今の職についてよりまず最初の移動だった。といっても今の世の中、全て個人に適合した職業が割り当てられられる。少なくとも満12歳までにはほぼ決まってしまうし、それ以外の職業に就こうとすると99.9%の確率であぶれる。後は一生単純な肉体労働、働き蟻の如く過ごす。
沢田は平凡な知能と平凡よりかなり下の運動能力を持つ、ぱっとしない子供だった。
しかし何の因果か、親子3代市長を務める羽目になった。
それはこういうわけだった。
三度の世界大戦を経て精神的に疲弊した人類が選んだ指導者は、今までのような口先三寸の世渡り上手でも、カリスマという漠然とした概念でもなく、かと言って優秀な頭脳の持ち主というでもなく、ただひたすらに争いを好まぬ平和主義者であり、沢田家はまたその申し子のような人格ばかり輩出していた。
和を乱すものを罰し………ではなく宥め。
警察機関による犯罪者の取り締まりよりも、町内の美化運動に力を入れる沢田市長三代目綱吉など、正に理想であるとされる。
(………と言ってもなぁー…)
それはあくまで平和な並盛シティでのこと。
これが他の大都市となると、勝手が違う。そもそも規模が違う。並盛には美化運動に力を入れられる公園が4つあるが、ここでは数えるのも馬鹿らしいぐらいの数で、挙げ句その殆どが子供を遊ばせる憩いの場としての機能を果たしておらず街娼とヤクの販売人で溢れている。それどころか人種も職もなにもかも様々多種多様な人間がぞろりぞろりと暮らし、街の一角だけで並盛シティの全人口を網羅する。
(無理な話だよなぁ………)
階下に広がるとてつもない規模の街。道路一つとっても、ビルも、店も、限りなく地平に続いているようなこの超巨大都市。
「うん絶対無理!」
沢田綱吉は本日を以て10代目ボンゴレシティ市長に就任した。
今までの小さくこぢんまりとして居心地の良いオフィスから、30人集まって運動会ができそうな広さの部屋へ移ったが、嬉しさは欠片もなかった。
広いから歩くと疲れるし、出口に辿り着くまでが億劫だ。秘書が書類を届けようにも、今までならコツコツ、で済んだところをコツコツコツコツ(以下ずーっと続く)………もう、嫌になる。
シティでも一番の高さを誇る市庁舎の、その最上階。眺め良し、日当たり良し、立地条件最高、いっそ暮らせるほどの豪華な施設も、これから始まる胃痛の日々のオプションと考えれば、まったくありがたみが無い。
早くも頭を振り乱して市長マニュアル的都市概要の紙面をめくっていた新市長は、近づいてくる足音に顔を上げることもしなかった。どうせ秘書かなんかだと思っていた。(並盛シティのほんわかした可愛らしい秘書に比べれば、このボンゴレのツンケンしたインテリ秘書は怖くて威張っているのでとっつきにくく、はっきり言ってキライだ!)だからその靴音がゆったりして、独特の足運びのもので、更にパンプスの軽い音でなく踏みしめるような重みである事すら、感じとれなかった。
「おい」
「はいぃっ?!」
がたがたっと机を鳴らして飛び上がり、慌てて姿勢を正す。
目の前には黒ずくめの格好をした怪しげな男が立っており、小さな心臓をキュウキュウと締め付ける。
誰なんだ。
「どちらさまで?」
「挨拶は新入りからするもんだ」
「ごもっとも」
この、黒い帽子を目深に被り、黒いスーツを着、ハンサムだが触れれば切れそうな剣呑な空気を纏い『私はカタギではありません』と顔の真ん中に書いてあるような男相手に何を逆らう気も起きなかった。自分は臆病で事なかれ主義だ。
「初めましてどうも。この度新しく市長とぉ…なりました沢田綱吉と申します。よろしくお願い致します……」
ちなみに、相当イヤイヤです。
そんな言葉を顔に貼り付けたような引きつった笑みにも、男は反応を示さない。
目を開けたまま寝ているのかと思うほど長い時間が経ってようやく、その口が開いた。
「俺は処刑人だ」
処刑人。
都市の全ての殺しを司る、法の執行者。
超納得。
「そりゃご苦労さんです」
「人ごとみたいに喋りやがる。今日からお前が俺の上司?頭が痛いな」
俺は胃が痛いですけどね………
キリキリシクシクと周期を置いて痛み始めた腹を押さえ、椅子に深く腰掛けなおす。ついでに男にも椅子を勧めるが、彼は視線だけでそれを断った。
「仕事を円滑に進めるために、新市長殿に心得て貰いたいことがある」
「伺いましょう」
大戦より時を経て新しく建設された都市の殆どが、すぐに大規模な構造改革を実行した。
国というものが無くなり、個々の都市がそれぞれの自治区となった。職業適合書と幾つかのテストを参考に決められた市長をトップに、やはり同様の方法で決められた特殊な役職が幾つかある。処刑人もその一つである。
何もかもが今までと違っていた。
特に大きい変化は、警察の廃止だった。
拘置や投獄、そもそも裁判すら無くなった。有罪か、無罪かはその市ごとの法によって決められ裁かれ、つまりはほぼ市長の独断であった。
市長の定めた都市法により死罪の確定した犯罪者には、速やかにそれが与えられる。それ
らの決定は本人に知らされる事無く、ひっそりと行われる。
勿論、並盛シティも小さいけれど立派な都市なので市長も入れば秘書もいて処刑人もいた。
しかし沢田は人を殺すなんて恐ろしいことはとうてい命令できないと思っていたし、田舎ののんびりした並盛にそんな事件は少なかった。せいぜいが、「漢字書き取り500回の刑」「小さな千羽鶴を孤独に一人で折る刑」「ラジオ体操第一第二を皆の前で手本として手抜き無しでやる刑」とか、重くても「町全部のトイレをピカピカに掃除する刑」である。
処刑人にはそれを見張って貰い、時々脱線しようとするのを優しく教え諭して元の作業に戻らせる、程度の仕事しかなく、殺すなどととんでもないことだ………が。
「お前のやり方は知っている。だが僅かでもここに座ってそれを読めば、チンケな町を仕切ってたやり方で通用するとは思わない筈だ」
「そーですね」
「とりあえず前のクソ市長の作った法がある。ざっと目を通せ。後で好きに改訂しろ。速やかにな。だが問題は当座の俺の仕事」
なんて偉そうな野郎なんだ。ムカッときた!
「よろしくお願いします」
言わなかったのは………俺だって命が惜しいし、一応、任命された職務を全うし一刻も早く引退に近づこうという涙ぐましい動機だった。
愛想笑いの下を早々に看破したらしい処刑人は、口の端を歪める冷徹な笑いを浮かべた後、辛辣な言葉を次々吐いた。
「まず犬を飼え」
「は、いぬ?」
「ワンワン喚く方じゃない。お前の下に、自治の為の私設兵を揃えろと言ってんだ」
「あぁそっちか」
犬というのは正式な役名ではない。
市長の手足となって働く特権者達の俗称で、文字通りしっぽを振って媚びるその様子をあげつらい、皮肉った物言いだ。
市長の護衛、町のスパイ、警察のマネから強制的税金徴収、なんでもやる。汚い仕事専門と言ってもいい―――
当然沢田は犬なんて面倒くさいものは今までは要らず、適合者には書類整理と早朝役場前での太極拳の指導、町内マラソンの先導などを任せていた。
(ちなみに太極拳もマラソンも自分は出勤時眺めるだけでスルーした。早起きは苦手だ)
「絶対指名しなきゃだめですか」
「なんだ」
だって怖いんだもん。
小さく呟いた途端、男がじろりと睨め付けた。思わず椅子から飛び上がってしまうほど怖い。
「だってだってそんな犬って!用もないのにその辺うろついたり、人に喧嘩売ったり、厄介この上ない奴等だし!!」
「それをお前が躾るんだ。どうとでも出来るはずだ」
「アハハもー絶対無理」
「………やれ」
「ハハハハイっ!」
もうお前が市長やった方が早いぜ、というような迫力だ。
沢田はこのシステムに疑問を抱く。君、市長さんね、と役所で宣告されて以来だから年期が違う。
「まあそのうち嫌でも必死で探す」
「えっなにそれどういう意味?」
「前市長の死因を知ってるか?表向き病死だがな、実は」
手を首の前で横移動。
スパッ、といっちゃったんでしょうかつまり。
「ギャーッ!お、俺並盛に帰ります!!」
「無理だな」
「言い切った!」
「お前のたらたらとろとろした執政のおかげで、その田舎町の犯罪率は一桁までに落ち込んだ。世界でも類を見ない珍しい功績だ―――おっと、状況は関係ないこの際それは排除しろ」
そりゃもともとちっさい町でみんなのんき者だからだよ!と言おうとしたが、先回りされた。
「前任者がぶっ殺されるような危険な区域に送り込まれたのはその為だ。せいぜい頑張って町の治安を悪化させる等すれば………戻れるかもしれないが」
「いやぁ、だってそれは、なあ。市民の皆さんに申し訳ないだろ?」
「フン」
鼻で笑われた?
「とにかくお前は、ここでやっていくしか生きる道はない。自衛の為に一刻も早く犬を揃え、いい気になってるファミリーの奴等に自らの手で裁きを下すんだ」
「ファミ………うっそ!」
がーん。
マンガの如く沢田の顔に縦線が入る。ファミリー、勿論仲良し家族なんかではない。
噂に聞くシティマフィア、犯罪組織、市の定めた法では決して認められない、しかしその実町の実権を握っていると言っても過言ではない自治組織である。
大都市には大体これがあり、中都市には事務所があって、小さい町には子分がいる。
並盛にもちらほらいたが、沢田が市長をやってから町内新聞の一面を飾るのは秋のゲートボール大会という有様になったため、早々に逃げ出してしまった。
「俺やっぱ帰る」
「させるか」
むぎぎぎぎとつかみ合い、突っぱね合ったが、ものの3秒でまた元の椅子に戻される。
男は細身だが筋肉質で、力など大男と小娘ぐらいに差があるようだ。
「ちくしょう!ちーくしょーう!」
ドンドンと机を叩いて泣き出した沢田に、処刑人は冷たい侮蔑の視線を投げかけた。
「せいぜい泣き喚け。だがな、奴等に命乞いが通用すると思ったら大間違いだ………」
「ちょっと待って?!言うだけ言ってもう帰んのかよ!あんた強いんだろ守れよ!」
「俺は処刑人で、犬じゃねえ。じゃあな」
チャオ!と案外陽気な挨拶をキメて処刑人は行ってしまった。呆然。
前市長はどれだけ人に恨まれていたのか………
のプライベートルームは無数の弾痕が刻まれ、ベッドマットは刃物で切り裂かれてズタズタ。挙げ句所々赤い染みがあり、絨毯をめくると………
赤い大洪水だったららしい。
「あんな場所で寝られないよ!」
苦悩と恐怖の末、沢田はこの都市で最も安全な場所を見つけだした。
すなわち、処刑人であるこの男の住居である。
「だから俺をつけてたのか…」
「それにしてもあんがい普通の場所に住んでんだなあ」
処刑人にたんまり脅された後沢田が取った行動はというと。
とりあえず、寝室に移動して一眠りしようと思った。
人間、睡眠は大事だ。一眠りしたら気分は落ち着いて、きっと脱出の良い方法が見つかるさ!
既に逃亡の方針を固めていた沢田は寝室へ続く立派な扉を開けると―――
すぐにバタンと閉めた。
「それから一直線に」
「俺の後を?あのヘタクソな尾行で」
苦々しい調子で吐き捨てる処刑人に、愛想笑いを返す。
「この町で一番強いのは、ん」
「………」
「そいつの家なんて、誰も寄りつかないだろうと!俺頭良くない?」
「死ね」
ジャキン!と額に押しつけられた銃口に、息が止まった。
しかし男は考え直したようだ。
銃を下ろし、チビりそうになっていた沢田を家の中に招き入れた。ロックをかけた途端、ありとあらゆる装置が作動する音が響き、終いにはドアの手前沢田の足すれすれに重い鋼鉄のドアが監獄の如くがしゃーんと下りる。
「入れ」
「あ、あ、あ、あ」
「早く」
「ありがとう!わあ!」
途端段差に躓いて顔面から床に着地したが、痛いだけで汚れたりはしなかった。
掃除もちゃんと行き届いた、居心地の良い住まいだ。
処刑人は驚いたことに、きちんと自炊をしているらしかった。
並盛では母親と同居し、家事などいっさい手をつけたことがない沢田は感心しきり茶を啜り、クッキーを囓る。
「おいひいれふ」
「口にものを入れたまま喋るんじゃねえ」
「母さんみたいなこと言うね…」
「やっぱ死ぬか?」
ジャキン。
「今すぐ撤回しますすいませんでしたァ!」
居間のカウチに、長い足をこれみよがしにのばし座った処刑人にひたすら頭を下げる。
沢田は母国の習慣でラグの敷かれた床へ座っているので更に空気がそれっぽく盛り上がる。
「まあいい。こっちへ来て座れ」
「こ、殺さない?」
「今のところは」
今のところなんだ………ハハン。
泣きそうになりながら立ち、見回す。
カウチにはまんべんなく男の長い足が乗っていて、座れない。
「どうすれば」
「来い」
ぐいっと引っ張られて沢田はバランスを崩し、男の広い胸に倒れ込んだ。
「ちょっ、なんすか!」
「俺の部屋で暮らす、というのはな」
慌てて立ち上がろうとした腕を掴んで引いて。
視線を上げれば身震いがくるほど間近に男の端正な顔があった。
「俺のものになるということだ」
「違うってそれぜってー間違ってるよ!」
「自分のものしかテリトリーに入れない。動物としてごく自然な本能だろ?」
「そういう問題じゃないし大体俺は」
他人と接触するのには余り慣れていないのだと続けるつもりだったが、相手は話をする気はないようだった。
「んがんぐっ?!」
ぬるりとした舌が唇を端から端まで這い回り、沢田はものの見事に硬直してしまった―――が構わず、男は腰をむんずと掴むともういきなり尻の穴に指を突っ込んだ。
「いっでえ!」
「バージンか…」
「なにすんだあんたは!!」
気持ち悪い!
他人とのコアな接触をなるべく避けて生活してきた沢田は、他人と接触した経験が母親か、もしくは市長就任時の挨拶ぐらいで、その後も丹念に手を洗う始末だ。
こんな生々しい触れ合いは経験になく、それだけでなく想像もしたことがなかった。
「ま、まさか………」
「決まってんだろ。男がものにするっつったらヤルか殺すかどっちかだ」
「殺さないで!」
馬鹿にしたように鼻で笑いながら、指を抜く。
おぞましいとばかり顔を背ける反応を見て、男は怒るどころかにやりと笑った。
「やっぱりな。テメエもそのクチかい」
適合職が一部の特権階級にあたると、その人物は大切に育てられる。
思想書の類は一切読ませて貰えないし、与えられる知識は限定される。支配階級の市長ともなれば、その殆どが就任後の実地でしか性教育を施されない。余計な欲求で歪めないためだ。
といっても、就任後その抑圧された欲求が暴走し、ハーレムを作るアホもいるのだが、当然その類ではない。
触られた事すら無いし、そもそも同性相手にこんなピンチになると思っていない。
抵抗らしい抵抗もできず無防備な下半身を弄られると、突っ張っていた手の力が抜けた。
「初めてで、しかも男じゃ、いきなりつっこめねえよなァ」
頬に舌がねっとりと這う。男の低い声は女性には好かれ喜ばれそうだったが、生憎こちらも男で鳥肌が立つだけだ。
それでも物理的刺激に慣れない身体は控えめながら反応していた。
「痛いのは嫌か?」
「あうぅ…」
「だよな。いいぜ。意識がぶっ飛ぶぐらい悦くしてやる」
「はぐっ……あうっ…」
たっぷりとゼリーを塗りたくった指がそのまま後ろをぐちゅぐちゅと掻き回す。開かれた痛みと気色の悪さに竦んでいた身がじわじわと広がる熱に犯されるまで、そう時間はかからなかった。
「楽しくなってきたか?」
「はあっ!あっ!あうっ!あぐっ………」
指だけの突き上げに口端から唾液を垂らしてのたうちまわる。ゼリーに含まれた性感促進剤のせいで強烈な快感が脳を焼き、意識はあってないようなもので、口から出るのは素面の時なら到底信じられない浅ましい喘ぎだけだ。
「ひぅっ…!」
無意識に尻を突き出すような格好で、床にべったりと片頬を付けていた。
指をくわえたところがジンジン熱くなってくる。本数を増やされると刺激は叫び出したくなるほど強くなり、しかしまたすぐに物足りなくなってしまう。
「ぁ……や…もっと奥、アツ、いぃっ……!」
「初心者にはちょっときつすぎたかね…」
呆れたような溜息が降ってくるが、通り過ぎる。ただ指を動かして欲しいだけ、その欲求だけ強く、勝手にくわえた腰が揺れる。
「はうっ、…うっ、あ、あ、」
「よしよし………ここか?」
「ふぁぁぁ―――ッ」
カウチに座ったまま男は指を奥まで突っ込み、先をぐねぐねと動かした。信じられないほど強烈な快感に叫び、もがくように手がラグからはみ出し、床をピタピタと叩いた。
「よし」
準備が出来たとばかり、男は床でもがいている小柄な身体を抱き上げる。意識がもうろうとし、視線の定まらないそれを向き合って抱えてぺちぺち頬を叩くと、彼にしては柔らかい笑みを浮かべた。
「市長殿。お名前は?」
「んぁ………ふぅっ……」
「自分の名前だよ。クチは塞いでないぜ、言えるだろう?」
ゼリーでぬるついた指が口先をつまみ、チョイチョイと揺らす。
促されて口を開く。
「つな……つ…なよし」
「良い名じゃねえか。ツナ」
ぴくり、とツナが反応する。
男が呼んだ名は幼少期、そして近しい友人に呼ばれる愛称そのものだったからだ。
「ん………」
「今からコレをお前の中にぶち込んでやる。触ってみろ」
男はツナの手を掴んで導く。指先にそれが触れると腕が、表情がぴくりと動き、眉根が寄せられたが、そこからは押しつけずとも自ら確かめるように撫でる。
「ん……む…」
「ん?」
「むり…だ……」
「そうか?」
男が至近距離でニッと笑う。思いの外快活で、しかし悪辣な笑みだ。
ツナが震えながら手を離そうとすると、強い力で腰を掴まれた。
「試してみようぜ」
「嫌だぁ………」
とは言っても。
相手にここで止まる気はさらさらないだろうし、また自分も、気持ち的には最大限のNOでも、身体の方は薬を使われておかしくなっている。
横たえられ、足を持ち上げられても指一つ動かさないまま口だけでのいや、は通じない。
「しっかり掴まってな」
「やぁ…」
男はぺろりと口端を舐めると、だらりとした身体を押さえつけゼリーで潤んだ下の口に自らを押し込んだ。
「ひぃゃああああ―――ッ!!」
喉を裂く絶叫がこぼれ出る。
男は一瞬顔を顰めたが、すぐに唇を寄せてきた。奥へ進まれる度に上がる声を塞ぎ、片手で顎をこじ開けて舌を己のそれで舐め回す。
大きさに徐々に馴染んできた内部は体温が高く、開かれたばかりの狭さで悪くない。
「あち………」
額をツナの薄い胸に押しつけ、男は腰を揺らした。薬のせいでずっぷり根本までくわえ込んだそこがゼリーや滲んだ体液を押し出して潤み、ぐちぐちと卑猥な音を立てる。
「いたいっ………あ、ああっ…あぐ……」
揺さぶられ振り回されて、ツナは悲鳴を上げた。
背中がカウチの木に擦れて痛い。
「助けてぇ……あ…」
痛みを与えている当人にしか、縋れない。
おまけにツナは男の名を知らない。戸惑ったような間が開く。
「しょーがねーな」
チュッと音を立ててキスをして、男は律動を一瞬だけ止めた。その背に腕を回し、半分持ち上げるようにして支える。
強靱な身体でなければ出来ない体位、更に。
とどめのようにじっとりと耳朶をしゃぶり、甘い囁き声を耳に流し込む。
「俺の名はリボーンだ。言ってみな」
「りぼん?」
随分かわいらしくない?
ツナが首を傾げて、笑いさえ堪えると、男の顔つきがガラリと変わる。
「ひっ………いぃぃ!」
ずぷんっ、と中まで一気に押し込まれた。
衝撃の強さにツナが喉をひくつかせると、リボーンはぐいぐい腰で奥を突く運動を激しくし、半開きの口の中も外も舐め回した。
「かわいいだろう?」
「あぅっ、はぐうっ………う、りぼ、リボーンっ、やっ」
「テメエもな、市長殿」
「リボーンッ………!」
拙い口調で名を連呼し始めたツナを満足げに見下ろし、浮いた腰を掴んで自分に押しつける。
深い結合にひゃんひゃん鳴くその身体を貪りながら、男はゆっくりと手を滑らせた。
その先には低いテーブルがあり、透明なガラスの一枚板に携帯端末が乗っている。
薄いモニターに映し出された人影を一瞥し、キーを数度、叩く。
enterを押した。
画面奥でワイヤーが翻る。
爆発は好みではない。騒がしさは厭わしく、今は邪魔されたくなかった。
じっとりと画面を濡らす赤い血と、転がる生首を確認した艶やかな黒の双眸は、無感動さをたたえてそこからそらされた。
「ああっ、あっ、リボ……ンッ…リボーン………」
「分かった分かった」
くくくと低い笑いをもらすと、彼はうってかわった熱心さで腰を打ちつけ始める。
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