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もういい加減二時間もひたすら画面を見つめていただろうか。
ツナは突然コントローラーを放り出して呻き、空になったコップを見て立ち上がった。
「茶ぁでもいれっかなー。お前は?」
「ふぁ…」
大あくびをする顔は折角の美少年が………ああ………というようなんで、ツナは思わず笑ってしまう。
「ンだよコラ」
「メシにすっか。なんだ、夜更かし?」
「…そんなところだ」
大人びた物言いももう慣れた。ツナは空いたコップを掴んで台所へ戻る。もう暗いので照明のスイッチを入れ、容器をレンジに突っ込んだ。
「皿になんて出さなくていいや………」
メンドくさい、とお決まりの文句を言っておひつをのぞく。飯は満杯。
コロネロのいいところは今まで知り合ったガキと違い、好き嫌いが一切ないところだ。正確にはあるらしいのだが、隠していて絶対に教えてくれない。
日本人であるツナとナナは米の飯が主食となる。つぶつぶが嫌だとかキモチワルイとかよく考えたくないような意見をいい、パンにピーナッツバターを塗りたくるあいつらよりかは一緒に食ってて気分いいかなぁとツナは思っている。
コロネロは器用で箸も使う。ツナよりも上手いくらいだ。
準備が出来ると両手を合わせてイタダキマス。これも、ちゃんとやってから食べている。
「あー腹減った」
正直、親御さんの顔も知らない(なんと会ったことがない!)子供を家に連れ込んでしまうのはどうかと思うこともある。しかし、一人で夕食を食べ孤独な時間を過ごすくらいなら、一緒がいいよなと思うのもまた事実。
コロネロも誘いに遠慮―――最初は―――したことはあっても、嫌がった事はない。きっといいのだろうと勝手に決めて、姿を見れば毎回引きずっていくのがツナの日課となっている。
「おーおー、相変わらずいい食いっぷりだねぇ。良く噛んで食えよう」
「お前もな」
ズバっとつっこまれてツナは口をへの字に曲げた。
夕食後は、仕方なくツナは課題を開く。これはコロネロに会うまで無かった習慣で、宿題など無視しっぱなしの放りっぱなしだったのが、「お前は学生。学生の仕事は勉強だ!」と大人のような説教をされて始めたのだった。
多分五つは年下の少年に諭される情けなさは、これは体験した者にしか分かるまい。大人に言われればムッともする。けれど。ツナは密かに落ち込んだものだ。
茶を持ったコロネロが部屋に戻ってくると、乱暴な仕草でドンと置く。
見目は良いのだが愛想の欠片もない態度である。
「飲め」
「………うん」
ありがとう、と一応礼を言っておく。本当は、コロネロの入れるお茶は濃かったり薄かったりの差が極端でアバウトかつ野性味溢れる味がして、飲むにはなかなか勇気がいるけれども。
「ツナ」
呼ばれて顔を上げる。コロネロは、自分で入れた茶を眉を顰めながら啜り「不味い」と一言。
………なら気ィつけろ、なんて怖くて言えない。
「なんだ?」
「学校で、何か変わったことはなかったか」
「別にィ?いつも通りウザくて馬鹿馬鹿しくてつまんない」
「そういうことじゃねえ」
苛立ったように拳をドン!とテーブルに置く少年の顔は、ややシリアスだ。
「学校の行き帰り。出かけた先。誰かにつけられてるとか―――」
「なんだソレ」
「チョイややこしい事になってな………いや、何もないなら別にいい」
「いや気になるし」
「いい」
「だから気になるってば!」
「いいっつってんだろコラ!」
ドン!
ツナがびくんと肩を上下させると、コロネロは苛立ったように立ち上がった。
「どこ行くんだよ」
「帰る。邪魔したな」
「お、おい」
スタスタとまっすぐの細い足が玄関に向かい、ドアを開ける。センサーで真っ暗な通路にパッと電気がついた。
きょとんとしているツナを振り返って、コロネロは小さな声で言ったのだった。
「…すまん」
「………いや、別に、そのう」
もう閉まってしまったドアに向かって、ツナは煮え切らない返事をした。
天地がひっくり返っても有り得ない言葉―――謝罪の言葉を、よりによってあいつが言うなんてという気持ちで一杯だったからである。
2006.3.26 up
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