「10代目~!」
休み時間になるなりワンワンと側へやってきた獄寺に、ツナは微妙な眼差しを向けた。
「昼飯食いに行きましょう………ってなんですか?オレの顔になんかついてます?」
ツナの凝視にドギマギしながら獄寺は購買へ足を向けた。
ツナもそれに付き合いながら、見る。
見る。
まだまだ見る。

「な、なんでしょう………」
屋上の指定席に着いてもなお、見続けるツナにいつもと違う物を感じ取ったのだろう。
獄寺はパンを3口で食いながらもう一回聞いた。
固唾をのんで見守る獄寺に、弁当の卵焼きをぱくりとやったツナは、昨日ランボの悪戯で自分が10年後に行った話をしてしまった。
「ななななんとおぉぉ?!?」
「………」
その劇的な反応を見、獄寺に話してしまった事をツナは後悔する。
自分の右腕になるのが夢の友人だ。
いったいどんなボスになっているのですかとか既に未来の決定事項のように………
「10代目の10年後ってどんなでした?!さぞかし立派な…」
そら。
「だから………俺と10年後が入れ替わったんだから、見れるわけないじゃん」
「あ、そうか」
「リボーンに聞いてもニヤニヤ笑って答えてくんないし。かろうじて「お前も大変だな」って言うからどんな苦労してるんだ!って………不安に思っちゃったよ」
遊ばれているのである。
「ランボは「ツナおじさんだぞ!おじさん!ガハハ」なんて追い打ちかけてくるし………」
それは、5歳児から見たら24歳はおじさんだ。
「アホ牛の奴心底うぜーですね。果たします?」
「いらないです………」
「きっと10代目は10年後も激シブですよ!」
「はは、ありがとう」
苦笑うツナの曖昧な笑顔は、10年後も変わっていないかも知れない。
「それで………」
「うん。獄寺くんに会った」

ずべし!

勢い込んで続きを聞こうとした獄寺は、勢い余って前へ倒れ込んだ。
「お、オレ!」
「そう。なんか。こう、おっきい」
「そうですか………!」
身振り手振りで大きな獄寺を表すツナに、獄寺は何故か若干頬を赤らめ、期待しているように問う。
「ど、どうでしたオレ?!」
「うん、うん」
「で!」
「うん………」
ツナは顔を赤らめるどころか、複雑な表情だ。
「会うなり謝られた」
「???」
「喧嘩してたみたい」
「喧嘩………!そんな!オレと10代目が喧嘩なんて!!」
ありえねええええと絶叫しフェンスに駆け去りそうになる獄寺のシャツの裾を掴み、ツナは大らかに笑う。
「あはは、まあ、でも、獄寺くん謝ってばっかなんだもの。事情聞きそびれちゃった」
「そんなのオレが悪いに決まってます」
申し訳ありませんでしたァァァと土下座する獄寺は、未来の分まで謝罪する。
「すみません!もうしません!」
「そんな、俺が悪いのかもしれないし」
「有り得ませんっ」
「…変わらないなあ、君」
「ハイッ、すみません!」
「でもねえ」
ツナはフォローのつもりもあったし、そんなに深く考えて居なかったのだが―――…
「格好良かったよ、獄寺くん。多分色々あって大変なんだと思うけど、俺に言うでもなくさ。大人でさ………背中で語る?みたいな」
正しくは土下座している後頭部で語っていたのだが。
「わんわん泣いてたけど」
「………!」
「でもちょっと、格好良かった」
「………!!」





この事が切っ掛けで以後獄寺は「余計な事は言うまい俺は背中で語る」を信条とし生きていく。
黙して背中で語り、視線で語り。
巡り巡って自分の首を絞めていた事実に気付くのに後10年かかるのだが、未来への希望に満ちていた獄寺少年には知る由もなかった―――

2006.9.15 up


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