※皆さん揃って人外設定です

 

 ツナは犬が好きである。
 といっても大きな犬、吠える犬は苦手。もちろん凶暴なやつもパスだ。飼い主言うことをよくきいて、利口で、大人しい―――…

「………」
「………」

 握った鎖は特注で、表面は合金だが中に銀が編みこんである。素人のツナには分からないが、然るべき神職者に祝福された銀は聖なる金属であり、闇の眷属の力を抑えるという。
 鎖から繋がっている首輪も同じ仕様だ。
 いや、実際カッコイイんじゃないの?
 なんかわけのわからない文様は刻まれているし、着けている本人はハアハア息が荒くなっているけれど、デザインはなかなかだと思う。
 バチリと視線が正面で合い、ツナは竦みあがった。ひい、と情けない悲鳴が上がる。
 その様子に男は苛立ったような様子で、凶悪な表情が更に恐怖を煽る。元々強面のヤクザ面なのでかなり怖い。問答無用で怖い。

 な〜んでこんなのに勝っちゃったんだろーなー…

 そうなのだ。
 ツナはこの、イタリアから来たマフィアの暗殺部隊首領とガチで戦って勝利してしまったのである。
 ザンザスはライカンスロープで、ツナは吸血鬼の血を引いている。どちらがボンゴレのボスに相応しいかバトルで決め―――決まった。
 なんと当初の予想に反しツナが勝ってしまったのだ。
(や〜だな〜〜〜)
 最初、ツナは父方の吸血鬼の力でなく、母方の血筋である妖怪・座敷わらしに変じた。
 当然座敷わらしでは戦いにならず、二度目ぶつかった時は吸血鬼になって戦った。
 ツナは覚えていないのだが、バトル前自分はなにかとんでもない啖呵をきったらしい。
 リボーンにズガンと撃たれ、吸血鬼として目覚めるともうツナは普段の意識を失い、性格も変わってしまう。
 こうして元のツナに戻ると、なにをやったも言ったも覚えてない。
「…何見てんだテメエ」
「ヒィィッ!ごめんなさいぃぃ〜!」
 ぎろり、と睨まれてツナの腰が抜けた。
 鎖がジャラリと音を立てて落ちる、寸前、慌てて拾い上げてぎゅっと握る。離せば即襲われるぜと恐ろしい忠告を受けている為である。
『これは特製の首輪だ。銀はライカンスロープの弱点だからな、変身を防ぎ、力も抑える』
「それをどーしろって言うんだよぉぉ〜!」
 しかし話によると自分はこの恐ろしげな顔をしたライカンスロープに『勝ったらお前を飼ってやる』などという暴言を吐いたらしい。

 責任は取れません―――じゃ、まずいよなぁ………
 今更「俺の会心の出来ダジャレ、どうだった?」と誤魔化せる訳もないだろうし………それメチャクチャつまんないし。

 宣言どおり勝ってしまった為、この男は首輪と鎖をつけられツナの部屋に届けられた。
 ツナの言うことなら何事でもマトモにとってしまう自称未来の右腕の仕業である。リボーンの入れ知恵も少しは。
 
 戦いで酷い傷を負っていたのに、2、3日で治ってしまったようだ。意識という枷を外したツナがあれだけボッコボコに痛めつけたというのに―――目に見える傷はほぼふさがり、うっすらと痕が残るだけになっている。
 丈夫そうな体つきをしているが、ライカンスロープは何か人間と違うのだろうか。
 ツナはビクつきながら恐る恐る移動し、マンガだらけの本棚を探った。
 そっと取り出したのは小学校時、初めて自分から希望して買ったマンガ本じゃない本である。フルカラーの表紙は色あせ、中の紙は黄ばんで落書きだらけだが覚えるほどに読んでいた。題名は、
 『よい犬の飼い方』。

 中を開くとヘタクソな字で『さわだつなよし』と書いてある。
 第一章。まずは犬と仲良くなりましょう…
 ツナは順を追って読んでいく。小学生用に大きな字で読みやすい。
 犬と仲良くなるには………動物と仲良くなる基本はおいしい餌をあげること。慣れてきたら、大好きな散歩に連れて行ってあげましょう、犬は毎日運動させなければなりません………
「運動………」
 ツナは運動が苦手だ。犬の散歩なんて面倒はイヤだ。
 しかしこの犬は………機嫌を損ねれば命の危険がある。
 散歩かあ、なんてぶつぶつやりながらチラリ見ると、ものすごく眉間にシワが寄った状態でツナを睨んでいる。
「………な、なんですか?」
 ザンザスはツナの手元の本を一瞥し、更に険しい表情をした。
「テメエ、オレをなんだと思ってやがる」
「え………あの、アレでしょ?ライカンスロープとかって………」
「で?」
「だから、その、犬のおっきいやつ」
 ―――違う。
 ライカンスロープは獣人、月の満ち欠けにバイオリズムを左右され、多くは満月の夜に属する種の動物に変じる一族のことである。
 特にザンザスは狼男に分類される。狼と犬では色々違う。主に凶暴さとか。
 ツナは吸血鬼も新米なのでそういった知識は皆無と言って良かった。
 ザンザスは目を剥いてこの無礼なやつを睨み付けたが、ツナの反応は更にその逆を行った。
「わかった!分かりました!すぐ行ってきます!」
「ハァ?」
「銘柄は何がお好みでしょうか!よ、良くは知らないんですけど」
「何の話だ!」
「え、ドッグフード…」
「ふざけんじゃねえ!」



 残念ながら犬を飼うという長年の夢は叶いそうに無い。
 ツナは夕食の席でため息を吐いた。この犬(犬というとものすごく怒る)はドッグフードも食べないし、散歩も行かないらしいし、何より懐きやしない。
 今、彼の向かいでずずずと味噌汁を啜り、肉団子を突き刺しているこいつ。
 ツナを顎で使い、風呂も一番先に使うし、夜寝るときの犬小屋を買いに行く話をしたらテーブルを引っくり返された。なんとも凶暴である。
「どーするんだよったく………」
 そのくせリボーンに「お引取り願いたいんですが」と申し出たところ「テメーが自分で言ったんじゃねーか。最後まで責任もって面倒みなさいね」といわれる始末。まったく。吸血鬼の自分を恨みたくなる。
 狭い部屋でグルルと唸っているその大きな犬は、寝支度を始めたツナを完全無視である。
 仕方ないのでベッドを整えると、ツナは押入れからもう一組布団を出した。布団の中にもそもそ入り、握った鎖を放り出す。いつまでもこんな重いのは持ってられない。
「………」
 部屋の中央にでんと座ったザンザスは布団に入ったツナを見てぶっきらぼうに言った。
「何やってんだよ」
「何って、寝ようと………寝ます」
 あなたも適当に寝てくださいと言い残し、ツナは布団の中にもぐってしまう。
 ザンザスは窮屈そうに首輪を弄ると、思いっきり仏頂面で、布団ごとツナをベッドに放り投げた。
「わぁーっ!」
「テメエが御主人様だろうが」
「―――!」
 一度ついた勝負だと乱暴に言うと、ドスンとベッド脇に腰を下ろしてしまう。
「でも…」
「うるせえ」
「せめて布団…」
「いらねぇ」
「………」

 そういうわけには。
 ツナだって困ってしまう。友人ではない、親しくも無い。むしろ敵という相手にどう接したらいいかなど分からない。
 とりあえず、家に招いた以上床で寝せるわけにはいかないし。
 ご主人様ならなおのこと、いいようにしてやらねばなるまい。

「はい、どうぞ」
「ぁあ?」
 くるりと振り向いた怖い顔が固まった。
 ツナは一瞬目を逸らしかけたが、『飼い主として、犬には堂々とした態度で接しましょう』という一文を思い出し留まる。
「寒いから早く入ってくれる?」
「………バカじゃねえのか」
 布団を腕で支え、コチラへどうぞと示したツナに心底呆れたというようなため息がふってきた。
 なんでもいいから早くして欲しい。そろそろ腕が痺れてきたのだが。


2007.4.9 up


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