―――気のせいだろうか。
鼻歌が聞こえる。それも、近いような遠いような微妙な距離で微かに。それに、どこだろう、見覚えの無い床の模様と向かいの黒い枠。キラリと光を反射するガラステーブル。
「こーもうまくいくといっそ拍子抜けだよね〜」
カタカタと物を弄る音と、機嫌が良くて冷たい声。
「事務所使っちゃっていいのかな」
「好きにしろ」
「やった」
鼻歌。
音階の無茶苦茶な、妙なテンション。
目をあけている気がしない。呼吸がおかしい。
「沢田さん。大丈夫?」
「………ぁ、」
大丈夫、と答えたつもりだった。
綱吉は回らない舌を必死で動かし、どうにか返事らしい音を搾り出す。
だが重い。舌がもたもたと、思うように動かない。
「イイ具合。だね」
ちょっと起きて、と声がしたかと思うと無理やり起こされた。ぐらり。悪酔いしているとこれは完全に吐きまくるコースだが、不思議と気分の悪さは無かった。どちらかというと体全体がふわふわしていて………
(気持ちいい………)
指がネクタイにかかる。するりと簡単に解けたそれを丁寧にハンガーにかけている。上着も、皺を伸ばしてかける。
「ふふ、素直〜」
「ラリってるだけだろ」
「そーなんだけどさあ」
ベルトに手がかかった。いつもならおおおい何するんだ結構ですと断れるだけの理性は残っていただろう………いくら酔っていても。
その時は何の違和感も不安も感じなかった。
「足上げて」
声に呼応して体が動く。素直に相手が足から抜くのを手伝い、下着に手がかかるのを黙って見ていた。頭の片隅ではどうして、という疑問がわくのだが、形になる前に消えてしまう。
シャツと靴下だけという格好で、綱吉はずるずると背もたれに寄りかかった。
「眠気に行ってないか?」
「今しますってー」
声が、そう、この声は覚えがある。
彼のところの社長さんだ。じゃあ覗き込んでいるこの人が、そうか。おぼろげで覚えていない。識別、出来ない。
今何時だろう?
「うはあ、エロいなーこの格好」
足を掴んでぐいと間に割って入る。こっちの人が彼だろうか?彼………ええと、そう、俺って相手の名前も知らないで嫌ってるのか。
「相変わらずだよな、お前」
「もーたまんない。オレ、こういうきっちりした人好きなんだ………酷い目にあわせたくなるっていうか。うんむらむらしちゃう」
内股を撫でさすっていた指が下に這い進んできた。際どいところを触れられて綱吉は僅かに身じろぐが、覚醒までには至らない。うめきのような、掠れた声が出るだけ。
「っ………」
指が中に入ってくる。
濡れたような感触がして、固い爪の感触と、指先で、ぐりぐりと押される。
とてつもないことをされているのに、声を出すどころか自覚すら沸かなかった。ただああ、そう、と思っただけだ。
「薬か?」
「トーゼン。飲ませて、塗って、相乗効果。おかしくなっちゃうかもえげつないやつだから」
「………」
「処女でもあんあん言っちゃうって」
「おい」

ぐい、と顎をとられた。

息がかかるほど間近に誰かの顔がある。とろんと緩んだ思考では認識できず、綱吉は浅く息を繰り返した。
「まざる?」
「ふん………」
ズプッ、と指が奥まで入ってくる。同時に、シャツの中に手を入れられてわき腹や、胸の突起を弄られる。体がじわじわと熱くなってくる。
「あでもいきなり入れるのはダメだわ処女だし。まずオレで慣らさないと………その凶器じゃマズイでしょ実際。二番手でお願いしまーす」
「あぁ?」
「だって最初に目ぇつけたの、オレだよ。先フェラしてもらえば」
ぴたぴたと頬を叩かれる。
「沢田さん口。口開けて」
逆らう意思は起きなかった。言われたとおり綱吉が口をあけると、無造作に前を開け、男が掴んで取り出した男性器が突っ込まれた。
「ぐ、動かない………って当たり前か。女じゃないもんね慣れてるわけないや。ボス、使う?」
綱吉の後ろ頭に大きな手の感触が当たった。
男が力を込め、無理やり動かそうとした時、小さな舌がちろ、と動いた。
「おー」
浅く咥えたまま、綱吉は自分で頭を前後に動かし始めた。
ぎこちないが、時々先端を吸い上げたり、側面に舌を這わせる辺り、やり方は知っているようだ。
「ベル」
「いっちゃう」
呼ばれた方は頷いてに、と笑った。
指でぐりぐりと弄っていたところを広げ、勃起した男根を押し当て一気に貫く。
「………!」
綱吉の喉はひくりとしたが、体の緊張は直ぐにほぐれた。揺らされるままになっている。最も―――口の方は完全にお留守で、ただしゃぶっているだけになっていた。

薬のせいか、押し開かれる痛みは感じなかった。
体は痛んでも、心が切り離されている感じだ。綱吉の頭のどこかではこの異常事態を感じているが、大方は眠っているに近い。催眠状態にあり、いわれたことに従順に従う木偶人形と化している。
いつもとちがう、うつろな目がそれを物語っている。
くふう、くふう。息をし、前と後ろ両方から同性に犯されていても嫌がる事も無く、自ら進んで舌を這わせる。頬と肌が紅潮し、吐息が甘ったるい響きを帯びる。
体内で溶け始めた薬が効いていた。

「ん、いい」
唇を一舐めし、にやにやと笑う。
ベルは後ろからゆるく突きながら、下腹に手を伸ばして確かめた。
「もうびしょびしょ………何、結構スキモノなのかなー…沢田さん、気持ちいい?」
「ん………」
カクカクと頷く顔が、ますます操られているに近い無表情になっていく。
逆に体の揺れは徐々に激しくなる。本能で動いているのだ。あからさまな問いにも素直に答える。いつもの綱吉からは考えられない姿。
「は………出る、」
「………ん、あっ」
ひときわ強く腰を押し付け、目を瞑って喘ぐ綱吉の中へ叩きつけるように射精する。
どろりと粘度のある生暖かい液体が、白い内股を伝って落ちた。

「ふ―――っ…」
後ろから綱吉の背にもたれたベルは、満足気な息を吐いて余韻に浸る。
しかし直ぐに綱吉を抱いてその細い体ごと身を起こし、自分の方へもたれさせてから足を掴み、持ち上げる。丁度後ろから膝抱きしている格好だ。
綱吉の開かれた足の間から、とろりと精液が垂れて伝った。
「どうぞー。中で出したし、オレのでラクに入るはず」
「チッ………」
嫌そうに眉を顰めながらもう一人の男がぬるついたそこに押し付けるように挿入していく。太さに綱吉がうめき、苦しげに首を傾けたが、中へ一度放たれてぬるつき、緩んだそこは器用に飲み込んだ。
「あぅっ…」
ぐらりと体がかしぐほどに強く男が揺さぶると、最初は逃げるようにずり上がっていた綱吉の体から徐々に力が抜けてきた。
「すげー効き目」
むしろ進んで腰をあわせ、体を揺らす。薬のせいだ。どろどろに溶けた粘膜はいとも簡単に太い牡を飲み込み、絞るように収縮してしゃぶる。薬で鋭敏になった性感帯が刺激を最大限に欲し、秘部を熱く潤ませていた。加え、酒に混ぜられた催眠剤が体の余計な力みを抜いて従順な奴隷に仕立て上げる。
「イイ?」
「っ………イ…イ…」
舌足らずな言葉が綱吉の口からこぼれ出た。
半開きの口端からは唾液が伝い落ち、忘我の表情。幾らも経たないうち腰が派手に動き出す。
「すっげー美味そうに食うね?オトコでもさ………ほらもっと腰振りなよ、キモチイイぜ?」
「んっ……あ…」
「行くぜ。押さえてろ」
宣言通りがくがくと小さな顎が揺れる程、突き上げが激しくなる。
ぬちゃぬちゃと濡れた音を立てて出入りする太い感触に嬌声が響き渡った。枷の外れた、甘ったるい悲鳴だ。
「あ、ああっ……イイッ………!イイよぉっ……!気持ち、いいっ………」
綱吉は目の表情だけは虚ろなまま、腰をくねらせて叫ぶ。その手が自らの性器にかかり、躊躇い無く擦り上げた。既に勃起していた性器は間を置かずに吐き出し、細い指の間から精液が溢れる。
あられもない姿を自覚している様子はなく、普段の凡庸な様子からは想像も出来ない痴態に思わず、ベルは舌をのばして細く尖った顎を伝う唾液を舐め取った。
「すげえ淫乱………ヤラシイの、ホントたまんないよ………こういうのがいいんだよな。ずっと目ぇつけて狙ってた甲斐あったうん」
息がかかるほど間近で眺めながら、べろべろと舌を這わす。唇や頬にとどまらず、耳や目尻、果ては眼球まで舐め回して吸い付く。
ちゅぱ、と派手な音を立てて離すと綱吉の目には涙が浮かんだ。
「うぐっ………そろそろキツイ。離していい?」
「寄越せ」
押さえている綱吉ごと激しく叩き付けられる事に辟易したベルは、至極あっさりと手を離す。
離されてぐらりと傾いだ身体を、掴んだ男の腕が一本で支える。そのままソファーに押し倒すと、より激しく貪る為に足を担ぎ上げた。
深くなる結合に潤んだ目が見開かれる。但し、虚ろなまま。





自分と、二人の男が出したものにまみれて震え、荒い息をついている身体。
小刻みな震えと忘我の表情は、恍惚状態がまだ続いていることを指す。
「もう一回したい…」
「大丈夫なのか」
「大丈夫じゃないと思う。思ったより体温低い………薬全部解けてないし、効き異常に良いし。頭のネジぶっ飛んじゃうなぁ。でも女じゃないから売れないしー」
「まあな」
「そしたら飼ってもいい?」
「………」
僅か、鼻の頭に皺を寄せる顔で気付く。
きっと気に入ったのだ。
「じゃ、ま、今日はこの辺で勘弁してやろーっと」
ごろりと足で転がして、綱吉の頬を数度叩き、うっすらと目が開いたのを確めて。
耳元で大声を出す。
「ほらおいでー、洗ってあ、げ、る」
それを合図に、綱吉はのろのろと顔を上げた。
立ち上がろうとし、ずるりと滑る。それでも、這い蹲るようにして進もうとするのは、催眠状態もまだ続いているということだ。
「何使ったんだお前」
「かなりヤバイ」
浴室でするコトを考えると、それはそれで楽しい。
ベルの機嫌は上向いた。


2006.7.7 up


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