この吐き気をのみこんでしまえば
事後のだるさを振り払うため、シャワーの温度は思いきり熱く。
最後に湯を一滴も入れない水で頭を打つ。バラバラに砕けていた思考が戻ってくる独特の感覚に知らず口元が歪む。痣と跡が笑い出したくなるほどたくさんついている貧相な体を捻り、鏡にもたれかかる。
汚れ一つ無く磨き上げられたそれにべったりと水滴がついた。
「あぁ………長かった」
4日半。
「顔色が悪いようですが」
「疲れてるだけ」
たったそれだけ離れてこうなのだから、万が一の時はどうするのかと思う。
様子を伺っている獄寺の、勘の良さ鋭さは折り紙付きだ。自分の下手な嘘では隠しきれないと判断し、早々に話題を切り替える。
「リボーンから聞いた。詳しく報告してくれる?実行部隊は君が率いていたんだろ?爆弾で吹っ飛ばしたの」
「そうしたいのは山々ですがね、目立ちすぎると止められました。大丈夫。アシがつくようなマネはしてません」
「上々」
「ドラム缶が3つばかり増えましたが問題はありません」
「一人残して置いてくれたかい?」
「ご命令通りに」
素早く車に乗り込むと、シートへもたれかかる。革の熱くもなく冷たくもない心地良い感触に沈み、詰めていた息を吐き出した。
一仕事終えた充足感と疲労と、高揚が胸を高鳴らせる。
「しかし………あの野郎の不始末を貴方がする事は無いでしょう」
「あの野郎じゃないよ。ディーノさんは」
「失礼しました」
窓の外の景色まで目新しい。
ああ、外は素晴らしい。
内緒話をするのに、常に高速で移動する車の中はうってつけだ。
獄寺の運転は彼の気性同様レースのように荒っぽいが、その気になればお抱え運転手も顔負けな腕も見せた。
「あの人にはくれぐれも内密に。余計なお喋りは謹んでよね。一応、大義があったって、俺が手を下したことには変わりないんだ」
「………は、い」
獄寺は納得しないだろう。
数ヶ月前にもかかわらず、ディーノの部下をやった感触は消えない。
それは彼の無条件の信頼が胸に痛いからだ。
彼の為とはいえ、裏切ったような罪悪感が残る。そんな仕事だった。
「彼が残したルートは全て潰して。家族には十分によくしてやってくれ………ああこれはリボーンも了承済み。今回のことはあくまで向こうさんの仕業だよ」
「はい」
「悲しいことだね。こういう仕事は気が滅入る」
「裏切り者の始末ってものはいつだって反吐が出る。嫌ですね」
正確には、違った。
これが他の組織の事ならば、もっと気は楽だった筈だ。
自分が引きずっているのはそれが敵と通じた裏切り者であれなんであれディーノの部下だったという一点だけなのだ。
「ま、それも今日で終わり。帰ったら寝よ…」
ふわあと大あくびをすると、バックミラー越しに獄寺の目が眇められた。
ヒヤリとする。
もし気付かれいたら。
内心の動揺を隠して微笑むと、戸惑ったように視線が外される。昔から照れたときのかわいらしい反応は変わらない。
「よくやってくれたね」
「いえ………当然の事、です」
ありがとう忠実なる君。
そして後始末が早く済むことを願おう。
駄目押しと確認の為に聞き出すことは色々ある。でもコツさえ掴めば簡単な仕事。
誰でも硫酸の缶に生きたまま漬けられる恐怖には耐えられないし、効率のいいやり方。
ゴミも出ないし、それはとてもクリーンだ。そう何も問題はない。
2005.10.6 up
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