ごぼごぼと嫌な音がしている。男は窒息寸前まで締め上げられ、既に股間を濡らしていた。 元々臆病なたちなのだ。女の死体を見ただけで震えだし、車に乗せるまでが一苦労だった。 「いいですよ」 必要な事は全て聞いた。 こうなってはのんきに休暇などと構えている暇はなく、一刻も早く帰国しなければならない。 合図と共に崩れ落ちた体を中に押し込め、ドアを閉める。油の強い匂い。 喫煙の習慣は無く、生憎と手元には何も無かった。 情けない面もちで隣を見やると、彼はたった今までの凶行が嘘のようにノーブルな横顔を晒しながら、手を丁寧に拭いていた。 「忘れたんですね」 「ごめんなさい」 勢いよくライターが鳴る。 バーナーのように強い炎が吹き出した。趣味の悪い装飾は見覚えがあり、彼の早業に感心する。どさくさに紛れてすりとったのだろう。本当に何でも出来る人間だ。 「行きましょうか」 彼は素早く手を取り、大股で歩き出す。放り投げられたライターの軌跡をぼんやりと追っていると、絶望と恐怖にまみれた視線とあった。 しかし、既に車へ着いていた。 爆発音。派手な花火。 何事かを叫んでいる口が真っ赤に燃え上がり、一瞬で消える。休暇は終わってしまった。 これ以上はない上首尾に終わった後も、憂鬱な気分は続いていた。 始末した男とは、外で何度も会っていたせいでもうこの町には戻れない。退屈で生臭かったが、静かで気に入っていた。 何より借りを作ってしまった訳だし、車は徐々に人気のない道を進んでいる。現場から離れるという意図以上に。 シートに深く腰掛け、目を閉じる。頬を切る風の感触が消え、次にライトが消え、静かに息が覆い被さって唇が触れてもまだ開けなかった。 だってこれは夢かもしれない。 目を開ければあのホテルの部屋で、怠惰な惰眠を貪っている最中かもしれなかった。 2005.10.25 up 文章top |