「………っと何だこれ。おぉい、何か転がってんぞ」
「大事に扱ってー。痛めちゃまずいんだ熱出してるから」
「おま、また………げ、しかも男じゃねえか!」

頭の上で声がした。

「とうとうお前もアレの仲間入りかよ」

(若干遠くから男の声で、「アレって何よ私は薬使って乱暴なんて外道なマネしないわよ!」と聞こえてくる)

「オレだけの責任じゃないし」
「は?」
「ボスと二人がかり」
「マジか………こいつ、災難だったな」

額に冷たい手の感触。
そして暗転。








いつもの出勤時間より早く来たのは、休んでいる間にたまった仕事を片付ける為だった。
綱吉はどうにも調子が悪い体の色々なところをコキコキ言わせながらため息を吐く。金曜の夜、仕事帰りに飲みに行った事までは覚えている………が、それ以降、日曜の朝出勤時間を大幅に過ぎた午前11時まで、明確な記憶がないのだ。まるでそこだけすっぽり抜け落ちたように。
どんな酷い酔い方したらそうなるの、とあきれ顔の母親は、タクシーに乗って帰ってきたと言うのだが。その辺りも全く記憶に無い。
いや、タクシーのシートとか車の揺れ、なんかは覚えているような気もする。
しかし何処に居て何をしていたかと聞かれれば、はっきりとした答えは無いのだ。
幸いにして会社には連絡が行っていて、無断欠勤にはならずに済んだ。
「………ふう」
ぼんやりと霞のかかったような頭で、見慣れた書類の束を広げる。
ぽつぽつと店の人間が出勤してくる中、遠目にも細長い例の人影が目に入ると、綱吉の背中はざわりと粟立った。

………なんで。

いつも通りの光景だ。露店の品を広げ、開店の準備をしつつ此方を伺ってにやりと笑う、ベル。
(あれ?)
綱吉は違和感を感じ、眉を寄せる。自分は彼の名前を尋ねただろうか。彼もそれに、答えただろうか?
では何故知っている………ぽっと浮かんだ………のだろう。

「沢田さーん」
いつもどおり、へらへらと笑いながら声をかけてくる。
綱吉は一瞬戸惑った顔をしたが、直ぐに曖昧な、いつもの笑みを浮かべておはようと返した。
「体の調子どお?」
「え………ああ、うん大丈夫、」
「よかったオレ心配でさー」
(え………?)
会話をしていても、背中のゾクゾクは一向に止まらない。
意味不明の動悸を繰り返す心臓をそっと押さえながら、綱吉は小さくありがとう、と礼を言った。


2006.7.7 up


会社に電話したのは鮫

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