ちんちろりん
この遊びを覚えたのは、母国日本の賭場だった。
付き合いで遊んだ丁半や花札は超直感を持つ綱吉にとって面白いものではなかったし、鬼勝ちしまくる自分に相手方も面白くなかったのだろう。
場が白けるのは仕方のない事だった。
断って席を外し、隅で茶ばかり飲んでいた綱吉に、ずっと後ろで控えていた老人が声をかけた。暇つぶしに始めたら、止まらなくなった。
サイコロ遊びの中でも特に単純なルール。
自分の能力に左右されないゲーム。
不器用な綱吉は負けてばかりいて、それが面白いのである。賭けたのは茶菓子や少額の小銭だが逆に燃えた。つまり元々賭け事には向いていないのだろう。
ゲームは好きだった。
用事を済ませて戻った綱吉は、ヒマさえあればサイコロを振る立派な中毒者になり果てていた。
その熱意は専用の道具を買い、持ち帰った程である。
老人の鮮やかな手付きを思い出し、何度も繰り返し降った。
茶碗に三つのサイコロを転がすと鳴るいい音も、心を騒がせる。
家族、友人、通りすがりの部下まで――
顔を会わせた全ての人間を巻き込むこの趣味は、周囲には大変不評だった。
『下品すぎる』というのである。
「そうかなぁ」
茶碗の中で転がしながら、綱吉は呟いた。
最初は愛想良く付き合ってくれた皆も、徐々に理由をつけて断るようになってしまった。
それが飽きたとかつまらんというのならまだしも、下品だと言われてしまっては。
「面白いと思うんだけど」
超直感を持つ綱吉以上に達者な男、世界中のありとあらゆる賭博をやり尽くしそして勝ち尽くしたリボーンは、二度ばかり振った後テーブルを引っ繰り返した。
振ったサイコロが一つでも茶碗の外に零れれば、『ションベン』と言って負けとなる。
不器用な綱吉、ションベンの数が異常に多い。しかもそれを自分でおかしがって、何度も繰り返し言うものだから――
最初は苦笑していた面々も、その内顔色が悪くなる。
獄寺に至っては「どうかその言葉を仰らないでください」と土下座をした程だ。
勝っていたのは彼なのに。
学生の時分から賭場に出入りしていた雲雀でさえ、綱吉がその言葉を口にすると問答無用で拳を顔面にめり込ませた。挙げ句額に青筋を立てて怒るので、それ以上ゲームを続けられないのである。
勿体ない。
雲雀の賽の振り方は実に滑らかで、老人のそれに劣らぬほど鮮やかだったのだが。
「みんな自分じゃ言うくせに」
失礼ながら周囲の者が皆お育ちの良い、上品な人間であるとは思えない。
先に挙げた獄寺も、遊び好きで快活な山本も、あれでいて意外とリボーンもその気になればうんと汚い言葉を使う事が出来るし、それらは非常に様になっており、舐められたらオワリのマフィアとしては正しい姿じゃないのかと思う。
だがそのマフィア、ボンゴレのドンこと綱吉がそういった類の言葉を使うと、皆一様に顔を顰めてよろしくないと苦言を呈する。雲雀のように暴力に訴える輩も居る。
始めは単なる子供扱いなのかと思ったが、どうも違うようだ。
「あのランボまで説教するんだからな」
小さい頃は散々言っていた当の本人が「あのボンゴレ、そういう言葉使いはよくないですよコホン」などと。
笑いを通り越して腹が立ったくらいだ。
「誰かいい相手いないかなぁ…」
机に頬杖をつき、ふぅっと溜め息を吐いた正にそのタイミングで、正面のドアがぶち破られた。
「てめえ…今何て言った?」
「わーっ!!!?」
無惨に崩れ落ちた分厚いドアは、砲弾も通さぬ特別仕様…の筈だった。
「ひぃっ、ザンザス! また、またモノ壊したぁぁっ…」
「オイ」
「来る度何か壊すんだから……って、何!」
襟元を掴まれて机から、椅子から引き摺られる。
十年経っても縮まない身長差。持ち上げられて足が浮く。
正面で見える相手の眼光の鋭さに、綱吉は思わず息を呑んだ。
「なに、何ってその」
ジタバタ暴れる足が机上の書類を散らし、床に落とす。
カランと音を立てて転がった茶碗とサイコロに、二人の視線が向く。
「あ」
(いるじゃん相手! しかもすぐムキになりそうなやつ!)
「いやー、やー。いいタイミングで」
揉み手をしながらニコニコすると、ザンザスはピクリと眉を潜めた。
「今、ヒマ? あの、ちょっとお茶でもどう…かな。時間ある?」
「……」
「ちょっと付き合って欲しい事があるんだけど」
2008.4.6 up
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