こんな三蔵はイヤだスペシャル後編
悟空が少女を連れて広間に現れるなり、皆一様に視線を上げました。
かしずいている女達は顔色を変え、主の一大事におろおろしますが悟空が押さえているため手も足も出ません。
「―――君は?」
皆の中で一番に反応が良かったのは上座の三蔵でした。
なんとも珍しいことに自ら席を立ち、つかつかとやってきて牛魔王の鼻先3ミリまで顔を近づけて聞きます。
「ぎゅ、牛魔王です」
本能的に感じた恐怖のあまり、牛魔王はバカ正直に答えました。
「そうですか………なんとも可憐なお名前ですね」
「マジで?!」
驚きつっこむ牛魔王の小さな手を握り、三蔵はとっときのいい男笑いですっかりナンパ体勢に入っています。
「僕は近く世界を支配する予定の三蔵法師です」
「マジでえぇぇ!!!!」
本音がだだもれになっている三蔵。
迫られながらもつっこみに手抜きのない牛魔王を庇うように悟空は身を引き、渾身の力を込めて如意棒を振り下ろします。
ガイ〜ン。
一応、人間という名目の三蔵の頭は一万三千五百斤の重さの如意棒と斉天大聖孫悟空の打撃を跳ね返し、ちょっと眉を顰めるだけというリアクションを引き出しました。
「痛いですね」
「それだけ?!」
「ちょっと」
悟空は額に青筋をたてて牛魔王と三蔵の間に立ちはだかります。
「坊さんが口説くなよ。天竺へお経はどうすんの」
「洗脳はいつでもできます。彼は今口説かないと逃げます」
ある意味名言ですが、やっぱり本音がだだ漏れです。
そういう用途かよと悟空が合点いっていると、いつの間にかその腕から牛魔王を引っ張り出した三蔵が意気揚々と奥の寝室へ行こうとしていました。
「行かせるか!」
「邪魔しないでくださいセックスレスが!」
「それだと僕不能みたいじゃない。違うんだよ、牛魔王」
「その流れで俺に話をふらないでください!」
「単に性別がないだけでね、まあ仙人の秘術とか気合いで生やせるから安心しなよ」
「聞いてねえ―――!!」
頭を両手でかかえて叫んだ牛魔王の変化はすっかり解け、彼は小柄な、少年のような姿になっています。
しかし三蔵はまったく気にせず「いいですねえクフフこのラインが」などと良いながら腰を撫で、あまつさえ服の中に手を突っ込んでくるので牛魔王はヒイヒイ悲鳴を上げました。
「助けて、悟空さん!」
「少し待って」
「へ?」
「ほら生えた」
「見せるなああああああ!!!!!見せんでいいぃぃぃ!!!!!!」
「フッ、負けませんよ…!」
「あんたもかあああああ!!!!!」
牛魔王を挟んですっかり収拾がつかなくなったその状況を打破したのは悟空の一撃でも三蔵のスペシウム光線でもなく、
「何やってんだオメーら」
「わあああ!」
「くっ…!」
「………!」
夫のピンチに現れた羅刹女の、芭蕉扇一吹きでした。
「ったく情けねーヤツだな。甲斐性なし」
「うわあああん!」
ふわふわと浮いている羅刹女の足にしっかりとしがみつき、牛魔王はその影に隠れます。
「それになおまえら」
羅刹女は胸をそらし、腕を組み、ふんぞり返って言いました。
「デカさ競ってるようじゃまだまだだぜ。この俺のスーパーテクが毎晩コイツをヒイヒイ言わせてんだ、並の男じゃ欠片も勃たねえよ」
「何いってんだばかー!」
牛魔王は慌てて、良い笑顔で親指を立てている羅刹女の口を封じましたが、時既に遅しです。
「そーゆーことは外で喋るな!ふ、夫婦二人で話し合うべきだ!」
「そうだな、よし。体で語り合おう」
「違ううぅぅっ!」
ずるずると寝室に夫を引きずっていこうとする羅刹女。
「テクニックなら僕も自信があります」
キラキラと邪悪なオーラを漂わせながら三蔵が宣言すれば、
「くたばれ生臭坊主」
そこへ、悟空の一撃が舞い降ります。後はもう大混乱です!
「どーしてこーなるの………」
争いで全壊した豪邸の跡で、牛魔王は呆然と佇んでいました。
まだ遠くでカンキンコンキンドガバキブシュウウウーと争いの音は続いています。部下を避難させるのが精一杯だったので、あちこちに調度品やご馳走の皿などが散らばっている残骸のただ中で、可哀想な魔王はがっくりと肩を落とすのでした。
(余談ですがその後世間では、三蔵一行が牛魔王の誘惑をものともせずに追い払い、旅を再開したという話題でもちきりでした。
追い払われたどころか寝室に引きずり込まれそうになった牛魔王はため息を一つ、「世の中ってそんなもん」と諦めきった台詞を吐いてそれより先はひっそりと隠居生活を送ったそうです。めでたし、めでたし)
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