C.P
名物は美しいビーチとカジノ、夏に大量投入される観光客でライフラインを保っている此処は比較的新しい都市だ。
百数年前一時的なゴールドラッシュがおこった他は、元々何もない海辺の小さな町だった。平地が少なく、小川が数本地図に白い筋を書くのみで、特に利便性に優れていた訳ではない。40年ほど前、突然やってきた実業家が私財を投げ打って周辺の整地に乗り出し、多機能都市としての体裁を整えるまでは。
ここまで成長したのはひとえにその人物の功績があったからだが―――古くから済む住人も、その一家の事はあまり良く知らないらしい。未だに、分家類系の類を除いて表舞台に出る事がない。都市の謎の一つである。
巨大な人口河川に浮かぶ幾つものランチを眺めながら、男が一人立っている。
小柄である。傍目にも外国人と分かるとっぽい容姿をしつつ、もそもそと朝食を胃に流し込んでいる。目は河川を行き交う船に釘付けだ。
湿気た空気のおかげで霧が発生し、視界は良くない。明かりだけを頼りに器用に船を操る様を男は飽きず眺めている。
どうにも年齢の判別がつけがたい男だ。
じっとり濡れた空気にまみれながらベーグルの最後のひとかけらを口に入れた男は、しばらく口をもぐもぐさせていたが、やがて踵を返して川岸の最初の店―――錆びた看板を1年毎赤く塗り替えるドラッグストアの駐車場に入っていった。
買うものはいつも決まっている。
胃薬だ。
シティ中央には正に真四角のゾーンがあり、其処へ役所が集中している。
昼間っから用事もないのに爺婆がウロウロしている市役所、大きな事件が取り扱われていればマスコミの群がる裁判所。勿論、警察署本部も此処にある。
シティの各ブロックへ、レトロだったり近未来的だったり様々なデザインで建てられた分署と違い此処は機能重視一辺倒で、なまっちろいコンクリートの塊。いつの署長もこの壁の塗り替えを提案し、瞬く間却下されて最初の挫折を味わう。役所は無味乾燥が伝説の人物のお好みであったらしい。
その無愛想な建物の中に吸い込まれていく人種は二種類ある。すなわち、日々の単調な業務に疲れ果て人形のように無表情なその1、残りは日々激化するシティの犯罪現場に晒され続け、実際の年齢より二周りは老け込んだ"目"をしたその2。
その2に分類される男はあまりやる気のない運転で駐車場に古キャデラックを停め、何を考えているかさっぱり掴めないのんびりした表情で出てくると、まず守衛にぺこりと頭を下げた。
不思議なのは、その如何にも、冴えない男の見本市があったら間違いなくトップを争うであろう存在感の薄い彼が、頭を下げるか下げないかのうちに守衛は背筋を伸ばし、敬礼でもせん勢いで挨拶をした事だ。
それに関わらずハイだのうんだのむにゃむにゃいいつつ、男は建物へ―――漂っていった。
2006.8.1 up
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