#
帰るなり玄関先スーツ姿で両手を着いて土下座している恋人という光景にヒバリは驚いたが、ほんの少し眉根を寄せただけにその反応は留まった。
「………何をしたの、浮気?殺すよ?」
「ヒバリさん」
がばりと顔を上げたツナは、青ざめた緊張の面もちだ。これはいよいよもって深刻だ。
どう問い質そうか責めようかとヒバリが思案していると、相手は全然予想外のことを言った。
「大事なお仕事があるのも、部下………もとい社員の皆さんがいるのも知ってます!でもあえて、あえてお願いしたいことがあるんです俺………俺と」
「は?」
「一緒にイタリアへ来てくださいっ!!!」
ずずいと差し出された指輪。
それを見て初めてヒバリは、最近のツナの奇行の理由が分かった。
貯金通帳を眺め、宝飾品カタログを見、ため息を吐く。(女みたいなマネ)
休みになればこそこそと出かけていく。(かえって気になる)
さりげなさを装って自分の指にメジャーを巻き付けようとする。(超不自然)
その全てがこの一瞬の為だったのだ。
ヒバリは納得し、頷いて、無言でそれを摘み上げた。
「はめてくれないの?」
「いいいいんですかっ?!」
「うん」
会社も社員も今後の人生設計もなにもかも一切合切無視した発言に、言ったツナの方が驚いてオロオロしている。
「あの、冗談じゃあ、ないんですよ。俺真剣で、イタリアって、旅行とかじゃなくて」
「前言ってたよね。遠い親戚の家業を手伝うとかなんとか」
「手伝うって言うか、継ぐっていうか」
「別にいいって言ってるだろ。ほら」
「ヒバリさん………」
じいん、と感動に目を潤ませながらツナは不器用に指輪をはめてあげた。
サイズを事前調査していたおかげでぴったりで、ジワリと感慨深い。
「嬉しいですヒバリさん、一生不自由させ………ないように努力します!」
「ま、せいぜい馬車馬のように働くがいいよ。ところで、何?その家業って。トマト農家?」
「だったら良かったんですけどね………」
2005.9.24 up
文章top
|