幕間.船倉

 

胃が裏返る。吐くものは何も無い。胃液だけが喉を逆流し、喉や鼻を焼いて酷い不快を刻みつけ続ける。
頭の中であの言葉が何度も何度もぐるぐる唸る。
わかっている。彼に言われるまでもない、自分は身を以て知っている。あの小さな赤ん坊が如何に自分を守り導いてきたか。
おかげで、学校ではヒーロー扱いもされた。ちょっと変なやつ扱いもされたが、好きだった女の子とも仲良く慣れた。友人が出来た。とても素晴らしい友人が。

初めて世界に自分の居場所が出来たような気がした。

けど。
以前から兆候はあったものの必死でおさえてきた力は爆発を起こし、暴走を始めた。コントロール出来ない。見たくないものが見え、絶望し続ける自分を救うべくあいつは最大の間違いを起こした。

彼等が本国と呼ぶイタリアは確かに美しく華やかな国だったが、同時に裏で流れる血の量もおびただしい。その全てに手を浸し、お前のためだと耳元で囁かれたとて到底受け入れる器は自分には無い。無いものは無いのだ。
だから彼が貯めたがった器は空っぽだ。何処も血に馴染みはしなかった。苦しい、吐きそう、逃げたい、助けて。繰り返す懇願に彼は根気よく諭した。

慣れてしまえばいい。

慣れたくない。

じゃないとお前が辛いんだ。





優しい腕も声も守ってくれる腕もとうとう最後まで相容れなかった。さようなら。
あなたのことは大好きだけど、俺は二の足を踏み続ける。


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