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戦いの日々が始まった。
ベビーシッターのハルは事あるごとザンザスをライバル視し、勝手に勝負を仕掛けてきては勝った負けたと床をごろごろ転がっている。(掃除ならモップを使え)
尤も、あの赤ん坊とクソ坊主を腕に抱き、かわいいと言い放つ事が出来る時点でザンザスとしては負けをみとめても良いとさえ思っている。彼自身はほんの少しも思わないからだ。
任務ははかばかしくなかった。
子供達は皆反抗的で、特に上4人は手に負えない。長女長男は反抗期盛りのティーンエイジャー、次女はマイペース、次男は悪戯小僧。家の中外を破壊することにその存在の全てをかけているのではないか………
今日も今日とて不本意ながら、任務のせいで、この家の防犯対策を強化しようと思ったら突然長女長男の猛反発に会う。
「要らないよ」
不遜な態度で長男が吐き捨てた。
「自分の身くらい自分で守る。あなたは要らない」
「ですよねー」
爪を磨きながら長女が言った。
「まあ、庭ぐらいは貸してあげますけど?家の中まで入ってこられちゃ迷惑です」
クソガキの意見を聞くまでもなく、ザンザスはさっさと用事を済ませた。
暴れる一人一人の腕に発信器をつけさせたのだ。
皆相当に嫌がり、特に長男は暴れ狂ったのだが部屋を半壊させながらもどうにか押さえ込むことに成功した。
「いいか、てめえら良く聞きやがれ。オレはクソガキがくたばろうがどうってこたねぇが………オレの目の届く範囲でいなくなる事は許さねぇ。任務だからな」
「うるさいよ」
合間に長男がトンファーで殴りかかってきたが、ザンザスはなんなくいなした。
「親父のややっこしい性格を恨むんだな。機密を独自の方法で守ろうなんざ、一般人が生意気だ」
「貴方の事大嫌いですが、その点に関しては同意見ですよ」
長女がふっと爪先に息を吹きかけながら言った。
「おかげで僕ら、こんな事になってるんですから。あのクソ親父がさっさとくたばってくれてさあこれからって時に、まったく」
「ふん」
長男はソファーに足を組んで座る長女に、さっきまでザンザスを殴ろうとしていたトンファーを投げつけた。
どうやら長女は父親に何か含むところがありそうで………
長男は父親を慕っているのか。
関係図を頭に入れようとしたザンザスは、次の言葉に呆れた。
「あいつを殺るのは僕だ」
「だった、でしょ」
ひょいと避けてそんな口を叩く長女に、長男が今にも噛み付きそうな顔で迫る。
「あれが簡単にやられるもんか。鮫なんて素手で倒せるさ」
「数があったら逃げられないし。クフフ………楽しみですね、ママ早く帰ってこないかな………僕がいくらでも慰めてあげるのに」
「あっ、僕も僕もー」
それまでニコニコと修羅場を観察していた次男が、唐突に名乗りを上げた。
「っていうか、僕が。骸姉さんはその辺の電信柱でも慰めたらいいよ!変態だから丁度良いんじゃない?」
「………クフフ、言ってくれますね」
ザンザスは混乱した。
いったい此処の子供達はどうなっているのだ。
「勝負ですザンザスさん!お次はお台所の調味料入れを綺麗にする勝負!つまようじ使用可!」
混乱ついでにイラッとした。
そんなマニアックな勝負など受けたくない。
「…あれは死んでない。撤回しろ」
「君に何が出来るっていうんです?まだ○の○も生えてないくせに」
「毛じゃなくてテクニックだ!それに母さんはかわいい僕に弱いんだぞフフン」
「ツナ?ツナは??ツナァー!!」
「○△%×÷@#!」
「さあザンザスさんっ」
「うるせえぇぇぇぇっっっっっ!!!!!!!」
シーン。
静まりかえった居間で、ザンザスは剣呑にぎらりと目を光らせた。