第三の眼
「久しぶり」
嫌味でも何でもない。しばらく彼の顔は見ていなかった。
骸は処理の真っ最中だった。敵のただ中に飛び込んできた愚かな騎士を仕留めた所で、彼はハズレだった。王は別に居る。
少年は血まみれで転がっているその物体を流し見、ほんの僅か眉根を寄せた。
「何か見えたんですか?」
「いいえ」
「他のご用事、そう」
骸は動かぬ半死体をずるずると引きずり、部屋の端で床の穴に落とした。鈍い音がしている。また骨が砕けたかもしれない―――彼はとんだ災難だ。
「餌にかかったけど、本命じゃなかったんですよね。まるで釣りだ」
「まあね」
少年は部屋にこもるか、でなければこそこそと外へ出ている(筈だ)ようなのに、骸達のやっていることを承知しているようだった。
「そこまでやる必要、あるんですか」
「さあ」
血に濡れた拳を丁寧に拭って骸は少年に向き直る。
「それで?ご用件は?」
少し、戸惑った。
迷いがまだ瞳に揺れている。
陰鬱な表情が和らいだが、代わりにわき上がってきたのは焦燥だ。どちらにしろ辛気くさい事には変わりない。
「止めませんか」
「何を?」
「今回の事。貴方―――負けますよ」
時を止めるのに十分な一言だった。
骸は一瞬の後笑いを抑える事が出来ず、くつくつと笑い出した。ソファーに凭れ仰け反って笑い出す。激しい、発作のようなそれに少年は黙って耐えていた。
「なぜ笑うんです」
「僕が死ぬ、と?クク………うそつきさん、さあ何が見えたんです?」
「俺は嘘をついてません。見えたんじゃない、見たんだ」
見た。
そう言うとき、一瞬だけ少年の目が精気を取り戻す。苦痛と綯い交ぜになった力。
「忠告はした………んだ」
「心配要りませんよ」
僕は何度でも蘇る。
骸は絶対的自信を持ち心の中で言い放つ。自らの強さは誇張でも自信過剰でもなく、あの連続した狂気と苦痛の日々の落とし胤だ。生きている限り使い続けるべく、己は。
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