こんな場所にいると、人の出入りが自由なせいか色々な人が来る。
もちろんわんさと変な人も来る。
綱吉は先程から向かいのベンチに座り、ふんぞり返って片足を膝の上に上げているスーツの男に怯えていた。
スーツと言っても綱吉のような吊しの安売りではなく、もっとこう………ちゃんとしたやつだ。それを、ほぼ限界まで着崩してシャツの胸元の釦は上から二つ、開いている。最早ネクタイの意味がない。
(どう見てもそっちのお方だなあ………)
少なくとも、買い物を楽しむ一般人ではないだろう。何の用事があるのか知らないが、綱吉がスペースを出入りする為にぬいぐるみを除け、また戻す作業の度睨むような視線を向けてくるのが不気味だ。
ここは俺の仕事場だ。
気に障るならどっか行け!
………などとはっきり言えたらどんなにか良いだろう。いや、良くない。殺される。
数十メートル先にあるインフォメーションボードへチラシの交換へ行き、大分減っていたパンフレットの補充をして戻りかける綱吉の足は止まった。
「ボス〜」
ひらひらと手を振って歩いてくるのは、露店の兄ちゃんだった。
知り合いかよ?!と内心でツッコミながら黙って側を通り過ぎようとすると、兄ちゃんがグイと腕を引っ張った。
「沢田さん」
「ほえあはう?!」
「あはは、何ソレ。あ、この人ウチのシャチョー」
「あはあああはいどうも」
えっイキナリ俺に話ふるの?!関係ないじゃん!!!
しかしそこはそれ、社会人生活で鍛えた面の皮がある。微妙な笑顔でぺこりと頭を下げる。
「沢田と言います………彼にはいつもお世話に」(なってないけど)
「お世話してます」
してねえよ。
綱吉は状況も忘れて冷たい眼差しを兄ちゃんに向けたが、無視された。
「えーとりあえずお世話いっぱいする予定です。とりあえず明日の金曜はデートかな」
「ごほっ」
「だから休みくださいよシャチョー」
「駄目だ」
実にアッサリ断言されて内心、ちょっとだけイイ気味だと思ってしまった。
綱吉は半分苦笑しつつ言い添える。
「どっちにしたって俺明日仕事だし」
「ウソいっつも金曜いないじゃん。変なオバちゃんが一日あそこ陣取ってんじゃーん」
「オバ………」
綱吉がヨチヨチ歩きの時から仕事をしている遙かな先輩を一言オバちゃんで済まされ、綱吉は絶句してしまう。
間もつまんないつまんない今オレ休み週一〜〜〜!と駄々をこねていたが、急にずいっと顔を近づけて来た。
「な、なに」
「つまんない」
「その人が、息子さんの授業参観で出られなくて。だ、だから、土曜に休みが変更………」
「土曜だって」
「………分かった」
は。
「じゃ、明日上がったら出入り口で待ってる。さっさと来いよツナヨシ」
にーっとアップで笑われて今更ながら相手の思惑に気付いたが―――
遅かった。
(なんでこんなことに………)
ダラダラと冷や汗を流しながら社員通用口から出てきた綱吉は、金曜の夜の付き合いなんて随分久しぶりだった。
一人寂しくこっちの担当になってからは、休みが今までと逆転。休日こそが本番になってしまったので、金曜の夜なんてのはさっさと寝ているに限る。
久しぶりの土曜休みなのに………
どうして嫌いな奴と得意でない酒など飲まなければならなくなったのか甚だ疑問である。
(結局どっちつかずの曖昧なこの性格が悪いんだけど、さ)
ふーっと息を吐いてネクタイを緩めると、暗がりからぴょんと飛び出してきた人影が。
「わっ!」
「悩ましげにため息なんか吐いちゃって」
「は?ナニ?」
意味のわからない単語が出てきたので聞き返すが、さっさと行ってしまう。仕方なく後を追いかけると、相手は既にタクシーを呼び止めていた。
「乗って乗って」
「え、あ、やっぱ………」
止めたい帰って寝たい。口に出す前に詰め込まれ、10分程で近辺の繁華街に到着する。既に呼び込みや会社帰り、その他大勢得体の知れない人間が昼間何処に隠れていたんだ!というほどにぞろぞろ這い出してきていた。
どちらかというと、ヤバい系の店が建ち並ぶ通りで、ここだともなにも言わず唐突に曲がられる。
間接照明のかかった高級そうな店はイメージに合わず、綱吉は一瞬戸惑ったが運良く席が開いていたためアッサリと座った。
「お疲れさーん」
「………お疲れ様です」
冷たく冷えたビールを一口。会社の付き合いでもないのに………いやある意味付き合いか?強制的につれてこられた理由を必死で探していると、まだグラスを干す前に次々酒が運ばれてきた。
「甘いのがいいと思って」
胡散臭い笑顔で進められ、とりあえず一杯だけ―――頂く。
リキュールベースの味の濃いカクテルは口当たりが良く、あまり苦無く飲み干せた。なーんだイケるじゃん、と軽い口調で囃し立てられ続けて数杯、急にいれたのがよくなかったのだろうか。
「うー………」
「うっそ速すぎ」
店に入って1時間もしないうちに、綱吉は潰れていた。
2006.7.7 up
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