天使降臨

 

「ちょっ、なに、あんたっ」
「知り合い?」
ニコニコ顔で二人を交互に見上げる家主婦人に真実を告げるべきか否か。
綱吉が迷う間、男の方が先に口を開いた。
「いや、俺は知らないな。誰か似た人間と間違えてるんじゃないのか?」
「そうよねえ」
昨日イタリアから来たばかりですものね、ときたもんだ。
綱吉はぱくぱくと口を開閉していたが―――

まてよ。
(俺は寝不足徹夜明けだったし、あの時は動転してたし………)
まさかあんな場所で人殺す寸前だった男が、こんなところで暢気に猫なんか抱いてる訳ないよね。
「アハ、アハ、アハハハすんません知り合いに似てたもんで」
自分の記憶力に自信がなくなっている綱吉は、誤魔化し笑いを浮かべて手を差し出した。
「よろしく」
「よろしく」
ぐっ。
強い力で握手しかえされて綱吉は呻いた。痛い!
更に猫を抱いたまま男は抱擁の挨拶までして、耳元に爆弾を落とし込んでいった。
「楽勝だな」
「―――ッ!!」

間違いではない。
それに顔がおぼろげでも、声。
声だけは、覚えているぞ…!

「じゃ食事にしましょうか」
綱吉が身構えたその時に、正に宣言は下された。
がくんとバランスを崩してずっこけかけた彼は引きつり笑いを浮かべて席に着き、カトリックの彼女が述べる祈りの為に目を瞑った。
(あわわわ………)
しかし、瞑ろうったって瞑れるもんじゃない。
そっと伺うように片目を開けた綱吉に、向かいに座る男もまた同じように目を開けて―――
(なっ…)
ウインクした。悪戯っぽく笑う口元が、イタリア語で何事か呟く。祈りに紛れた。
(なんかこいつ………)



ヤバい匂いがする。



綱吉は生まれて28年間培ってきた変態センサーがファンファン鳴るのを感じた。
案の定、テーブル下の足にコツ、と靴の感触がし、次に足がくるりと絡んだ。
長くなきゃできない芸当だっ………て感心している場合でなく、ふりほどこうと足を振る。
ガスン!
「いでえっ!!」

「………どうしたの?」
椅子から転げ落ちた綱吉は空虚な笑いを浮かべてガタガタと直し、尻をずりあげた。
「なんでもないです、よ、ハハ」
「そうぉ?」

ならいいけど。

3人は彩り豊かな食事を前ににっこりと笑いあった。


2006.4.21 up


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