俺だって心の準備とかある。よりによってこんな格好で、いきなり知り合いに会うのは嫌だ!恥ずかしい!
………けど、見た当の本人はいつも通りの反応だった。
「リボーンはどこ?」
「あっち!」
それでも返事をしたのは多分反射だ。
膝を抱えて色々諸々隠しながら、俺は努めて笑顔を浮かべる。

ビアンキ………おまえ、どうして年とってねえんだ?!?!
お、女ってコエー!!

彼女はそう、とかなんとか薄い反応をすると、俺の指さした浴室に入っていく。
しかし足を踏み入れたところで戻ってきて、訝しげに首を傾げた。
「こんなところでなにしてるのツナ?」
遅!
「なに、なにってその」
「あなた死んだはずじゃなかった?」
「そう、そうなんでけどその」
「それリボーンの上着じゃない」

ああやばい………!
俺は今小さいけどオンナんなってて、リボーンから上着を貸してもらってて、
ビアンキはきっと変わらず愛に生きて………んじゃないかな?
やばい!やばいってこれ!
しかし部屋がポイズンクッキングにまみれる前に、リボーンはやってきた。
「待ってたぞ、ビアンキ」
「リボーン!」





「大体の事情は分かったわ」
二人が腕組みをして俺を見下ろしている。くそう、どいつもこいつもでかい、俺はますますチビになったから首が痛い羽目になる。
「よかったわねツナ」
「よくないよ!命は助かったけど、こんなんじゃ何も出来ないって!」
「前と同じじゃない。何を嘆く必要があるの?」
「………」
真実は時に胸を抉る。
悲痛な顔をした俺に冷たい一瞥をそれぞれくれて、リボーンの方は更に俺から上着をむしり取った!
「ヒャーなにすんだお前!」
「俺はでかけてくる。ビアンキ、後を頼む」
「ええ」
「ちょっと、え、なによ?!」
「念願の風呂だ。女同士なら気兼ねなく入れるだろう?すまねえが世話してやってくれ」
「リボーン!」
俺は動かない体をずるずるとビアンキに引きずられ、浴室に放り込まれた。
「まったく手間のかかる子ね」
「ビアンキ!こら待てそれはよくない!!」
「何言ってるのかサッパリだわ」
あろーことか彼女は脱衣所でするすると服を脱ぎだした。これがまた威勢の良い脱ぎっぷりで、見る間に下着姿になり、それどころでなく………
「見てません!俺見てませんからっっ」
「さあ」
目を閉じた俺の上にシャワーが勢いよくふってくる。肩を掴まれ反射で開いた目の前に、それはもー俺とは月とすっぽんのスタイルのいい裸体があったので、とりあえず叫んだ。
「キャアー!」
恥ずかしがる俺に一向に構うことなく、ビアンキは文字通り頭の天辺から爪先まで洗いあげ………てくれるつもりらしい。
ありがたい。けど、ありがた迷惑ってやつだ。
俺の身体が動けないのでビアンキは後ろに回り込むようにして洗っている。つまり、背中に彼女の胸があたっていて、ああ俺今女で良かったと思う次第だ。
○○○ねえもんな。
あったら間違いなくたっちゃってるよ。
「ほんとに、ほんとにカンベンしてくらさい!おまえには恥じらいってもんはないのかー?!」
「変な子ね…」

綺麗に色の付いた爪、細くて白くて女らしい指。
それが、俺の首だの肩を石鹸で擦る。くぼみを丁寧に指で擦って、痛くない?ときく。
(や、やさしい………)
いや。
確かに彼女は優しい。弟である獄寺には肉親の惜しみない愛情を、リボーンには男に対する女の最大限情熱的なそれを。しかも平然と公言する。
(俺には無理だな………)
内も外もまるっきり日本人な自分は閉鎖的で、他人に心をあかすことを恐れるし、何より愛という感情は未だわかりにくい未知のものだ。
(ファミリーは義務と責任がセットだし)
もちろん、皆は大事だ。日本からわざわざついてきてくれた頼りになる友人たち、先輩、何年経っても変わらず自分を好いてくれ、素直な好意を口にする異性の友人………
「どうするのかしらね」
唐突な言葉が散乱する思考にストップをかける。
ビアンキの掠れてハスキーな、女っぽい声が耳元を擽った。うっ、ほんと、俺今男だったら正直かなりヤバイことになってたと思う。
「なに、が?」
「リボーンのことよ。何か思惑があってあなたを女にした」
「………やっぱそう思う?」
振り向くと、同じように石鹸まみれになった彼女は長い髪をかきあげて溜息をついた。
あだっぽくて、綺麗な仕草。
ああお前美人だよなあ………………………
黙ってれば。
「俺びっくりしたよ。水槽みたいなのから出されて、いきなりトシくったリボーンが出てきて、元の身体は廃棄処分だなんて」
「貴方が死んだ―――と思われていた、直後ね。ボンゴレはとても静かだったわ。私は違う仕事をしていたから来たのは2週間程後よ。知らされもしなかった」
「秘密だったのか?」
「そうね。全てリボーンの指示。でも隼人の様子を見たら私には………分かるでしょ?」
わからいでか、って感じで意気込んで喋る。
俺はそれにウンと素直に頷いて、ちょっと首を傾げて見せた。
「俺の準備に手間取ったのかな?」
「それもあるでしょうね。でも彼が全てを計算していないわけがない。ここまで待ったのは何か考えがあるはずよ」
「いやな予感するなあ」
喋り続けた口が重くなってきた。やはりこれも生まれたばかりの器官なのだ。
小さな膝小僧を腕ですりあわせ、ツナは黙って洗われることにする。ビアンキは全てにおいて丁寧で優しい動きをし、それはとても心地よかった。
「ツナ」
「うん?」
「帰ってきてくれてうれしいわ」

あ。
優しい。
「へへ…」
リボーンはそういうの言ってくれるタイプじゃないし。
やっぱり直接の言葉って嬉しいもんなんだなー、こりゃちょっと俺も見習ってみようかな、なんてゲンキンな事考えながら俺はモジモジと身をよじらせ、落ち着きが無くなる。
「ほら動かないで」
女兄弟ってのも、いいかもね。
俺は一人っ子だったけどランボとかリボーンとかが兄弟みたいで、弟とか兄貴(リボーンは弟って感じじゃない)ってこんなかなあと思ってたけど、そうか。
ビアンキ、お姉ちゃん、結構いいじゃないか。
獄寺くんはポイズンクッキング食わされてヒイヒイしてたけど、それさえ無ければいい姉さんじゃないの。
「ありがとう、ビアンキ」
後ろ向いてえへって笑った俺のアホ面にきょとんとした顔をして、そのあと前向いてって言って、ごしごし洗ってくれる。なんとなく照れくさい思いで泡を見ていた俺は―――
気付いてしまった。
あれ?
もし、もし、もしかして………
「あのそこはいいから」
「何?」

頭を洗って、背中を洗って腕洗って、えー。
前………だね。

「だからそこはまだ心の準備が」
「だからこそよ。大事なところだもの、ちゃんと洗わなきゃ」
「うわっ!え、ちょっとぉー!?」
むに、とやわい感触がする。ありえねえ………
俺にムネついちゃってるよ………小さいけど、立派にさ。
「せめて手じゃなくてこう」
俺は手近なタワシを指さしたが、とんでもないと怒られた。
「デリケートな部分よ。そんなもので洗ったら擦り剥けちゃうでしょ」
「それは痛そうだけど、うああ、どうすりゃいいんだ!」
「慣れなさい」
ビアンキは容赦という物がなかった。
俺のささやかな抵抗にも全く構わず、むしろ諭し気味にしてどんどん洗い進んでいく。
「あっ」
ムネぐらいならまだ。
それが今度は腹へ、腹からし、下?らへんに行くと俺はもう羞恥でまっかっかになってしまう。
「ひいぃ………!」
「これぐらいで、まったく………これからずっと付き合う事になるのよ?」
「嫌だ!」
「嫌でも。じゃ、トイレの時は?お風呂は?洗わない訳にはいかないんだからね………そうだ!」
いかにも良いことを考えた、というようにぽんと手を打って。
あろうことか彼女は俺の足をがしっと掴んでおっぴろげ、あまりの衝撃に口をぱくぱくしている顔をぐいと下にむかせた。
「わ―――!!!!」
「きつい?鏡の方がいいかしら」
「どっちもきついッス!」
「さあツナ、目を開けてちゃんと見るの」
なんてこった………
突然性教育に目覚めたビアンキは、ご丁寧に指さしまでしておっ、お、おお………俺の、



ああこれ以上は言えない。