けたツナは安直な結論に至ったが、揃った後のこと、殴った後のこと、事情が知れ渡ってしまったら―――なんてことは、幼い彼には想定の範囲外だった。 |