C.P

 

勤続10年になるのだから、そろそろ功労賞の一つでも欲しいものだ。
例えば自動販売機に胃に優しい飲み物を増やすとか。
女性警官の要請でエスプレッソマシンが入ったのに、たかだか自動販売機のメニューを業者に掛け合うぐらい………と思うのだが、希望通りになった試しはなかった。
仕方なく、もはや葉の香りなど欠片もない、煮だしたようなホットティーで我慢する事にする。
綱吉は紙コップの端を囓りながら熱い茶を啜りあげた。
「此処に居たのかツナヨシ!」
「ぼふっ」
軽く吹いたせいで上唇を火傷し、ひりひりする患部を抑えて恨みがましい目線を向ける同僚に、刑事は軽くウインクしてみせると(中年男のウインク!吐きそうだ!)ドアを開け気取って一礼する。
「時間だぜ」
「ええ………」
「何言ってんだよ、お待ちかねだろう」
「お待ちかねてないよ。俺は…」
「分かった分かった、それでもアレの謹慎期間中お前をフリーにさせとく訳にはいかないんだろうよ。まったく羨ましい話だぜ」
綱吉は口をへの字に曲げる―――相棒の刑事が自分の家族絡みの事件で傷害を起こしたのは、未然に防げなかった自分にも責任があると感じている。よって、同様に処分を望んだにも関わらずにべもなくはねつけられた。
『本当に申し訳なく思ってるなら馬車馬のように働け』というのは署長の弁だ。思わず春から夏にかけて大通りをかっぽかっぽ走っている観光馬車を想像し、綱吉は情けない顔になったものだったが。
仕方なく連れ立って歩き出すと、同僚刑事は大仰な仕草で感動を露わにしてみせた。
「署長もお前にゃ期待してんだろ。何しろこの10年、署の手柄っつー手柄は全部お前が手がけた事件のみ。マスコミ対策も万全。あの鮫どもだってお前が出てくるとだんまりさ」
「嫌われてんだよ………」
要点をぼかす事に関して綱吉は天才的とも言える。
「それで、今度のはどうなの?使えそ?」
「知らないね。俺はお前を呼んでこいって言われただけで他は何も」
「ふーん」
先日謹慎をくらった奴は、頭もいいし行動力もあり過ぎる、能力だけ見れば実に優れた刑事だったがいかんせん日常的に脳の血管をプチプチキレさせる、超度級気の短い暴れん坊だった。
毎朝たった10秒の待ち時間も苛々し販売機を蹴飛ばそうとする彼を抑えるのは綱吉の役目であり、綱吉にしかできない事なのである。
「あいつも可哀想によ。俺だって同じ立場なら、やっぱり殴ったと思うぜ」
「歯を上下会わせて13本折ったのはやりすぎだ」
「あれでも後半はその、被害者の仕業だろう」
「シッ!トップシークレットだぞ」
普段あれだけ姉を嫌いぬいている同僚が、連続強盗犯にその姉を人質に取られ、髪を一房切り取られたと言うだけで強盗犯を半殺しにしたのは―――忘れようにも忘れられない出来事だ。
更に彼を取り押さえた後も、髪を切り取られたその女性が鬼のような形相で犯人を殴り蹴り続けた事も、忘れたいのに忘れられない光景で実は2、3回うなされた。
「会見じゃあしおらしくしてくれて良かったよ。じゃなきゃまた騒ぎになる」
「あの姉にしてあの弟ありだったな………心からそう思う」
じゃ、行って来い!と送り出された綱吉は所長室のドアの前で3秒目を閉じ、胃を抑えてからコンコンとノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開ける―――開けて―――
開けた途端、閉めたくなった。一瞬だが。

「今日から組んで貰う新しいパートナーだ。さあ二人とも、挨拶して」
「………」
「………あ、どうも、ね?」
綱吉の前にはデスクに座り、好々爺の笑みを浮かべている初老の警察署長と。
その前で凄んでいる、綱吉より頭二つ分ぐらい大きな男の姿があった。

はっきり言って、怖い。
どうみても、刑事というよりアッチにしか見えない。
組織の手入れがあったらいの一番に掴まりそうな凶相に、更にそれを助長する額から頬にかけての荒々しい傷。一日目にして既に崩れまくっているスーツ。

それでも綱吉は帰って良いですか?などとは言わなかった。
既に前任者の刑事で暴れん坊な慣れっこになっていたので、わあ今度のは大きいなあ、ぐらいにしか思っていない。
「綱吉です。よろしく」
「………お前が、あの?」
「どのあのなのか分からないけど、多分その綱吉です」


2006.8.1 up


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