まず、なんというか、デカイ。 獄寺も山本も誰も彼もけっこうな長身で、ことあるごとにツナはどーして俺のまわりばっかり大きく育つんだあああと悲しくなったものだったが、男は長身に加えがっしりとした逞しい体つきをしていた。 うっわあー、アクション映画の主人公みたい。 厚い胸板と太い二の腕を見て、一瞬気が遠くなる。あれでゴキゴキ折られたら、ブルル。 男は彫りの深い顔立ちと、黒い髪と目を持っていた。獄寺の言っていた例の組織の者ではないだろうか……ゆるくウェーブのかかった髪を後ろで結んでいて、いかにも屈強そうだ。 「日本人か。オレの日本語、分かるか……あぁ随分使ってない」 発音に特徴はあるものの、流暢な日本語にツナはびっくりした。 「これはお前のものか?」 「……ううん」 男が持っているのは上着のポケットに入れていた、クレジットカード。 今此処で真正直にハイそれは俺のです一応俺名義ですリボーンがあれば何かと便利だろうそれにファミリーのボスってものはハクが要るなんて言ってもう明らかに見え張りで恥ずかしいんだけどなどと喋る必要はない。 ツナは控えめに首を横に振った。 「獄寺が渡したのか。こっちのドルはお前のだろう。返しておく」 「は……いえ、いえいえいえ、要らないです」 「遠慮するな」 ヒヨワな東洋人相手に男は迷いのない足取りで来、油断無く動向を見守りながらポケットに金をねじこんだ。 サイドだから助かった。ケツポケットに返されたら背中のものがばれちまう。 緊張の面もちでそっと上目遣いに伺うと、男は微笑した。端正な顔立ちのせいで怖さは無いが、じっと見据えられて落ち着かない。 「男だろう、お前」 「は」 「間違われて良かったと言ってるんだ。男に優しい連中じゃない」 (一発でばれた、っていうかばれるよな、流石に俺ももう学生のチビの頃と違うんだもの) 「はあ…」 「此方の用事が済めば国に返してやる」 くしゃりと頭を撫でて、男は部屋を出ていった。 疑われている様子は無いようだ。 それどころか、国に返してくれるなんてえらく親切だ――日本人、日系人に親しい者がいるのかもしれない。日本語も使えてるし。 間違われて良かったなどと言われて、複雑な気持ちになる。そりゃあこっちの人に比べたら、女の人だってあんな大きくてスタイル良くて超美人だから、俺なんて貧弱なガキに見えてしまうのかもしれない。あいつは日本人を知っているから、分かったのかも。 ゴクデラ、獄寺、獄寺くんか。 彼、大丈夫かな。心配してるだろうな。彼の事だから俺が帰った後確認の電話必ず入れる筈なんだ。 リボーン……は勿論気付いてるだろう。 早く助けに来てくれないってことは何か考えがあるんだろうね。 それって俺がこの連中に(なんかの拍子か、でなけりゃ気まぐれ)スタタタタッてやられる前にどうにかなる考えなんでしょうね。(困るよ死にたくないよ、痛いのキライだもの) 「――勢力拡大、か」 ボンゴレのように政治力の強い伝統的なマフィアも、最近は企業色が強くなってきている。 そうなれば地方から上がってくるカネの力が、結構重要。あっても困ることはない、特にこの業界ではものをいう。 影響力の薄らいだこの地に、再びファミリーの根を下ろす。 転んでもタダでは起きないタフなもくろみの存在を感じ取り、ツナはうんざりと同時にファイトがわいた。 獄寺が帰国に積極的な態度を示さなかったのは、妙にやる気になっていたから。 小さいけれど手応えのある仕事に。 「この仕事うまくやったらリボーン褒めてくれるかな」 うんきっとそうだ。 ツナは暗闇でにっこりした。 俺は非力で。 殺すのはキライ、暴力反対、人間話し合えば分かるハズ――を長い間モットーにしてきた。 例え中身のない建前でも、長く続けていればそれなりに身についてくる。 交渉と説得こそ、彼の最も得意な分野だった。 |