新しいクラスになったからと言って、特に変わったことはない。最近俺の周りを騒がせているメンバーは今日も今日とていつも通りに厄介事を引き起こすし、それをなだめながら流されながらの日々も同じで。違うと言えばそれに新しい顔が混じったぐらいの。 だけど考えてみればこんな俺がチンタラ生きてきたこの十年ちょっとの間で最近は一番に濃い時間を過ごしていると自信が満々あって、黒服との完全装備の赤ん坊が家庭教師と称して家にむしろ部屋に居座ったりそれに呼ばれた人間爆撃機がダイナマイトの雨を降らせたり憧れていたクラスメイトと友達に慣れたり色々々々あるわけでそんな中で、 ぶっちぎりで、 今が一番濃いのかもしんないと思いながら俺は股の間で動く他人様の手を見つめていた。 幼稚園でつなよしちゃんと呼ばれていた以来のちゃん付けに戸惑いながら振り返れば、その日も朝からクラスを騒いで引っかき回して空回りまくってまだまだ上機嫌ハイテンションのロンシャンが、沢田ちゃんだ沢田ちゃんだと人の名前を連呼して突進してきた。 ツナはどうひいき目に見ても運動神経の発達したタイプではなく、これが山本あたりならひらりとかわすことも出来ただろうに真正面からそのアタックをくらい、頭をクラクラさせながら……なに? と少しばかり低い声で言ってみた。 「一緒にかえろ!」 それだけの為に君は100Mも後ろから俺の名前を連呼して幼児の如く抱きついてきたのか?! 相手のハイテンションについていけず、ツナはじじむさくため息をついた。しかしそのあからさまに面倒がっているリアクションにもめげることなく………というか、気付くことなく、ロンシャンはツナの手を勝手に掴んで歩き出した。ルンルンと鼻歌まで歌ってやたら上機嫌だ。 「沢田ちゃん、オレんチ来る?行く?じゃあ行こっか!」 「えっ、ちょっと、待ってよそんな急に…」 「ねー何して遊ぶ?」 聞いてない。聞いてないよこの人。 ツナの手をぶんぶん振り回しながらロンシャンはすたすたと先を歩いていく。嫌だとか帰るという答えはきっと聞こえないのに違いない、えへえへとファンキーな笑いを浮かべ子供のように無邪気な様子だ。獄寺とイイ勝負の個性的なファッションが妙にしっくり合っている。ちょっとついていけないけどおおむねいい人かもしれないついていけないけど!いかないけど! そんな感じでツナはずるずる混沌としたロンシャンの部屋に引きずられていく。場所が変わっても中身は基本的に変わっていない、酷く散らかしたというより物に埋もれて床が見えないのだ。ツナは呆然とする。周囲を見渡し、とりあえず近場の物を行儀悪く蹴り飛ばして(そういう事をしてもいい雰囲気がこの部屋にはある!)其処に座り、かばんを横に置いた。 「なに、なに、なに?」 「ちょっ、別にっ………見てただけだよ」 壁には例のカモフラが貼ってあり、かわいらしい笑顔を見せている。笑い方がちょっとだけ京子ちゃんに似てるな…なんて思ってぼーっとしてたら、ロンシャンは目敏く見つけてつっこんできた。ツナは困る。こういう時、困る。アイドルの笑顔と好きな子の笑顔を重ねて見て頬を染めるような人に不慣れな初心者はぐいぐいと押してくるクラスメイトの体温にさえ戸惑ってしまうのだ。別に他意はなくとも! 「わ、沢田ちゃんどきどきしてるー」 「するよ!近いし!」 「なんでどきどきしたの?てかこーゆーの好みなんだ沢田ちゃんはっ」 「そっちは見てただけっつったろ!?離れろよ!」 人と触れ合うのは苦手だ。 いじめられるとか小突かれるとかじゃないかぎり他人に身体を触られる経験なんてツナは圧倒的に少なかった。最近はそれでもよく山本なんかが腕を取ったり肩を組んだりしてくるから慣れたけれどそれとこれとはまた話が違うような気もする。ロンシャンは好奇心いっぱいのきらきらした目でいて、額と額がくっつくぐらい近い距離で沢田ちゃん、と呼ぶのだ。 「なんかオレもどきどきしてきちゃった」 ウソ何言っちゃってんのキミ―――?!?!? 言葉にならないままぱくぱくと口だけが開閉するツナの前から、しかしロンシャンはあっさり退いてジュース飲む?なんて聞いてくる。行動に脈絡も秩序もない。まさにアトランダム、予測が付かないので対処のしようがない。 ただでさえツナは不意打ちや意表を突く行動に弱いのに。 「い、いただきます…」 甘いにおいのする炭酸飲料をごくりと一口頂くと、予想に反してそれはひんやり冷えていて美味しかった。ごくごくと喉を鳴らして飲む、ツナの、やっぱり正面からロンシャンはじーっと見ていて、 「沢田ちゃんもオナニーとかすんの?」 「ぶふはぁっ!」 思いっきり飲んでいたので、思いっきり口の中にジュースを入れていたもので、それはそれは盛大な噴水がツナの口から横に吹き上がった。べしゃりとロンシャンの胸元にかかり、甘ったるい人工甘味料のにおいとシミが広がる。 言われた言葉も忘れてごめん、ごめん、一生懸命謝るツナの手からペットボトルがこぼれ落ちた。 「いいんだよ、あのね、ごめんね、なんだか沢田ちゃんがジュース飲んだりしてるの見たらちょっと思い浮かんじゃって」 「思い浮かべるなああああああ!!!」 ロンシャンは汚れた服やどばどば流れ出しているペットボトルとその中身と床の惨状など全然目に入っていない様子でわたわたとツナに構っている。そんな場合じゃない、っていうか何言ってんだ、訳わかんないしどうしてそんなにじっと目を見てくるのかも分からない。ツナはますます困る。 「うんごめんね」 怒ったらいいのか慌てたらいいのか床をふいたらいいのか。 とりあえず近場にあったティッシュの箱を掴んでわしわしむしる。べちゃっと濡れた感触がきもちわるい、また枚数を重ねようとのばした手を横から掴まれた。 「沢田ちゃんも濡れてるじゃん」 「ロンシャンも、あ、ごめん俺が」 「脱いじゃえばいいか」 なんでもないことのように言ってロンシャンの手がツナのベルトにかかったので部屋に絶叫が響き渡った。 「だってホラここも濡れてるし」 「いいよそこは外さないで! っつか下げないで! ギャーッ」 「男の子同士だから大丈夫〜」 確信犯なら。 相当の手腕だとツナは場違いに感心した。ロンシャンは他人の、クラスメイトの男のズボンを下ろすのも下着を下ろすのにもまるで自分の着替えのように躊躇せず堂々としていて、思わず抵抗を忘れてしまった。 頭が完全にショートしたツナに正面から寄り添ってロンシャンは小さな声で呟いた。ねえ沢田ちゃん、するの、どうやってするの、教えて? それを、何して遊ぶのかと聞いたときと同じように無邪気な様子で言うのだ。オレ見たいな、してみせてよとなんでもないように言うのだ。なんてことを。とんでもない! 「ぁ―――っ…」 やだよ、離してよ、と恥ずかしげに伏せられた目と小さな声。拒絶は拒絶でなかった。 ロンシャンは最初、正面からソレを弄っていたが、どうにもうまくいかなかったらしく小柄なツナの身体を後ろから抱き込む形にして落ち着いた。満面の笑みで、やっぱり向きがさあ、なんて呟く口元が耳の側でむごむごと動いて、手は案外器用にツナのものを擦り、扱き上げる。 「オレ以外のってなんか刺激的ー」 すごーい、とばかみたいに感心するロンシャンの胸や肩にもたれかかりツナは荒い息をついていた。 元々自分ですることも少ない。家にリボーンが来て、一緒の部屋に寝ている今は余計に。 AVや本を貸し借りするような友達はいないし、買いに行くのも恥ずかしい。つたない知識とイメージでしか無い未知の世界に、よりによって引きずり込んでくれたのがクラスメイトしかも男。 そうだよな。 ロンシャン、変なの。俺だったらクラスメイトの○○○なんて絶対さわりたくないし、 くっつくのもヤダし、第一き も ち わ る い んだよ。 「ふぅ…ぁ…」 って俺何て声出してんの―――?!!??! ツナの意志とは無関係に、体温はどんどん上がっていく。頭がガンガンする。心臓のどくどくが、頭のてっぺんから爪先まで浸透してそれだけになっていく。 「沢田ちゃん、ね、きもちいい?」 「うぅ、んっ、く、」 「イっちゃう?ここ、びくびくしてる、出ちゃいそうなんだよこれ、ね」 「いや、だぁっ………ああっ!」 ロンシャンは嬉しそうに笑ってた。 ツナは、びくびく跳ね上がりながら精液をまきちらすみっともない自分に耐えられずぎゅっと目を瞑る。いやだもう知らないロンシャンのバカ。呟くとごめんねぇと意味のない空っぽの返事が降ってきた。 ごめん。 ごめん。 沢田ちゃん泣かないで。 明日学校で顔会わせて普通でいられる自信が、ツナにはなかった。 |