コトダマ
正に、力のせめぎ合いだった。
愛に生きる女―――もとい、男女間(に限らないらしい、なんてことだ!)の情愛を意志の力で操作できるビアンキと、忘却と睡眠を司るツナとの一騎打ち。
被害者は殺し屋の男だ。
彼は二人の毒電波を浴びてばったりその場へ倒れ込んだ。
「くっ………!」
「根性、ないわね、これじゃどっちが、効いたのか分からないじゃないの!」
「ふ、ふたり分………くらったら、フツーの人なら頭のネジぶっとんでるよ………」
力の消耗激しく、肩で息をする二人はほぼ同時に顔を見合わせ、言った。
「どうなるの?」
「わかんない」
「二人一気にはやったことないのよね」
「実験室でやるべきだったかな」
酷い。
ツナは固唾をのんで覚醒を見守っていた。
傍らにはビアンキが呼んできた最古の能力者達の一人がいる。
「なあリボーン、大丈夫かな」
「知らん」
彼は人の中に眠っている未知数の能力を開花させる言魂の持ち主で、ツナの師匠である。
強大な力の持ち主であるが………
「または、別にいい。もっとシンプルに言う。面倒だ」
究極の面倒くさがり、放任主義、テメエのケツはテメエで拭けタイプの能力者だった。
「そんな可哀想だよ折角仲間なのに………」
ツナは言魂のせいで色々苦労してきているので、仲間意識がとても強い。
ツナと喋った人間が片端から眠り込んだり、喋った内容を忘れたりするので、彼は今まで社会から微妙に隔たりを置いて生きてきたのだ。
それをこのリボーンに出会い、自分の能力を自覚し抑える事が出来るようになって、今までの失望だらけの人生観が一変した。それを、この昏々と眠っている男に一方的なシンパシーとして感じているらしい。
リボーンは厄介事を感じ取った彼らしい表情でツナを見下した。
「こいつが起きてからもそう言えるか?」
「ど、どういう意味………」
「フン」
「う………」
はっとしたツナが視線を戻す。男がギシギシ軋んでいるようなうめき声を上げ、目を覚ましたのだ。
「は、気が付いた!ねえ、大丈夫?具合悪い感じしない?」
「………………………」
ドゴッ。
ツナの顔面に拳がめり込んだ。
不機嫌な面もちで起きあがった男は、ギリギリとツナを睨み付けて立ち上がった。
「はひふふんへふは!」
「………………………」
ガシャアアアン。
自分が寝ていた簡易寝台を足で蹴倒した後。
ずかずかとツナの前に来てその頭を掴み、ぶらりと持ち上げる。
「ひっ」
どすっ、ごろごろごろ。
鳩尾に一撃を入れられ、完全沈黙したツナがごろごろと部屋の隅へ転がっていく。
その間中、冷静に観察していたリボーンはツナが完全に沈黙したあと、やおら口を開いた。
「随分気に入ったらしいが、程々にしてくれ。そいつはそいつで使い道があるからな」
「………」
「俺はお前の言魂もアリだと思うぜ。仕事に戻るなり、此処で食うなりなんなりしろや。そいつを連れてって気が済むなら一時はそれで良し、好きなようにしろ。ただし壊すなよ」
「………」
ずっと無言のまま、視線だけ返していた男は部屋の隅に転がっているツナを摘み上げ、肩に担いで出ていった。
「いいの?」
「いいさ」
「ツナ、殺されるんじゃないの」
「あーないないそれはない。お前の言魂がしっかり効いてる。上手く組み合わさっているようでな、多分力を使われたことも覚えていないだろう。実に自然な流れで………」
リボーンの鋭い目は男が理不尽な暴力を振るう間中、微かに頬を染めていた事を見逃さなかった。
「あれは照れ隠しだ」
「そう………」
「軽いスキンシップだ」
「ふーん………」
「ツナにはいいクスリだぜ。あれで変なモン拾ってくるクセも控えるだろう。どっちにしたってそのうち俺んトコ戻ってくるああめんどくせえ」
「あなたの言うとおりだわ、リボーン」
師匠はうっとりと頬を染めるビアンキを腕に縋らせたまま、スタスタと行ってしまった。
2006.7.14 up
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