おつかい半日

 

子供の声がしている。
壁一枚隔てたレディースルームからだ。母親に手を洗ったかと聞かれて「洗ったー!」とやたら大声を出して答え、どたばたと戻っていく足音まで詳細に聞こえる。

平和だなあ。

普段血生臭い話題が聞こえるところにばかりつめていると、こんな些細な平穏がとてつもなく貴重に思えてくる。
例え自分が、ズボンと下着を足首にまとわりつかせたみっともない格好で知り合いの男に襲われていても、だ。
「あ、あ、あう」
「おまえほんとに………慣れてんじゃあ、ねえよな?」
「いや単に面倒臭いだけっ……」
冷たいタンクに縋って答えると、近い場所で嘆息が漏れた。片膝を便座に着けて、出来るだけ楽な体勢を探す。
「分からん………」
そんなの俺だって知らないよ。

熱の上がった体を余し気味だ。
やらしい動きで押しつけられる。
下生えの感触が尻に触れる。
ぼうとした思考で考える。
なんでこんな気持ちがいいんだ。

「がっつくなっての」
手の動きがトロくて苛々して、支え手一本で我慢する事にした。綱吉がのばした先には竿と玉を押しつけて弄る手があり、長い指があった。上から被せるようにして手を添えぐちゃぐちゃ動かす。
「あっ、あっ、あっ、」
強烈にキモチイイ自慰みたいな感覚で、出来る。
同性では恥じらうのも今更で、麻痺しきった感覚は必要最低限の常識すら捨てている。股の、腿の肉の間に挟んだ異物の事は務めて考えないようにして………
擦り、上げる。
「んんっ………」

近い近い。
久しぶりの感じ。

口が知らず笑みの形に吊り上がる。
「こんなしやがって………女切らして長いのか?」
「あー……と」
ヒーフーミーヨっと数えて、綱吉は唸る。
「半年?」
「かぁいそーに」
ぬるん。
濡れた指が唇に這った。
「きたねェッ……ぞ…」
「てめえのだろ」
シュク、シュク、チュクン。
濡れた音混じりに擬似的な挿入。
流石にこんな場所で流血の惨事になりたくなく、示し合わせたように二人は目と目を合わせて意見の一致を見た。
「うはぁっ……」
「ふ…」

びちゃびちゃと水面に落ちる二人分の体液を眺めながら。
舌を出してハッハ………

「犬みたいにっ…サカってて、バカ、みたい、だ」
「ン、」
ちゅる、と音を立ててキスをする間中、童顔28歳の顔は歪んでいる。





帰りは運転を代わった。ミニバンはオートマで、綱吉が宥め宥め使っている郡警お古のキャデラックやシボレーに比べれば楽なものだ。
「キライなんだよ」
しきりに唇を弄り回しながら言う。
文句を半分聞き流しながら、助手席の男はビールを開けた。
「あっ、ずりィ」
「運転中。前見て走れ」
言われた物と余計にビールを1ケース。その内の一本だ。
「キスが?」
「そ。なんか口ン中ぐちゃぐちゃ舐めあうのって気持ち悪くないだって他人だよ?セックスは嫌いじゃない。嫌いな奴なんているもんか。ただキスは好みじゃないってだけ」
「女と続かないワケだぜ………」
どんなんがイイだとか聞かれて、綱吉は少しばかり考えるそぶりを見せる。
「首のあたり撫でられるの好き」
「……犬?」
「はは、そーかもね。あんまりがつがつしてるのよりは、こうゆっくり、まったりと………」
「ジジババ並だなテメーの趣味」
「ちがう…」

冷たさが消えないうちに流し込み、缶は後ろに放り投げられた。

「ま、お次は希望も聞いてやろう」
「次があればね………」


2006.4.21 up


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