1年目はレギュラーとる事だけ考えてた。
 2年の夏は地方大会でオチた。
 3年の夏ツナが久しぶりに会ったオレの顔を見て山本の彼女美人なんだってねと言った。

 目の前が真っ暗になった。それから真っ赤になった。オレはキレると顔つきがむちゃくちゃ変わっちまうらしく、ツナが怯えた顔で後退りして、やっとなんとか努力して戻した。 笑顔笑顔。怖がられたらなんにもなんない。
「何の話?」
「え? あ…ごめん、ナイショだった」
「なんの話しかわっかんねえの。オレ女と付き合った覚えないんだけど」
「うそ」
 オレのセリフだけどな、それ。違う違うと首を振りながらダメ押しで笑う。ツナはやっと気づいたみたいに顔を赤くしてごめんヘンなこと言ったって謝った。こういうぐだぐだ言い訳しないところがイイ。人に印象良くしようとしてぺらぺら喋るやついるけど、ああいうのは聞いてると眠くなっから面倒だし。
「どっからそんな話来たんだ?」
「うちの学校でも噂になってるよ。クラスの女子から聞いたけど。山本人気あるもの。絶対ホントだと思ったのに」
 口を尖らせてるツナの目線はウロウロと下に向く。オレはそれを見ながら思いだす。どっからなんていいつつ実は心当たりある。マネージャーが多分それ。
「くっだらね」

 地方大会を終えて、いよいよ全国大会。野球やりたくて入った高校だけどさすが激戦区、うちの学校は7年ぶりの出場に一般生徒浮かれて野球部員はプレッシャーでひきつってる。 オレだって緊張しないわけ無いから、でも勝ちたいし、出るからには優勝狙うし。
だからもっと緊張しようと思って。
「急に誘って悪ィな」
「俺は暇だからいいけど。山本忙しいんじゃないの…」
「ツナの顔見て気合入れようと思った」
「……山本ってヘン」
 気合入るような顔かな俺? どっちかってーと抜けない? とか言いながら、自分で自分のほっぺた引っ張って、見上げてくる。なーんも考えてない。気づいてない。そーゆーところがいいけど時々ムショーに憎たらしくなるときがある。
「何時発つの」
「多分月曜だな。ちょっと早めに入って調整。監督の知り合いの旅館だから融通利くってよ」
 考えるように変な間があって、オレは期待する。言おうと思って来た。いつもよりちょっと強引に呼び出して、引っ張るようにしてつれてきた。
 ツナも同じ気持ちでいてくれたらいいのに。
「あのさ」
「応援、来てくれよ」
 立ち止まって、まわりこんで、ぎゅっと手を握る。ツナはびっくりしたように目を大きくして立ち止まって、少しのけぞるみたいにしてオレの顔を見ている。ぱくぱくと口が開く。
 通行人があからさまに避けて通る。見てく。でも関係ない。
「ツナが見てくれたら嬉しい」
「う、ん」



 あの時からオレの中でツナは野球とくっついてしまっている。表と裏みたいに。バットを握ってボールを掴んで校庭の土にスパイクの跡がついてるのを見るだけでオレはツナを思い出してる。
 半分泣きそうになりながら真っ青な顔でオレを見てる。