だって俺はもう扉を開けてしまったし。山本だよ?開けるに決まってんだろ。
「はいはーい」
俺は極軽い調子で返事をし、ドアを開けた。
「おいおい、取り込み中か………よ………」
おっ山本の声!
俺は嬉しくなって笑った。椅子に座ったまま手を伸ばしてドアを開けちゃったので、背の高い山本は部屋を見渡してから俺に気付いたのだった。
思いっきりまじまじと見下ろされていた。

「山本!久しぶり!………らしいね」
2年後の山本は、背は勿論打ち止め(それでも20代後半まで延び続けていた………DNAっておそろしいうらやましい)だけど、体全体ががっしりしていた。肩幅なんか今の俺の3人分ぐらいあると思う。
その彼は俺を見て、見て、見続けて。
まずは―――っとため息をついた。

なに、ナニよ。
俺なんかしたっけ?

そんな悲しい気分でおろおろしていると、山本は起きたてみたいな超低音ボイスでなんだか突拍子もない事を言いだした。
「あ―――マジかよ………俺ツナ恋しさにとうとうこんな夢まで見ちゃってるの?」
「山本?」
「それにしても」
山本は言いかけ、唐突に俺の借り物スーツをべらっとめくった。
うおう山本大胆な。
「やべー、ほんとやべーな。こっち系?や、でも、考えてなかったから想像してないって訳でもないのかな。それとも欲求不満………近頃ご無沙汰だったもんね、俺」
「おーいおーい」
呼びかけるが、まったく無視。それどころかホントだとも思ってない?
「夢………夢、か。つまりあれか、どーゆーことをしても夢は夢っつことで」
「んわっ」
「いただきます」
すっごい笑顔のまま、山本の顔が近づいてくる。
と思ったら、あっというまに口と口がくっついて、いやそれどころか
「んん―――っ!!!!!」
やっ、やまもと!
舌入ってる舌!マジで!うわ入ってる入ってる入ってる!
「んっ、む、ふんぐぐぐ」
「ちっちぇー口ぃー。はふはふしてる、かわいー」
息継ぎはさせてくれるけど、止める気配はない。山本どうしちゃったんだ!頭でも打ったのかあー!
俺がじたばたもがいていると、
「なにやってんだバカ」
ごすっと痛そうな音がして、山本の頭が勢いよく沈んだ。リボーンが殴った!
丁度息継ぎの途中だったもんで俺の舌は無事だけど、ちょっと間違えたら噛まれてたかもしんないんだぞ!
「あぶ、あぶ、あぶないだろりぼ」
「痛く………なくねぇな?」





正気に戻った山本にかくかくしかじか事情を説明すると、
「ツナぁー!」
「ぐふげぇ!」
抱きしめられた。バカ力で。
俺の顔面が蒼白で、むしろ青白くて、ひくひくしているのをリボーンは当然みないな顔でスルーしたけど、死にかけだから助けて欲しい。
「坊主がみょーにつれっとしてっからさ、大丈夫なんかなって…でも完璧首だけになってたし、こいつも健気な所見せてんのかとか迷ったりいろいろ」
「けなげ?」
なにげにすごい一言聞いちゃってるような気がするよ?
「それにしても………はは、すんげえ、な」
「そうなんだよー。まったく困ったもんでさ」
「いや困りはしねーな」
「そうなの?山本、人間が大きいねえ。俺は困ってるよ、さしあたって風呂に入りたいけど足がまだちょっと」
「俺がいれてやるよ!」
わあ、なんて親切なんだ山本!
俺まだお願いもしてないのに!
「いいの?」
「むしろ大歓迎って感じ?ウン。鼻血が出そう」
「はなぢ?」
よくわかんないけど。

後ろに腕を組んでズンと立っているリボーンは目をむいて天井を仰いだ。
何事よ。
「山本―――お前、自分のトシわかってんだろ?」
「は?おう、なんだ唐突に」
「そいつの体年齢は15、見た目なんぞ12、3、4」
「なんなのさリボーン、いちゃもんつけるなよ」
「お前は黙ってろ」
うぐぐ、くそう、リボーン、俺のことバカだと思って………!
バカだけど。
「テメーの半分しかねえ女―――少女にイタズラする変態中年の図に見えるんだが」
「なんてことを!こらリボーン失礼だろっ」
それにそれは外見だけのこと、中身は俺だって30のおっさんだ!
30のおっさん同士が風呂で裸と裸の付き合いをしたって、世間様に誰も迷惑はかけないぞ!
………多分。
「別に気にしねえぜ?」
そーだそーだ言ってやれ山本。
リボーンの言うことはわけがわかんないよ!
ブウブウ文句を言うと、リボーンは呆れたようにため息をついて肩を竦めた。
「ま、テメーに文句がなけりゃ俺は構わないがな。後で泣くはめになっても知らんぞ」
「そんなのなるわけないじゃん!」









俺の認識は心底甘かったと言えよう。
1時間後、俺は布団のなかでぐったりと今後の人生について考えた。若干泣いたりもしていた。
すんすん鼻を啜り上げると、流石に悪いと思ったのか山本は謝った。

不思議だなあ。
どんな事をされても山本に謝られると、もういいやって気になっちゃうね。
「………わかった。もういいよ。俺も悪かった。人に洗わせるなんて非常識だ」
「その辺は気にしないでいてくれっと嬉しい」
「や………、やそれは………」