C.P

 

ちょっとした遊びやジョークのつもりだったのだと思う。
あまりに覚えが悪いのと、とろくさいのと。救いようが無いと酷評され貶されて、ただ足で稼ぐだけしかなかった。それも体力のない、応用も利かない、狡賢く立ち回るだけの器用さもない並以下の人員となれば、それぐらいしか使い道が無かったのかもしれないし。
妙だなと思ったのは―――長い説教か頬を貼られるような短い叱咤の後に、まれにまったく違った仕方で触れられる事だ。頭を撫でる、頬に触れる、最初は些細な接触だった。
それが変わる。頬に触れた指が首筋まで下り、怒られて情けなく口角を下げた唇に相手のそれが重なる。仰天して顔を上げると、苦笑を浮かべた端正な顔があり、逆らうなよと変な前置きを置いて触れてくる。
新しい脅しかと、綱吉は震え上がった。
一体どんな手で来るのか予想も付かない、立派に変人の部類に入る人物だったからだ。
前以上に職務に熱心になると、少しはマシになった。
それが悪かったのだと思う。
タイミングが悪かった。
上司はどんどんエスカレートしていくし、逆らうなと言われている以上言い出せもしない。あの時彼は絶対で、口答えをする隙なんか無かった。
まさか褒美のつもりではと思い当たった時には、多分全てが遅すぎた。
認められ、褒められる事が嬉しくてもう自分でもどっちなのか分からなかったからだ。綱吉は流されやすい性格も含め、言われればそうなのかなと信じてしまうタチである。どちらかというと、暗示に近い。

だからそれは、望んだ事ではないのだ。
強いて言えばそう………習性っていうか………

「んんっ……!」
躊躇いの気持ちが一度切れると、後は無意識にでも手が動く。
先生はお世辞にも趣味が良いとは言えず、一人でさせるのが好きだった。膝の上に抱き上げられた体勢は車中や資料室、その他諸々狭苦しい所に詰めていると唐突に訪れるその時間、一番良くさせられたポーズでもある。

ベルトが外され、緩んだ下衣の中に手を突っ込む。邪魔な下着は横からのびてきた手に引きずり下ろされ、はしたなく刺激を待ち望む自身に易々と指が絡んだ。
「はァ…っ」
緩急を着けて擦り上げる。初めは下手と罵られた。後から回された腕が腰を押さえつけ、逃げ場の無いようにしてからもう一方が綱吉の手に重ねられた。
低い声が耳朶を打つ。もっと優しく、丁寧に扱ってやれ。女と同じだデリケートなんだと揶揄する口調で。
『…分かるだろ?』
それまでただがむしゃらに擦り上げるだけだった手が、巧みな動きにシフトする。途端電流が走った。ただ出すだけじゃなく、染み入るような快感まで………声が漏れ出すと、男は自分の口と舌で塞いだ。
苦いエスプレッソの味が口に広がる。舌を吸い上げられてだらしなく突き出すと、今度はそれが生き物のようにやんわりと絡む。手は、相変わらず動いているが前ほど激しくはしていない。やがて離れる。
『な。もう、自分で出来る』
耳を擽られながら意識する。男の手が離れ、自分の手が腫れて充血した性器に絡んでいる。快感は前と同じ、絶え間なく続いている。足の指にぴんと力が入った。
『出せ』
命令だった。
2度、出した。男はそれをじっと見ている。時折、笑いを含んだ声で囁く。見ろよお前。こんな事してる。オレと。信じられるか?
意地悪い問いに信じるしかないじゃないですか、と綱吉は投げやりに答えた。証拠が揃ってる、生臭い精液の匂い、汗ばんだ背中、そこに感じる他人の体温。
『舐めてやろうか』
一度落ちれば後は際限がなかった。足が胸につくまで押し上げられ、直後生暖かい感触が下腹を襲った。女相手にも経験が無い事をまさか、こんな人がやるなんて。
綱吉は先生を怖れ、苦手としていたが、同時にとても尊敬していた。逆立ちしたってなれっこないパーフェクトな人間だった。そんな相手が唾液と共に自分のものを啜り上げ、舌で巧みに愛撫する。有り得ないだろそれって。
対蹠的で、背徳的な快感だった。
追いつめられるままに3度目を放った。
もう、抵抗する気も起きなかった。どうにでもなれ、だ。



「ううっ……ン!」
少し押しただけで、あっさりと綱吉は落ちた。目の前で繰り広げられる光景に冷めていようと思うのだが、片隅で意識はどうしてもそれを許さない。
「先生……っ」
自慰を始めた体を後から支えてやりながら、無意識に口をついて出るらしいその言葉に眉を寄せる。
先生。先生ねェ………
いったい何の先生だったのか、聞くのも馬鹿らしい。もどかしそうに動く手に、邪魔になっていた下着を引き下ろしてやると嬌声は一段と高くなった。
これが普段ああも刑事を、まともな人間ヅラをしているあの男かと思うと、ザンザスの内心は素直な驚きに満ちていた。
快楽に緩んだ表情。
閉じられ、涙か、汗かが滲んだ瞼の縁。
紅潮した肌がシャツの隙間から覗いている。内股の不自然な白さ。乾いた唇をしきりに舐める小さな舌。
「あぁ…」
先走りにぬるついた指がそのもっと奥にのばされる。会陰を辿り、後の孔をつぷりと突き刺した瞬間、それまで快感にとろけていた綱吉の表情が歪んだ。
「ぁ………う」
そこまでするか―――…呆れてその体を放り出そうとした矢先、綱吉はもう一方の指を口元に持っていった。舌を出し、先走りで濡れた指を躊躇い無くしゃぶる。
とろりと唾液が伝う指を赤い舌が這う。興奮で赤く染まった頬や、伏せられた目尻が視界に飛び込んでくる。
凍り付いたように動きを止めた後輩を、意識することなく完全に身を預けきった状態で綱吉は再び指を潜らせた。濡れた指先を小さな孔にねじ込もうとして腰を浮かす。
「ンっ…!」
唾液のぬるみを借りて指先が中へ潜った。角度のせいではっきりとは見えないが、第二関節ぐらいまでは行っているようだ。そのままぐちぐちと抜き差しを始めると、小柄な体がポンポン弾む。
「ぁあ、うっ!」
堪えきれない喘ぎの合間にまた繰り返し呼ぶ。先生、先生。
途切れないその声に苛立ち、ザンザスは乱暴にその足を掴んで割り開いた。
動きを止められて焦れた体が前倒しになるところを、支えてこっちに押し戻す。
「そんなにいいかよ」
「ヒッ…!」
細い指が一本入っているだけの其処に、人差し指を突っ込む。太い指や固い爪でぐりぐりと粘膜を刺激すると、細い体が男の膝の上で仰け反った。
「ぁっ……ぁ……」
熱い。
擦り込まれた唾液で中は女の膣のようにぬるんでいる。
長い中指を突き込むと、抱えた全身が激しくビクついた。しかし痛みではない。
「あぅ……あ…ぐっ」
「こっちだけでイけんのか?」
「ああああっ!」
中で指をバラバラに動かすと、途端跳ねた体がぐったりと凭れてきた。
前を押さえていた手から、細い指の間から、どろりとした白い液体が漏れて内股にまで伝う。

「はぁぁ…」
イった直後でぐんなりと弛緩した体をほんの少しだけ持ち上げてずらすと、薄ぼんやりと瞼が開いた。
ザンザスが覗き込んでも、綱吉の目の焦点は合っていない。
虚ろな視線はうろうろと宙を彷徨い、達したばかりの余韻に浸っている。
「せんせ……え…」
まただ。
綱吉は過去にトリップしたまま、緩い動きで腰を押しつけた。強請るような動きで、請い願っているのはもっと明確な快楽だ。
途端顔つきを険しくしたザンザスは、小さな顎を乱暴に掴んだ。
押さえつけて耳元へ口を寄せる。
「違う。おい、目ェ覚ませ」
「っう…」
「見ろ」

触れ合うほど間近にある顔が、自分が思っていたものではない相手だというのに気付くまで、少しかかった。
快楽に流されていた思考が事態を理解し、綱吉の目が次第にはっきりしてくる。

「あ………」
「違うっつってんだろ」
「え、あ……」
「見ろよ」
ぐいと顔を下に向けさせ、ベルトのバックルを外しジッパーを下ろす。
取り出した性器をこれ見よがしに内股へ擦り付けると、その顔が真っ赤に染まった。
「な?」
「いやあの…えええええ」
「入れるぜ」
かぷりと耳朶を噛みながら衝撃に竦んだ身体を抑え、貫く。指の蹂躙で柔らかくこなれたそこは、太い先端をなんとか飲み込んだ。
「うああああああっ!!」
とはいえ相当キツい。
腹を押さえて叫ぶ口を塞ぐと、ズンと下から突き上げる。やはり女とは違い、ぬるつきが足りない。が、熱い。
「ひっ……ひいっ……ぁあああっ!」
「…静かにしろって」
手を離すと直ぐに叫び出す。張り込みがばれるだろうと囁けば、綱吉は自分の手で口を覆った。
恨みがましい目で睨み付けながら。
「お前が誘った」
「誰がっ………?!」
「嘘じゃねえ」
相手を取り違えていたとしても、あの痴態はジョークで済まされるようなものではない。
責任は半々もしくは殆どそっちにあると言わんばかりの後輩の態度に、綱吉は悔しげに顔を顰めて唸った。
「もっ………いいだろうがっ………抜けっ………」
「冗談だろ」
中は徐々に緩み、柔軟に収縮し受け入れ始めている。綱吉の息も再度荒くなってきた。
「ぁっ……こら…駄目だっ………そこは、ぁあっ!」
「うるせえ」

何がなんだか………どうしたら。分からない。
混乱しきったまま、どうにか刺激をやり過ごそうとして失敗する。男相手が初めてなら戸惑いやズレがあっても良さそうなものだが、かわいげのない後輩はきっちりイイところを突いてくる。
これも勘………だったりして。
余計な才能だなとため息を吐く反面、シャレにならないと慌てる綱吉もいる。今は仕事中なのに、こんな遊技はあの男で充分だと、思い知った筈なのに。
「ぅンッ!」
こんな。
しかも、年下の、クソ生意気な後輩に犯られて、ヒイヒイ言う自分が情けない。
「イけよ。出しちまえ」
「このっ…」
半笑いで勃起した性器を掴み、扱く手は妙な馴れがある。こんなことまであっさり乗り越えなくて良いのに、器用でなくて結構。
冗談じゃない。まったく。
「ンああああっ!!」
放出の快感に意識が薄れる間際、どぷりと体液を注がれる感触がして目を閉じた。

もう知らない。
夢だったらいいのに。
出来るならこのまま、目覚めないでいたい。


2006.8.28 up


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