はじまり
絞首台に引きずり出された囚人のような面もちで、ツナは第二理科室の扉をノックした。
知らなかったとは言え、なんという事をしでかしてくれたのだろうこのポンコツ脳は。
はいと返事がくる。スンと鼻を啜り上げながらガララとドアを開けると、中は
「いらっしゃい新入部員。沢田綱吉君。歓迎しますよ」
「……どなた!?」
パチパチパチと手を叩く笑顔の男。
我が校の制服を着ているのが疑わしいほどキラキラしい。
なんか、一緒の空間にいたくない。
「あちゃー…」
やっちゃったよコレ。
ツナはくるりと回れ右をして帰ろうとした。ただでさえ地味で目立たない、平凡の文字を3回重ねたような自分を並べたいビジュアルではない。女子が騒ぐのも分かった。もういい。
「ちょっと何処行くんですか沢田君」
「もういいぃぃ」
「折角君の為に歓迎の準備をしていたのに。昨日のお礼に」
「へ?あっ……ぐおっ!!」
ガッシリと肩に食い込んだ手は細いが馬鹿力だった。ぎゅおんとものすごい風圧を感じたかと思うと、ツナは理科室中央の椅子に座られていた。
「いいいいのちだけはおたすけを!」
「なんのことだか」
ぐらぐらと煮立つビーカー。黒っぽいものがたまった漏斗(フィルター付き)。薬品さじにアルコールランプ。
絶対マッドな博士の実験中に出くわしちゃっている!
涙目で見上げると、男は3年の胸章を付けていた。
そして、頭がちょっぴり焦げていた。
あ、なんだ。
「寝太郎さんだったのか」
「ネタロウ?」
ぽこんと納得の手をうち鳴らし、途端にニコニコと打ち解けた様子を見せるツナに男は怪訝な顔をしたが、もう相手が逃げようとしないので向かい側に座った。
寝太郎がビーカーの中の煮立った湯を漏斗に注ぐ。香ばしいコーヒーの香が立った。
「ってコーヒーかよっ!」
「え?ええ、はい」
「なんでこんな道具使ってんですか?」
「機能は同じではないですか」
「……俺コーヒーなんておっさんくさいものは飲みませんよ」
ツナはすっかり安心していた。
噂の六道がウッカリ寝太郎ならば、もうなんにも怖くない。だってただのウッカリさんだから。
多少顔が良くてキラキラしていても、ウッカリさんだから。頭、焦げてるし。
「ミルクと砂糖もありますよ」
「ギャ、ギャーッ!スポイトと薬用のさじで入れましたね今!!」
「煮沸消毒しているので大丈夫です」
「そーゆー問題じゃないんですよ……!」
「どうぞ」
カップだけはまともだった。
恐る恐る口をつけると、以外と美味しい。苦みが無く後味もすっきりしていて、あの悪魔の飲み物とは思えない飲みやすさだ。
「あ、うま」
「良かったですね」
「ですねー」
ニコニコ。
ニコニコ。
「いやナゴナゴしてる場合じゃなくて!!!」
ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がったツナは、寝太郎、もとい六道なんたらの顔面に指を突き付けて言ってやった。
「昨日のあれは間違いです!俺はただの科学部に入るつもりだったんです!」
「そうですか」
「……」
「?なんですか?この手……」
「入部届けですよ。返してください」
「却下です」
そんな殺生な。
ボーゼンとするツナに、六道は立ち上がりニッコリ宣言した。
「もう君は科学研究部員です。申請は受理されました撤回は効きません」
さあ、何をして遊びましょうか?
高い位置から手を差し伸べる。その胡散臭い笑顔に苦虫を噛み潰したような酷いツラを見せ、ツナはうなり声で喋った。
「……科学研究部に、PS3はありますか?」
2008.8.11 up
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