C.P
仕事中のちょっとした雑談である。
「………で。幾らぐらい積んだの?」
うわっぺらだけの笑みを浮かべた綱吉の問いに、ザンザスは胡乱気な眼差しをやった。
「は?」
「『俺はカタギではありません』って顔面に書いてあるようなお前が警察学校入れたとはトーテー思えないんだよね。ほら、吐いちまえ」
「………」
不快を、眉を寄せる表情のみで表しても綱吉は一向に平気だった。
アクの強い年下を御す事は馴れているのだ。
生意気盛りのエリートだろうが、チンピラのような荒んだ新人だろうが、今まで何人も付き合ってきた。
無言でにこにこしている一枚上手の先輩刑事に、降参したのか。
ザンザスはむっつりとしたまま(しかし、これが素である)卓上の書類を数枚、無意味に横移動させた。
「大した額は使ってねぇ。試験も何度か受けた」
「ふんふん」
無愛想な説明によると―――
田舎では、此処よりもっと小さい、村や町等では未だ警察と自警団の境界線が曖昧である。
仕事を持つ人間が兼任する事も多い。そういう所に最初は手伝いや補佐で入ると、便宜上許可証や権利を案外簡単に手に入れられるのだ。
「え、じゃあ田舎で健気な下積み時代を過ごした?」
「実質、3日」
金の積み所は其処である。
任期切れ間近な者の後継者として、半譲渡的に権利を受ける。
役所で判を3つばかりついてもらえば、後は証書が試験のキップとなるのだ。
書類上は数十年、地方の保安に尽くした忠義者として通る。
経費削減により面接の短縮、顔写真も試験に通った後まとめて会場で撮る為、身元が割れる事はほぼ無い。
「試験に通れば希望の部署につく。其処でも少し積む。1年ばかり経てばこうして現場に出てこれる」
「その1年、何してたの?」
「鑑識だ」
「鑑識ィ?!?お前が?」
「悪ィかよ」
「悪かぁないけどさぁ………どうせ真面目にやってたんじゃないだろーし?」
「鑑識、っつーか検死医寄りだがな。医者が来るまでに現場で大体、死因の見当を付ける」
「詳しいのか。そういや………」
綱吉が覚えている限り、殺しの起きた現場で、一目見るだけで「銃」「薬」「腹を刺されて失血、バスルームに血痕」等案外てきぱき後続の捜査員に告げていたのはこの男だったような気がする。
「い、意外な特技だな」
「別に…まあ、専門ったら専門だろうが」
「前に何か?見えないけど医者だったとか…何やってたの?」
「暗殺」
………。
綱吉は笑顔のまま固まった。
「………へえ?」
「こうしてると良く分かるぜ。つくづく素人の殺しってのは無茶だよな」
「ふうん………」
「逆に馴れてる奴は直ぐに分かる。現場が妙に綺麗だ。だが癖もついてる」
「癖?」
「お前等には分からねぇ」
そこで、初めてだった。くつくつと楽しそうに笑う後輩に百戦錬磨の綱吉は混乱する思考を押さえ込み、
「そりゃ心強い。じゃあ次からは遠慮無く使わせて貰おうっと」
と言って笑った。アア良かった、俺死体って苦手なんだよね、見ちゃうとうなされるし腹ぐるぐるするし商売柄しょうがないんだけど、さ。
熱のせいだけではない。舌の奥が喉が凍り付いて出てこない。こうして無防備な状態で死ぬほど怖い。どうしてこの男はこんなにもむき出しの敵意に他人を晒すのか、その対象がある意味当分に公平に分け隔て無く撒き散らされているのを
綱吉は
唯一死角の懐でそれに気付くことなくジリジリと焦っていた。
2006.8.7 up
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