×××は大事だよ(お好きな言葉をお入れください)
一会社員にしては恵まれた出勤時間だ。用事がない限りは9時30分までに出勤し、今日分の仕事を広げて丸一日の羞恥プレイに入る。(羞恥プレイというのはお隣さんの雑貨屋の女の子が言っていた………成る程確かに)両サイドに店を構えたデザインの巨大ショッピングモールの中央通路に突然スペースを借り切り、皆さんが楽しく雑貨やら洋服やら靴やらおかいものをしている時にひたすら事務処理。たまに訪れる人にパンフレットでお定まりの営業をしたり、苦情や質問で駆け込んでくるお客さんにまずは椅子を勧めたり………巨大なキャラクターぬいぐるみの埃を払ったり。(ファスナーでカバーの取り外しが出来るが、営業時間内にやっていたら子供の夢を壊すと注意された)そうやって一日は終わる。
保険の簡易受付出張所勤務になってから、綱吉はそれまで頓着しなかった身嗜みにも気を遣うようになった。
以前のビルに入った古びた事務所では誰も気にしなかった3着を着回しているスーツとかシャツとか。此処では平日の暇に任せて店の人間が少なからずチェックを入れているし、客でさえ浮かれて人のことをジロジロ眺め回す。加えて、同じような立地条件でシルバーアクセサリーの小さな露店を出している若いにーちゃんが、一目見るなり腹を抱えて爆笑しクシを入れてくれた爆発頭、も。
「沢田さんってさあ………」
今でもくっくっくと笑いを堪えながら、店が暇な時に話しかけてくる彼は一日中チャラチャラした格好をし、へらへら笑い、声をかけてきたお客さんに気安い口調でそっちよりこっちが似合うだの言葉巧みに誘導し、遊んでいるようにしか見えない。
はっきり言って、嫌いだ。
綱吉は彼のような人種にエラいコンプレックスがある。大学生時代彼女を取られたのが原因だと自分では分かっているが、どうしようもない。綱吉自身は全然意識していなかったカチカチぶりをからかわれ、その後あっさりと別れた女やそいつが就職していたら今頃こうなりました、みたいな見本なのだ。
多分偏見だろう。
分かっている。
けれど嫌いだ。
こういう、小器用なタイプには逆立ちしてもなれないし、女の子に自然に話しかける事も不可能な人種である自分の劣った部分を見せつけるような人間な訳だ。
だけど綱吉は気が小さい男なので、嫌いだ話しかけるなとはっきり言えない。いつも曖昧にああ、うん。そうだねえ………と適当な相づちをうって流す。その度、彼はあの微妙な沈黙とその後の爆笑で綱吉の神経を逆立てるのだ。
長い前髪のせいで一向に目の表情が見えず、不気味なカンジも苦手だ。
「沢田さーん」
今日も今日とてやってきた。
お前それは正気かと問いたいようなセンスをしている。囚人のような縞シャツが細身の身体にぴったりとまとわりついていて、美容師が使うようなもの入れを腰に巻き付け、やぶれだらけボロボロのジーパンを腰ではき………いやはや、これで仕事中とは恐れ入る。
「暇だねー」
「そう?」
俺は忙しいけど、と言外に含ませて書類をガサガサ弄る。
「まあ、平日だからね」
ちょっと歩み寄る。
「沢田さんちょうまじめ。服スーツだけ?ありえねー」
「ははは………いや一応受付業務だし。会社規定」
「とかって、休日もスーツなんじゃないの?他の服着たトコ想像できなーい」
「はははは」
これで普通の会話なのだ………そうなのだ………
別に喧嘩を売っている訳ではない。
握りしめた拳がプルプルと震えるが、ファイルで隠してハンコを探した。
「今度デートしよー。俺が選んだげるから。お店の女の子達も沢田さん弄ったらかわいい絶対、っつってたよー」
なんだその耳より情報。どうせ聞くなら直に聞きたかったぜ。
綱吉は別に女の子は嫌いじゃないので、思わず手が止まった。
「間に合ってるよ」
しかしこいつと一緒に過ごすなんて最悪な選択で貴重な休日を潰す気はなく、さらりとかわす。
「今度飲みいきましょー」
「俺弱いから」
「ちゃんと送ったげるってえ」
「まだ親と同居中なんだ」
「あえー、マジで。服もママが用意してんの」
「まさか」
半分あたっていたが、それは忙しいからだと言い訳する。
それに俺はマザコンじゃない。あの放蕩オヤジが母さんを一人にしておくなと言うから、仕方なく家を出ずにいるだけだ。
「っていうか沢田さん何歳」
「24」
「マジでやったイッコ上じゃん、おれ」
にじゅうご、と幾分舌っ足らずに言った後、に、と笑った白い歯が其処だけやたら爽やかで―――
(25?!どう見たってハタチ越えてるように見えないこのガキが………25!?!)
綱吉は不快に眉を顰めた。
2006.7.6 up
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