沢田ちゃんおはよーっ!!!!!

 なんであんなことした後にそんな笑顔で特攻かけてこれるのか。
 ツナはいつもより倍もひきつった顔で彼に似合わず素早くそれをよけ、次の瞬間には思い切りダッシュして席へ着いた。ねばってねばってギリギリに登校したせいでタイミング最高で教師がやってきて、内藤、席に着け!と厳しい声が飛んだ。
 良かった。
 ロンシャンはつまらなそうにぶうぶうと文句を言いつつも、落ち着き無くキョロキョロ視線を動かす。ガタガタと机を揺らす。一秒だってじっとしてられないのだ。
 ツナは努めてそちらへ視線をやらないようにしていたが、実は気になって仕方がなかった。気配を伺っている、その緊張した背中を見つめていたのは二対の視線で。

 一つはいつも通り10代目ったら素晴らしい神々しいと崇拝すら含んだ熱い暑い眼差し。
 一つはいつもと様子が違わねー?と鋭い洞察力を発揮した………





「なーツナ」
 誰よりも早くその事を聞いたのは、山本武その人だった。
 彼はツナの絶大な信頼を得ている数少ない人物で、その人当たりの良さ、雰囲気の爽やかさと、憎めないお茶目さんでクラス内学年内で絶大な人気を誇っている。
 山本ってかっこいいけど野球してる山本ってさらにちょうかっこいい。
 この認識は男女に共通する。最近よくつるむ獄寺もかっこいいと言われている人種だが、それは女子に限定される。彼の柄の悪い態度は同性に恐怖と威圧しか与えず、彼自身もまたそれを望んでいるからだ。唯一例外を除いて。
「な、なあに山本」
 それはココに居るツナだった。獄寺はツナに忠誠を誓っている。その忠誠は時々行き過ぎる。ツナは彼により一層の恐怖を感じていく。
 しかし今、獄寺はいなかった。従って、ツナは自分の目の前で覆い被さるように覗き込んでくる山本の顔のドアップが、あーやっぱ山本かっこいいよーうらやましいよーせめて俺もこれぐらいでかくなりたいなあ、そんな感想を抱いていた。
 恐怖など何処にもなかった。
「お前今日おかしくね?」
「そん、なこと、ないけど」
「なんかなー。背筋がキンチョーしまくってんだよ」
 ツツウ、と山本の指がツナの背中をなぞった。びくーんと跳ね上がったそれを面白がるように更に上下に撫で、山本は笑った。
「悩みがあったら相談に乗るぜ。ツナには世話になったし」
「そんなことしてないよ」
「ツーナ」
 にこー、と笑った顔がこうまで心にさしこんでこなければ、ツナはくるりと回れ右をしてクラスの喧噪に戻ったろう。
 けれど全ての心のシールドを破壊する(ただし、ある特定の人物―――獄寺等には逆効果である)山本スマイルにツナはひとたまりもなかった。
 相談に乗る、なんとかしてやる、俺じゃ頼りにならないか?
 次々心を揺り動かす言葉のテクニック。天然だから恐ろしい、山本の密やかな攻撃にツナはとうとうその場に腰を下ろした。

 学校の裏手。校庭からは死角。
 皆サッカーに夢中で、女子は体育館で別行動。
 先生はチャイム2分前でないと職員室から戻ってこない。

「ええとね…」





 つっかえつっかえ、曖昧ににごして話し終えたツナの手はじんわりと汗をかいている。
 例えば、なんて意味のない前置きにクラスメイトA君などというコテコテの仮名、ふざけたのかもしれないけど、うん多分きっとそう、勝手に納得してるふりをするツナの話が。
全部終わったとき、山本の笑いは消えていた。
「や―――山本?」
「別に、ツナは悪かない」
 山本はツナの言葉の端々に滲む罪悪感を敏感に感じ取り、そんな事を言った。そして、
「それにそんなことなら俺だってできるし、むしろしてやるよ」
「え?」
「もっとうまくやる」
 なにが?
 あまりに予想外で思考と行動を停止したツナの、優しい動きで肩を掴んでコンクリートの裏階段に座らせて、山本はその場に膝を着いた。ひんやりと冷えた日陰で、運動着の端を引っ張る手。
「あのっ、あっ!」
 ずるりと引っ張られてむき出しになった下半身。急展開についていかない脳。
 足の合間に顔をつっこんで、Tシャツの裾をめくっている手。
「駄目!」
 ぱくんとソレを口にくわえ、山本はにやりとした。驚きで声も出ないツナの、まだ縮こまって反応の無いものを口全体を使ってジュッ、と吸い上げる。
「はぁうっ」
 一気にズシンと腰に来た快感にツナは喘いだ。早すぎる、ロンシャンに触られた時だって頭がぐるぐるするほど気持ちよかったけど、これは全然程度が違っていた。脳天に走り抜けるような強烈なキモチ悦さ。
 ペチャペチャと水を舐めるような音がして、ぐりぐりと押しつけられる歯の堅さがまた、イイ。生理的な涙でにじむ視界に映るのはみるみるまに勃って先端からとろりとこぼしている自分の―――
「や、ま、も、とぉっ……!」
 いやだ、いやだ。
 繰り返し呟いて頭や肩を押しのけようと手に力を込める。しかしそれは離れない。
 それどころかがっちり腰に絡んだ腕がますます強くなり、くわえられる愛撫も比例して熱くなる。舌で転がし、ねっとりと舐め、チュウチュウと吸い上げる。
「ひっ………で、るぅ、」
「だせよ」
「離し、てェッ…!」
「いいからそのまま………」
「あっ、あ―――っ」
 どばあ、と広がるあの生々しい感触が。
 温かい粘膜に包まれたままで。

 え、なに。
 俺トモダチの口でイっちゃった………ワケ?

 青くなるツナの、シャツをまくり上げた腹や、胸や、敏感な脇腹にちゅ、と唇を押しつけながら山本はご機嫌だった。
「な?」
「………じゃなくてぇ―――!!!!」

 ツナが半分泣き出しながら怒鳴っても。
 まるではずかしくも、いやでもない様子で彼は、やっぱりあの、誰もが好きにならずに居られない笑顔で笑うのだ。