ちんちろりん
八割八分五厘の確率で即断られるかと思っていたが、賭け事と聞いて相手の示した反応は予想外だった。
「何を賭ける」
「何? 何って…えー……普通はお金だよね」
「つまらん」
「ぐっ…そりゃそうか」
独立しているヴァリアーの資金は潤沢なのだ。
「なんだろう、うーん。欲しいものとか…え?」
わし、と唐突に腕を掴まれてビックリする。
「う、うでェ!?」
「……」
(負けたら腕一本つめろって事かよ!)
そんなトコロだけヤ○ザ並みなんて――
「ハンデ大きすぎる!」
「指」
「指も嫌だ痛いのはキライだ」
「うるせぇな。心臓に一発食らうか?」
「死んじゃうってソレ!」
そりゃあ…真のギャンブラーは命を賭けるとか言うが…
(それって単なるギャンブル狂いなだけだよな!)
遊びたいが命を賭けるまでいってない綱吉は、猛烈に反対した。
「大体それで負けたらどうするんだ。死ぬんだぞ」
「オレは負けねぇ」
(うわあ…ご大層な自信だな…)
初心者みたいなフリをして、実は大の得意とか?
怪しみながら綱吉は茶碗とサイコロを前に出した。
「とりあえず、振ろ。それから考えよう」
始めて二十分。
腹は引き攣れるように痛み、呼吸が乱れ苦しい。顔の筋肉を動かさないようにするのも限界だ。
(も、もうムリ…!)
限界だった。綱吉はひゅう、と大きく息を吸い、吐き出した。
「バフッ」
爆発的な笑いの発作に、もう八分ぐらいは襲われているところ、かろうじて堪える。
ちなみに始めの十分程は、説明に費やした時間だった。
吹きだした瞬間手で押さえたので、幸いにして相手には気付かれなかったようだ。仕方ない。何しろ…
ヘタクソなのだ。
(ココまで来ると可哀想な気がしてきたぞ)
ザンザスが賽を振り始めてから今に至るまで、茶碗から外れなかった事はない。
まー負けまくる負けまくる、ションベンの嵐だ。自分も此処まで酷くはない、それにしても…
(乱暴過ぎるんだよなー)
ザンザスは一投目から叩き付けるようにサイコロをぶっ込んだ。当然だが跳ね返り、三方に飛び散って役どころじゃない。此方も笑い出さないようにするのが精一杯である。
その度茶碗に三つ入れないとゲームにならないと教えるのだが、うるせえの一言でまた――
「お前の番だ」
「え?!」
見ると茶碗の底にきっちり三個、サイコロが貯まっている。
しかも目が出た。四か。
(奇跡だ!)
思わずパチパチと手を叩いた綱吉を、ザンザスはギロリと睨んだ。
顔は十分過ぎるほど強面だが、何故かあんまり怖くない。
「じゃあ、振るよ…」
チャリ、と小さな音を立ててサイコロが転がる。
流石にずーっと振っているので、ションベンの確率もかなり減った。綱吉は二のゾロ目を出し、アラシで勝った。
「やったー俺の勝ち!」
「あぁ?」
「三つとも全部同じ目だろ? これは三倍額」
「……」
「まーそう怒らないで。ハイ」
ブチ切れて暴れ出すかと思いきや、サイコロを渡すと案外あっさりと受け取った。
でかい手の中で転がして(転がし方だけは様になってきた)、振る。
「ションベンだ!」
幾ら大声で叫んでも、ザンザスは咎めない。
どうやら言葉自体を知らないらしく、初めて言った時にどういう意味だと聞かれたので「負けってことだよ」と適当に返しておいた。
(いいぞいいぞ)
他の皆のようにシーとかコラとかいい加減にしないと脳天ブチ割りますよ、という事にはならない。非常に良い気分だ。
(やっぱこうでなくちゃあ)
目の前ではまた必要以上に気合いを入れて振る素人の姿。
負けるのも楽しいが勝つのはもっと楽しい。綱吉はニヤニヤしながら勝負の成り行きを眺め、例の言葉を連発したのだった。
遠く微かに聞こえてくる鐘の音に、綱吉はがばりと顔を上げる。
「うわっ、もうこんな時間だ」
既に陽は沈み辺りは真っ暗。
熱中の余り煩く鳴る携帯も(自主的に)電話も(こっちはザンザス)線をぶっちぎってしまっていたので、実に静かで邪魔をされない時間を過ごすことが出来たのだ。
部屋も暗い。
デスク元のスイッチを弄ると、パパパッと素早く明かりが点く。
さて。
「よいしょ」
綱吉は改めて茶碗とサイコロの前に座り直した。全然止める気がない。
無言で寄越してくるのを受け取り、それ、だのえい、だの益々熱が上がる。
勝負になるか心配だったのだが、相手も腕を上げた。
最初のような失敗は少なくなり、役も揃うようになってきて形勢は五分五分…とまではいかないまでも、四分六分ぐらいまでは引っ張ってきている。
――これからが面白い所だ。
勢い込んで振ると、ポロリと一つ縁から飛んだ。
「あー! やっちゃった」
「ションベンだ」
「そーそー、ションベンションベンションベン」
連呼である。
「…繰り返すと人の名前っぽくなるなコレ」
「名前なのか」
「全然違うよ」
サイコロを振りやすいように二人はあぐらをかき、向かい合い、床に直接座っていた。
長時間続けるに従い、疲れてくるので番が来るまで寝転がったり、軽食をつまんだり、益々まったりとしてきてとても命を賭けた勝負には見えない。
それもその筈、ゲームに熱中する余り当初の目的を忘れているのである。
「うわあ、わあ、ああ!」
「オレの勝ちだ」
「チクショー、次だ次!」
その勝負は、応答が無いので心配し見に来た獄寺に発見されるまで、延々と続いたのだった。
2008.4.7 up
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