卒業の日
「好きな人がいるんですよ」
「ウソォ」
マジ、顎が落ちた。なにしろ俺の前でさも恥ずかしそうに(と言っても見た目あんまりかわんないんだけど、そこそこの付き合いでなんか分かる)言うそのお姿が信じられない。
この人は無駄に良い顔なので、髪型が多少変……いや、個性的でも、言動が怪しくて変態チックでも、実際怪しげな変態でも問答無用で女子にモテまくっている。毎日毎日飽きもせず代わる代わる告白と手紙とに埋もれつつサラリと回避してしまえるだけの要領の良さに、「僕同い年は趣味じゃないので」と言ってしまえる俺様キャラから言えばまったく相応しくないジョークだった。
と思ったら、ジョークじゃなかったみたい。
「なんで……」
饒舌な先輩にしては珍しく絶句、してしまって、机につっぷつしてシクシクやりだした。
やっと顔を上げたかと思えば、途方に暮れたような顔をしている。
「なんでって、そりゃあ」
言いにくいよな。アンタ性格悪いジャンとか。趣味、嗜好、レベル高過ぎとか。
適当に愛想笑いして、心に浮かんだことを喋ってみた。
「っていうか、その人可哀想ですね」
「なんでですか?!?!」
「だって先輩に好かれるんですよ」
「どういう……意味でしょう」
おお、笑顔がコワいぞ。
「あ、えー、違います。つまり、先輩に好かれて、そんでもってまかり間違って先輩が告白したとするでしょ?」
「まかり間違……」
「で。先輩には常時10人くだらない女子が2時間ドラマの老刑事の如く張り付いてんですよ次の日にゃーもうニュースが全校飛び交ってその子いじめられまくりですよカワイソー。悲劇ー。先輩のせいだ全部全部わっサイテーうははははは」
……正直に言おう。
その時は、まったくもって俺は僻んでいた。生まれてこの方モテた事のない中学男子が、部活動の合間に聞かされた、ウソかホントかも怪しいノロケ話に丁寧に付き合う義理はない。そう思って。それが。
3年後。
こんなカタチで自分に返ってくるなんて思ってもみなかったのだ。
「もう一度言いましょうか?君が好きです。付き合ってください」
「……は?」
「卒業したから。もう良いでしょ?僕が告白したせいでいじめられてカワイソーな目にはあいませんよね?だから」
「……バカ」
なんですって、と目をつり上げる無駄にかっこいい先輩を見て俺は途方に暮れた。
前から変人だ変人だとは思っていたけど、ここまでとは。救いようがないぜ。
2008.8.9 up
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