C.P

 

「いや、それはマズいでしょう」

図らずも答えは向こうからやってきた。激化する組織犯罪に、再来月の選挙がかかった市長が一念発起して徹底的な壊滅を警察へ要請したからだ。
手の空いている者は皆手入れに参加する事になり、それは綱吉とて例外ではない。面倒だと思いつつ概略を頭に入れていると、後ろからドンと肩を叩かれた。
「………なに?」
痛いんだけど、と訴えるには男のプライドが邪魔をする。
しかもツナは、相棒がこれで十分手加減していることを知っていた。でなければ壁をぶち抜く勢いで叩かれる、こんな腕力でどうやって女とヨロシクやっているのか不思議である。
「俺も行くんだろうが」
「ああ多分」
「名前がねえぞ」
「あら本当だ。記入漏れかな………」
「………」
相棒は無言で近く、紙をテープで貼りだしていた小柄な女性署員をつるしあげた。
「わー!わー!やめやめやめ!」
「おい………」
「レディになんて事をするんだ止めなさい止めなさい!失礼、お怪我はありませんでしょうか」
綱吉は………仕事モードの時限定で女を口説く事が出来る。
優しく手を取り、人好きのする感じのいい笑みを浮かべ、さりげなく凶暴な相棒から遠ざけると女性署員はこくりと頷いて手をきゅっと握り返してきた。
ドスン!
「壊すな」
壁を力任せに蹴り付けたザンザスを宥めながら振り返る。
そろそろ危ないなこの取り扱い注意の危険物、と綱吉は判断し、その腕を掴んでさっさと人だかりから出てくる。
「よし、署長へ直談判だ。それで駄目ならおウチでイイコにしてろ」
「んだと?」
「んだとじゃないの。返事はハイなの。はい?」
「うるせえ」
素行に不備だらけ、というか不備しかない後輩を見上げて、ツナはしょっぱい顔をした。
「お前ねえ、いい加減にしないと優しい俺も怒るよ。女の子に手を出しちゃ駄目だろー」
「あんなもん」
「あんなもんじゃあない。俺もお前もそのあんなもんから生まれてきたんだぞ?しかもすごくすごく苦労して。女性は優しく扱うべきだよ」
綱吉は廊下を歩きながら説教モードに入っている。
「一度出産に立ち会ってみるといい。翌日から子連れの女性全部に赤絨毯ひきたくなるから」
「ガキがいるのか?」
「いるかそんなもん」
あんなもんを説教した片端からそんなもん呼ばわりしたツナは、説得力皆無かもしれない。
「あ?ああ………いや、ヤマ踏んでる最中に女が産気づいちゃった事があってね。しかも自宅出産で、俺まで手伝わされたんだ。なに………本当だよ。誓ってガキなんかいないぞ………多分」
避妊具を欠かした事はない、と大まじめな顔と言葉で主張するツナに、ザンザスはまだ疑いの眼を向けている。
基本的に全てに無関心な後輩の、こういう姿は珍しいので、ツナは誠意のこもった笑みを浮かべた。
「胡散臭ェ」
「なんだ本当だって。申告がなけりゃ間違いない。お前こそ怪しい」
「止めろ、考えただけで鳥肌が立つ」
「女は怒らせない方がいいぞ………あの生き物、普段は可愛らしいがキレるとヤバイ」
「黙らせる」
「黙んないやつもいるの。お前がガキだよなあ、もう。若造はここで待て」
憮然とした顔で睨み付けるザンザスを通路の椅子に無理矢理座らせ、綱吉は更に奥の署長室に入っていった。





其処で冒頭の台詞である。
ウチのかわいいお坊ちゃんの名前が無いんですが、と言ったら返ってきた答えがそれだ。
「何がマズイんですか」
「うんとね………お茶飲まない?お菓子あるよ」
「何がマズイんですか」
綱吉は引かない。
この格好の時の綱吉は、一筋縄ではいかない。老練な刑事のように食らいつき、離さない。
「やれやれ………」
署長は観念したらしい。
誓って喋りませんとクチを塞いでいる綱吉に、鍵のかかった金庫から封筒を一つ取り出した。
「古くからご恩のあるお方の要請でね。断るわけにもいかなかった」
「………………………………とんでもねえな、オイ」


2006.8.1 up


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