#
見ている限り、リボーンはツナに対し特別な感情を抱いているように思えた。
自分に対する姿勢は時に敵意にも思えたし、このクールで理性的な男がこれほどまでに不快を露にすることなどない。
コロネロは自分の置かれた立場の複雑さにため息を吐いた。
「―――違う」
唐突な否定の言葉がリボーンの口から漏れ出た。
「なにが?」
「お前には言ってねえ。あっちで3年分の仕事でもしてろ」
「な、なんだよ」
「まずそのみっともない格好を着替えろ!」
怒鳴りつけられたツナは吹っ飛んでいって隣室に消えた。
残る二人は改めて椅子に腰をおろし、冷えた飲み物を手と手に向かい合った。
「率直に言ってお前の誤解はたまらない屈辱だ。直ぐに認識を改めろ」
「照れるなよ。祝福してやる」
「だから違う」
リボーンは心底嫌がっていた。
「最初から話すぜ」
リボーンとツナが知り合ったのは、彼がまだ1歳の時だった。
アンジェラスのツナは生まれて200歳を過ぎていた。と言っても、アンジェラス達は生まれて数百年は親とほぼ一緒である。肉体的には生まれた瞬間から分離しているが、精神は繋がっている。
文字通り、繋がっているのだ。
父親、もしくは母親との精神融合体で過ごすアンジェラス達は長い養育期間を経て一個の形成された精神を持つ。人類と接触した者達がその英知ゆえにあがめられ、宇宙全体でも強い権威と尊敬を集めている彼らにふさわしいだけの、成熟した精神を。
ツナは不運な子供だった。
宇宙旅行者であった両親が彼を連れて旅をしていた折、戦争の余波に巻き込まれて彼らの精神は裂かれてしまった。肉体もまた、滞在していた星の医療機関の手違いでぜんぜん別の避難所に送られてしまった。
当時行われていた戦争に人型種族は関与しておらず、その存在も多くのものは知らないでいた。どちらかというと物理世界でない部分で争いは行われていたのであり、人類は関われるほど発達していない。
アンジェラスのツナの外見が人類に酷似していたことも、事故の引き金となって彼は現地の医療スタッフの手により、両親とは別の避難所―――静止衛星に送られてしまったのだ。
其処にリボーンはいた。
いつまで経っても目覚めない一体に頭をひねる医師たちを尻目に、赤ん坊ながら優れた知能を持っていたリボーンは、ツナを一目でアンジェラスと見抜いた。
見事両親を探し出し、通信を試みたが、探し出すまでには実に4年もの歳月がかかってしまった。
その間中昏々と眠り続けたツナの肉体。
精神は広い宇宙空間をさまよい、親を呼ばわり続けていた。
4年後、リボーンの助力で両親と無事の再会を果たしたツナとその家族は恩人である彼に何度も礼を言い、何か困ったことがあったらいつでも言ってくれと熱心に推して旅立っていった………
のだが。
困った困ったと言って助けを求めてきたのは、彼らの方だった。
あれから13年の月日が流れ、18歳になったリボーンが日々の仕事に忙殺されていた、そんなある日。
潜伏していたホテルの一室へ、突然ワープをやらかした無作法者に銃を向けたら、それが顔見知りだったというわけだ。
ツナはちっとも変わらない外見で弱々しいなりをして、へらへらと笑いながら立っていたし、その両親もまたニコニコと能天気な笑いを浮かべて、唖然とするリボーンに挨拶をした。
そしていきなり、本題に入ったのだ。
「あのアホはまだ未熟なまま親と引き離されて、出来損ないになっちまった。脆く、不完全で、知力が足りず、情に流され、騙される。つまり人間並みにな」
「俺達は出来損ないかよ」
「種族の違いだ。成熟したアンジェラスは実際、どんな種族とも比べ物にならない―――まあそれはこの際脇に置いておけ」
カクテルグラスを揺らしたリボーンは、ふっと息を吐いた。
「両親共不完全な我が子を教育する術を持たなかった。彼らは精神が繋がっている状態で子育てをするのが基本だからだ。それで、人間である俺にそれを依頼してきた。人ならばそれが普通だから、慣れているという訳だ」
「お前、子守りにでも転職してたのか」
「笑えねえ」
苦虫を噛み潰したような顔。
「それで俺はあいつを教育した。実際、今も、これからもしていくつもりだ。引き受けた以上は最後までやらなきゃな………」
「分かった」
コロネロは理解した。
つまりリボーンのあれは、親が子を心配するそれだったのだろう。
「目下のところ、問題はお前だ」
「俺?」
やれやれ、というようにリボーンは首を振る。
「俺はまだあいつに性教育を施していない」
「十分だったと思うが」
口を滑らせたコロネロに、リボーンはなんとも言えない微妙な顔をした。
「…悪ィ」
「人間の性教育はな。教えなくてもガキってのは勝手に覚えてくもんだ…」
だが、あいつはアンジェラスだ。
「彼らには彼らの習慣があり、形式がある。あいつは知らないだろうが、アンジェラス達のそれは人間のそれに比べることも出来ないほどがんじがらめの制約だらけで、融通が利かん」
「具体的に言うと?」
「つがい―――と言ったろう。人間で言えば単純にオスメスが子供を作る、一時的な関係でもまあ問題は無いわけだ。だがアンジェラス達はもっと長い時を生きるし、一時の感情に流されてその度生殖を行っていたのでは、宇宙は奴らだらけになっちまう」
コロネロはなんとなく嫌な予感を覚えた。
「だから幼少時、成人時、数十年の周期でやってくる繁殖期というのは―――生殖期というよりつがいの相手を探すためのものだ。つがいが見つからなければ発情は発情に過ぎず、一人で子供を作ることは出来ない。宇宙中に広がっている彼らの精神波の中から互いに響きあうものを探し、肉体的には感応し合うフェロモンを探す。壮大なパートナー探しの旅を―――あいつは一瞬にして終わらせてしまった訳で」
リボーンもまた、同情的な視線を寄越した。
「お前はそれに適った。変更は出来ない」
「…つまり?」
「あいつが発情するのは一生涯お前のみ。もしくは、お前の側だな。彼らの生殖のメカニズムをもっと詳しく聞き出せれば、まだ方法はあるかもしれないが」
「…待て」
「だから極端な話あいつの子供を作ろうと思ったら、お前と、女と両方要る。お前で発情して女に種をつける、まあそんな慎みのない行為をアンジェラスの女が受け入れるかどうかは甚だ疑問だが」
「冗談じゃねえ!」
「そう、正に冗談じゃない」
二人は同時に頭を抱えた。
「おそらく、未熟な幼少期に来た第一期のシーズンだから、感覚器官が狂ったんだろう。でなければ地球人のお前に反応する訳はないし」
あの薬根のせいだ…
コロネロは、一瞬あの星を丸ごとクズにしてやりたい気になった。
あのくだらない習慣のせいだ、絶対。
「まして、男だぞ?女ならともかく」
其処まで言ってリボーンはずいと身を乗り出した。
「そうか、お前が女なら可能性はあるかもなあ。アンジェラスの肉体的生殖は驚くほど人間に似てるんだ。ただ、彼らはつがいに対して完璧に誠実で、発情してなきゃ受精も出来ない」
お前、女になる気はないかと問われてコロネロは憤死しそうになった。
「いくらテメーでも殺すぞ!」
「人間とアンジェラスの子供が出来るようになったら、これはまた宇宙の第一歩じゃねえか。偉大だよ、偉業だって」
「うるせええええ!!」
2006.5.24 up
文章top
|