C.P
「ただの風邪です」
流石に年期が違う。こざっぱりとした格好の老医師は強面の若造にもビビる事無く断じた。
「一日二日安静にしていれば治ります。幾ら心配だからって、そんな物みたいに振り回したら余計悪くなるからそこ置いて」
「………本当だろうな」
「ウソついてどうするの。似てないけど弟さん?」
ギロリとしか形容できない仕方で睨め付けた乱入患者…の付き添いに、医師は穏やかな笑みを向ける。
「水分を多く取らせてください。あまり、冷えすぎないものを。次の方」
生まれて初めて個人病院というものに行った。
ザンザスが真っ赤な顔で意味不明の事を喋るツナを小脇に抱え、その辺をチョロチョロしていたチンピラを掴まえて「病院はどっちだ………!」と脅しつけた結果である。震えながら教えて貰えた。
待合室に並ぶ人間にもまるで気付かず、少々お待ち下さいと言った受付嬢を吊し上げ、患者用の椅子にどんと座ってカルテ舞う医者の机に放り投げたのである。
「ぐう!」という悲鳴が聞こえた時、医者は痛ましげに眉を顰めた。
同時にプンプン匂うアルコール臭も気付いた。
きっと酔っぱらった末何処かで水でも被ったんだろう、という実にドンピシャリな推測をした医者は熱を計り喉の腫れを確かめ、風邪という尤も一般的な結果を下したのである。
受付でも一騒動だった。
つるし上げられた受付嬢の代わりに、凶悪さではザンザスにひけをとらないような巨漢の白衣の天使が陣取っていて、ジロジロ無礼な客を睨み付けて言った。
「医療保険には入ってるの?」
「は?」
お坊ちゃんに異国の複雑な保険制度など知る由もなく、医者は主治医が常に待機しているもの、家に呼びつけるもの、もしくは金を積んで「サツにたれこみやがったら殺す」と脅しつけるかどっちかしか無いので、保険と言われてチンプンカンプンである。
「これで文句無ぇだろ」
おもむろにふところからごさっと札束を取り出し、積む。
しかし敵(?)も然る者、札束にも些かも動じず、後で震えている事務の女性に声をかけた。
「………計算するわ。ちょっと待って」
なんだか細かいちゃりちゃりしたおつりも貰って、右には意識の薄れた先輩を抱え、ザンザスは病院を後にした。
まるでハリケーンが通過した後のような被害と静寂を残し、彼は引き上げていったのだった。
看病というものを生まれて初めてした割に、うまくいったのではないかと思う。
自賛してしまうほど綱吉の熱はあっさり下がった。無論薬のおかげなのだが、直ぐに病院へ行ったのと、医者に言われたとおり水を飲ませたのだって、良かったらしい。
ポヨーとした表情の曖昧な顔をしながらも、なんとか会話可能まで持ち直した綱吉はもそもそと口の中で礼を言っていた。
「なんか………悪いなホント、夜遅くまで…」
「食え」
「そんないきなりは無理だっつの…いい、お前だけ食って」
掠れた声でケホケホと軽く咳き込みながら言う。
「飲み過ぎてさ、気付いたら道路で落ちちゃってて」
「不用心だな」
「反省してます………」
紙で包まれたジャンクフードをそっと脇に押しやり、綱吉は袋の底を漁った。
瓶詰めのくだものが出てきたので、これはなんとか食えるかなと蓋を捻る。
「ふんっっっ………!」
ゼイ、ゼイ、ゼイ。
しかしこれがまた世界の終末が来てもこのままだろうかと思うほど硬い。
「貸せ」
掴んで0.3秒で開けて見せた後輩に「あーどうもどうも」と気の薄い礼を言ってフォークを突っ込む。
「しかしお前、よくこんな………風邪グッズなんて買えたね」
「はぁ?」
はぁ、なんて言っちゃってるけども綱吉は知っている。
ある意味世間知らずのお坊ちゃんなこの後輩は、おつかいに出せばとんでもない事になって帰ってくるのだ。
素っ頓狂な品物を持ってくるぐらいならまだマシで、時に気に入らないと店を店員ごと破壊してしまうので注意が必要だ。
「店員さんに迷惑かけなかった?」
「オレは客だぜ」
「客、ねえ………」
「ちゃんと金も払った」
「ううん………」
まだ疑い深い視線で見る綱吉をイライラと睨み付ける。
綱吉は慌てて目を逸らすと、うんちゃんと出来るって思ってない訳じゃないんだけどなんていうかねえその、だのと煮え切らない事をぶつぶついいくさった挙げ句。
「品物レジに上げた途端、店員がホールドアップしたとかそういう………事は無かったかと」
「だから金置いてきたっつってんだろうが」
「やっぱり………」
2006.8.24 up
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