平行世界
ぽすん、と唐突に放り出されたような感触がして振り返る。
がらんとした廊下しかない。
本当に、廊下しかないのだ!
「ええええっ」
両脇にあるはずの部屋がない。あるいは、途中までで途切れて青空が見えている。ナースステーションは半壊状態で、エレベーター前にはバリケードだろうか………ベッドや椅子まで詰まれ混沌としている。
い、一体何が。
きょろきょろと辺りを見回すツナの背後から、ペターンと足音がした。反射で振り返る。
「あっ、あ!」
「もう鬼ごっこはお終いかい………?」
「ヒバリさん!!」
血まみれで、ボロボロだけれどもパジャマは木綿の黒。
薔薇の代わりにトンファーを持って背後にメラメラと炎を燃やし、瓦礫に足をかけて立つヒバリの姿を見たツナは。
「あああああ」
感激と安堵の余りその場にヘナヘナと座り込んだ。
「ヒ、ヒ、ヒ」
「命乞いなら無駄な事だけど」
「ヒバリさん………本当にあのヒバリさんですか!」
「………?」
ペタペタと病院スリッパの音を響かせながら歩いてくるヒバリの足下で、ツナはぶるぶると震えている。まさか今更許しを請うなんて真似を?
いやいや、ツナは泣いていた。
「ううっ………グス、ヒバリさん………」
「なんなの君は」
がすっ。
とりあえず一発殴った。
「………だから、なに」
ヒバリはたったそれだけのダメージで目を回し気絶しただらしのない姿に苛ついて、それから数度壁の方まで蹴飛ばしてみたがツナは目を覚まさなかった。
「あいててて………」
怪我が数倍になり、別室へ移されたツナ。
天井を見上げながら、ここ数日のアレコレに思いを馳せていた。
ツナがへんてこな世界へ行っていた間、あっちの世界のツナが入れ替わりに来ていたせいで、病院は半壊してしまった。
目を覚ましたヒバリと相対したむこうのツナは、嬉々として彼と戦っていたという。
一部始終を見ていたリボーンが、頃合いを計って様子を聞けば、ニヤリと笑って蹴りが飛んできたとか。
見舞いに来た獄寺がうっとおしいと言ってはぶん殴り、パシリに使っていたとか。
「ああ、これからどうしよう」
獄寺には謝った。彼は許してくれた………だけでなく、どこか陶然とした表情でツナを見つめていた為、それ以上深く聞くのはよしといた。
ヒバリは一発で目をまわしたツナに興味が失せ、とっとと退院してしまって―――
コンコン。
「はい」
「よっ」
「山本!」
見舞いに来てくれた山本は、いつも通りの山本だった。
看護婦さんの尻を目でおっかけたりもしないし、へらへらナンパな雰囲気など欠片もない。
ツナは本当に安心しながら礼を言い、恐る恐る数日の自分の様子を聞いてみた。
「ん?そーだなー………ちょっと変なカンジしたけど」
「う…」
「ツナはツナだろ?」
詳しく聞いてみると。
部の練習試合に顔を出したそのツナは、山本の活躍を嬉しそうに見ていったと言う。
ヒットを打てば手を叩いて喜び。
相手方の、デッドボールすれすれの投球にぶっちぎれて観客席を飛び出し野球部員に止められたり………
「ええーっ」
そんなご迷惑をおかけしていたとは露知らないツナはガクガクしたが、山本はおおらかに笑い飛ばした。
「結構熱いなーって、部の奴等とも話してたんだぜ」
「はは、ははは………」
悪い部分だけで無かったのだと思いたい。
とにかくひたすら山本に謝りつつ―――
見送りに廊下まで松葉杖をついて歩いていったツナは、聞き覚えのある声に振り向いた。
「いいじゃんちょっとくらい休憩しないと体もたないよー?」
「もう、センセイ!」
「オジサンのお膝に乗って乗って」
全身包帯でぐるぐる巻きの、重傷患者が負傷にもめげずナンパしている。
あきれ果てたツナがぽかんと口を開けてみていると、その顔がくるりと振り向いた。
「あーっ!」
「あー………」
ドクターシャマル。
ああ、良かった、女好きの方………
ツナがなまあったかい笑みを浮かべると、シャマルはぷんすかと怒りながら車いすを進めてきた。
「おい小僧!」
「はい?」
「はいじゃねーよ!」
会うなりボコボコにしてくれやがって!と怒るシャマル。
戸惑ったツナは隣の山本を見上げたが、彼は肩を竦めて言った。
「そうそう、ツナさ、保健のおっさんのことメタメタに殴ってた」
「………」
「この変態がとか目障りだ失せろ消えろ俺の半径5メートル以内に近寄るなっつって」
「………」
思わぬ所に弊害が。
「ったくよ!………あ!お嬢さーん!」
怒っていたかと思えば女を見て突進していくシャマルを見たツナは、反省もそこそこに部屋へとって返したのだった。
2006.4.27 up
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