ツナにすれば唐突な告白だが、ランボにしてみればこの3ヶ月悩みに悩んだ末の結論である。

珍しく女も漁らず、酒でリボーンに追い出された傷心を癒していたあの夜の相談相手は店のバーテンだった。これがまたステレオタイプのどうでもいいことしか言わないやつで、恋だの女だのの悩みと言うと大喜びであることないことご高説をぶってくれた。
「つまり―――あなたの場合はですね」
更に悪いことに、話はどんどん専門的になってくる。
とうとうエセくさい心理学の本を持ってあーだこーだと解説されても、ランボにはさっぱり理解できない。フロイトやユングも、重すぎる。これはたかが女癖の悪さの話の筈で………
「幼少期に満たされなかった愛情の欠損が」
いやそうでもないでしょ。
確かに5歳から単身日本に乗り込んで、リボーンを追いかけ回していたり、やたらめったら泣き喚いていたが、概ねあの日々は平和だった。だってあの時はツナん家があって、やさしいママンが居て、遊び相手もなんでもかんでもごったごたに詰まってた。
「女性を求める衝動に重なりを見せ、結果」
「ふわ〜あ」





「………で?それのどこからこのすっとんきょうな結論に達するわけ」
「どーしょーもない心理学おたくでしたが、一つ適切な単語を言ってくれました」
「なに」
「"トラウマ"ですよ」





安宿の汚れた天井を見上げながら、時には仕事中も、車窓から飛んでく景色を眺めている時でさえ。
ランボは自分の過去を静かにさかのぼっていった。色恋の記憶なのに、どこに行ってもなにを思い出してもこの宿題を出した当人が笑みを浮かべて隣に、向かいに座っている。





「なんだ人を幽霊みたいに」
「俺にとっちゃあまさに亡霊………四六時中張り付いてるんですからね」
「知らないよ!俺のせいじゃないよ!」
「ええ、ええ。それは分かってますあなたのせいじゃない。原因は俺自身だ」
「それも………なんかちょっとどうかと思うんだァ、うん」
ツナは、ハミガキ粉の味がする唇の端をちょっと舐めた。
「勘違いか気のせいじゃない?」
「希望的観測ですね。俺は決めたんだ、もう後戻りはできない」
「戻れー!ぜんっりょくで戻れー!」
またも距離を詰めてこようとするランボに、ツナはパニックを起こした。
しかしその手は枕下の拳銃ではなく、側にあったはたき(これがあると安心するのだ!)を掴んでシッシと振られた。
「ボンゴレ!」
「なんだよ!」
「往生際悪いですよ!」
「お前だよ!」
「俺の何が気に入らないんですか!?」
「気に入らないってか………」
おまえおとこじゃん。
ツナは引きつった笑顔でそう答える。極当然の答えを。
「考えてもみろよ。おまえは………ずっと小さい頃から面倒見てきたんだぞ?はなたらしてるのも拭いてやったし、っていうか勝手に俺の服で拭いてたなおまえ」
「………すいません、どうも」
「学校に来てわざわざおしっこもらした事もあったっけ」
「すいません!」
「なにかってーとリボーンに突っかかってさー。かないっこないのにアハハ」
「うぅ………グス」
そろそろまた泣き虫が起き出しそうな気配にツナは慌てて言葉をしめた。
「とにかくっ。そんなおまえを抱くなんて、犯罪以外のなにものでもないだろ!!」
「………は?」

パチクリ。

パチクリ。

ランボが二度瞬きする間、部屋の時計の秒針は4回動いた。
「誰が?何を?」
「だから俺が、おまえを」
「いや、いや、アハハ。なに言ってるんだこの人」
「えっ?」
「俺はネコなんてやりませんよ」
「あっ………オイ!俺だってやだよ男だもん。考えてもみろ!俺とおまえがくんずほぐれつ」
なんて気持ち悪くて、と続けようとしたツナはぽかんと口を開ける。
呆然とした。
「なんでおまえは前抑えてんだー!!!???」
「ちょっと卑猥な想像を」
「信じらんねえ!」

今度こそ、ツナは宙を飛んだ。
珍しく綺麗に決まった。勢いのある蹴りは見事、少々前屈み気味のランボの後頭部に炸裂し、それは床にぶっ倒れた。

「キャー!」
「どうしたァ!!!!」
悲鳴にかけつけたリボーンに、ツナは飛びついて抱きついた。
「おおおおれランボをけっ飛ばしちゃったよ!」
「なんだ、コイツか。じゃいいや」
「よくない!よくないですよ!」
「だって死なねえよ。ゴキブリ並みにしぶといぜ」
「でも跳び蹴りだったんだ!」
「ほぉー………」
で?
「なんでコイツが此処にいるんだ」
「………うーん」

ツナは悩んだ。
この、妙に綺麗な笑顔を浮かべ、手にショットガンを持ち、ガシャコンッとポンプアクションをかました殺し屋に、床でのびているかわいい弟分の突拍子もない言動の数々を報告してよいかどうか。

―――なんかやべえな。

「昔を思い出してリアルな格ゲーを」
「言い訳としちゃあ、−30点だ。俺は耳が良いんだよ」
ニヤリと悪辣な笑みを浮かべたリボーンは、迷うことなく床に落ちている、ウェーブのかかった頭に銃口を突き付けた。
「ツナ、一緒にカウントしろ。3、2、1」
「だめー!」

2005.10.24 up


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