一つ屋根の下では…
綱吉は固まった。
「えー、あー、うー………」
「答えろ」
メラメラと殺気と怒気を立ち上らせながら、雲雀は血のついた武器を翳す。
「中に入りたいんです」
「………」
雲雀はもの凄い顔をした。
考えてみれば、あまりな答えだ。綱吉は慌てて彼を路地裏に引っ張り、事情を説明した。
「放っておけばいいじゃないか」
「でも何か理由がある筈なんです!そんな、昨日今日で趣味が変わるような人じゃありません!師匠は三国どころか世界一駄目な女好きの変態ですよ?!!?!」
どう聞いても悪口を、誇らしげに宣言した綱吉はあきれ顔の雲雀にショボンとして見せた。
「でもここは………一人で入ると人が着くでしょう?」
店専属の男(プロたち)を相手に渡り合う度胸も技能もない。
「二人で入ればいいだろ」
その場合、部屋代だけの連れ込み宿になる。料金もオトクだが………ってそんな問題じゃない、と言おうとした綱吉は、手を掴まれグイと引かれて通りに出ていた。
「行くよ」
「ええええ―――っ??!」
「何」
「いやそれはマズイですよ!!」
雲雀はこの辺り一帯を取り仕切る、警察署長代理である。(代理なのはトップが彼の不始末=暴走の責任を取らされ、次々クビになっていくシステムだから)手入れの際は必ず先陣を切って大暴れしているし、また気に入らない相手を即ボコボコにする事でも有名な、有名人だ。
こんな場末の陰間茶屋に男と二人で入ったら、明日にはきっと町中の誰もが噂している。
「僕と入るのが嫌だって言うのかい?」
「そういう問題じゃなくてですねええと面子というか世間体というか」
「フン」
そんなものは力づくで黙らせる、と言い切った雲雀を綱吉はぽかんと見上げ、唸った。
いつもは通りすがりに人を殴るのが趣味みたいな人だけど、なんかちょっとカッコイイ。
「ひ、ひばりさん」
よろしくお願いします―――
そう言って深々と頭を下げた綱吉の態度が、更に通行人の誤解を深めたことは言うまでもない。
雲雀は堂々と店ののれんを払いのけると、もじもじしている綱吉の腕を引っ張って
中へ入った。
どう見ても見回り中、目を付けた市民を無理矢理×××する図であるが、誰も雲雀を怖がって注意するものはいない。
そういえば余所では警察や憲兵が国家の権力を笠に着て、女を好きにしたり店の売り上げにたかったりと不整の噂が聞こえてくる。
しかし雲雀は恐ろしい人物だが、そういう行為とは無縁だった。彼にとって国家やお役目はタテマエに過ぎず、そんなものを笠に着なくとも自分で十分偉いのである。
慣れた様子で部屋を取り、案内を一睨みで追い払うと、雲雀はドカドカと派手な足音を立てて廊下を歩いた。
「………」
そこかしこで色街特有の、喘ぎや物音、ぼそぼそと囁かれる低い睦言などが溢れていた。
普通と違うのは声音に女の高い声が混じっていない事で、それさえなければ同じである。
どっちにしたって恥ずかしいと綱吉が頬を染めて手を引かれていくと、通りすがりの店付きや客、雑用のジジイなどが口をあんぐり開けて立ち止まる。
「ひ、雲雀さん雲雀さん」
「なんだうるさいな」
「もしかしなくても目立ってませんか俺達」
「ああ、そうだろうね」
明日の号外は決まりだねと流す雲雀は、まるで平気なようだ。
「一々気にしていられるか」
「でも、でも」
「ごちゃごちゃ煩い」
「わあっ」
雲雀は足の鈍る綱吉を抱え、ずかずかと歩き出した。
「ひえー!」
「うるさい」
更に誤解を招く体勢である。
ずり落ちないよう綱吉が必死になってしがみつくので、更に更にとうとう決定打になってしまった。
動物的勘で奥の部屋まで辿り着いた雲雀は、些かの躊躇いもなくスパパパパーンと襖を開け放った。
「うわあっっ」
「なんだなんだ?!?」
案の定、其処には師のシャマルが居た。綱吉は思わず息を飲む。
「ドクター………そんな、本当に」
「いやどっちかってーと俺はお前に聞きたいぞそれ」
シャマルは着物の裾をはだけた男の手を取って身を乗り出していたのである。
対する弟子の方はと言うと、雲雀に抱えられているから良い勝負だ。
「分かりました………ドクターが選んだ方です、俺は何も言わずお迎えします奥様」
「ハァ?」
裾を正し、正座した男はクスクスと笑いながら口元を袖で覆った。
仕草の一つにも女らしさが溢れており、容貌も美しく整っている。中性的な雰囲気の男だった。
「え、それじゃ………」
「朱鷺和屋のねーちゃん達が西洋の医術で、男を女にする方法がないかなんて言いやがるから、酒の勢いでできないこともないとか言っちゃったんだよオレは」
「ドクター………」
「そりゃ、外見的にはそう見せることも出来る。にしたっておそろしく手間がかかるし、苦労もするし痛えし―――失敗すりゃ死ぬ。病気でもねえ健康な体弄って危ねえ目に遭わせるのはオレの趣味じゃねえや」
シャマルは腕利きの―――産婦人科医である。
「今日は直接、説得に来た。それだけだ」
「そうだったんですか」
すみません、私が無理を言って―――と頭を下げる男に、綱吉も慌てて下げ返す。
「お騒がせしてすみません。あの、直ぐ帰りますから、ドクターとお話の続きを」
「もうふんぎりが尽きました」
優しいお医者様を嫌な目に遭わせたくはないですからと微笑む男の視線の先で、シャマルは居心地悪そうに身じろぎした。
「馬鹿だね」
帰り道、雲雀がぽつりと言った。
「それだけ真剣なんじゃないでしょうか」
「そっちじゃないよ。あの駄目医者の方」
「ドクターですか?」
「女好きなんだろ?」
「そりゃもう」
「そのくせ、男に優しくしてどうするんだか。苦労するよ、後で」
「???」
まだお子様の綱吉は分からず首を捻ったが、雲雀は説明する親切さを持ち合わせていない。
どんどん歩調を早めてしまう彼に追いつこうと、綱吉は小走りになった。
2006.7.2 up
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