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その夜、ツナは寝付けなかった。
このところ学校帰りも朝もいつだって、コロネロの姿を見ていなかった。もしや引っ越してしまったのかと気になって仕方がない。それに、あの妙な言葉も。
ナナは放浪親父に呼び出され、数日留守にしている。(ツナは学校があるからと断った)家には一人で、おまけにいつも相手をしている(くれる)チビが数日見えないとなると―――俄然心細くなる。
暗い部屋で目をぱっちり開けて、耳を澄ます。昼間は工事の音だらけのこの界隈も、夜になれば静まる。車通りの激しい大通りから離れ、治安が悪いことで逆に人が通らない。たまに身の毛もよだつような叫び声がして、翌朝警官がいっぱい道路を占拠していることはあるけれども、少なくともこの建物は他よりは多少セキュリティが良いはずだ。
ガタガタッ、と物音がした。
隣室の、コロネロの―――部屋からした。
ツナは起きあがり、靴下をはいて暗い家の中を玄関まで進んだ。日本の習慣で、靴は玄関で脱ぎ履きしている。
怖さを堪えてそっとドアを開けると、いつもはセンサーが利いて点く筈の明かりがいつまで経っても点かない。思い切って、頭を出して隣家の入り口を見る。
「あっ………」
ドアが開いて、中の明かりが漏れていた。
物音は続いている。
ツナがどうしたものかと悩んでいると、何かを背負った大きな影がのしのし出てきた。カチャカチャと金属を触れ合わせるような、密かな音が。それと、何かを数える低い男の声。
(あいつの親父か?)
初めて見た、ううん、これはあいさつすべきだろうか………しょうもないことで頭を悩ませながら、ツナは足を一歩踏みだした。
「誰だ!」
闇に鋭く響く声。思わず身を竦ませ、びくついたツナだったがよく考えてみればここは自分チの玄関先、住んでいる人間が何時外出しようがフラつこうがこっちの自由である。
これはもう開き直ってご挨拶申し上げようと、ドアから手を離して姿を現す。
「あの、夜分に申し訳ないんですけどぉ………」
「ツナ?!」
「え?」
なんで、と思っている間も無かった。
ツナの目に飛び込んできたのは、通路突き当たりの窓が開いていて、大きな棒みたいなものが外へ突き出ていて、その下の暗がりに誰かが潜んでいる光景。そして―――
「伏せろ!」
ドガアン、と派手な音がして閃光が目を焼いた。一瞬間を置いて豪風が吹き荒れる。
「うわあー!!!」
転がったツナの上に誰かが覆い被さっている。というか、押し倒されるようにして固いコンクリートの地面に転がったのだ。
大きな手の感触が後頭部にした。きっと衝突しないようにとの気遣いだが生憎、背中を打っていた。
「ぐえっ」
苦しい悲鳴を上げるツナの体を腕が支え、持ち上げる。ぐるぐる振り回される感覚がして目を開けると、ぶわりと強い風が正面から吹いていた。
「ギャー!!」
「予定変更だ」
いつの間にかアパートメントの屋上についていた。思うに、距離と時間的に、窓から出てそのまま上がったのだろう。
けどどうやって?なんで?疑問はたくさん、答えは無い。
恐る恐る自分を抱えている人物を見ると、それはごっつく膨らんだポケットから何か塊を出すと、乱暴にピンを抜いて放り投げた。
え、何今の。もしかして………
ドォンと轟音。閃光。
「わー!」
幾ら物騒な地域でも、ナマで手榴弾の爆発を見るのは初めてだ。ツナは喚いた後ぽかんと口を開けてその方向を見ていた。
その建物は去年の暮れに建った新しいビルで、確かナントカいう有名企業の支社だという事だったが………
「ひええっ…」
今や壁から煙を出し、ガラスは半分割れ、下の道路では通行人が悲鳴を上げて逃げまくっていた。
一体何が。
尋ねようと思っても舌が動かず、ただうう、とかああ、としか言えない。
ツナを抱えていたごつい腕がまたぐっと力を入れる。なんだ、と思った瞬間高く跳躍した。
―――落下!
する筈だったのに、隣の建物の屋根に着地する。ドスンと衝撃で舌を噛みそうになって慌ててしがみつく。またジャンプ!パジャマの足がぶらぶらと宙に浮いた。
「俺を撃つとはいい度胸だ………少しばかり派手に行くぜコラ!」
あ。
聞き慣れた口調と聞き慣れない声に驚いたツナが顔を上げる前に、後ろへ吹っ飛ぶ衝撃が来た。それはツナを抱えた人物が"何か長い棒のようなもの"から発射した弾丸のせいであり、反動だった。
それでも壁に激突する寸前、堪えた足でバランスを取り衝突は免れている。ツナはその驚異的な身体能力にあんぐり口を開け、次いで正面を見て顎を落とす。
新築のビルが轟音を立てて真ん中からまっぷたつに折れ、鼓膜をつんざく音と共に崩れ落ちていったからだ………
靴下の足のまま、ぺたぺたとツナは冷たいコンクリートを踏む。
縁に手を置いてしっかりと掴み、ヒョイと下を覗き込んで。
絶叫した。
「なんじゃこら――――――??!?!?!!」
さもあろう。
ツナが見た光景はすさまじかった。ビルの倒壊を見てもなお、驚くのはそれが―――丁度隣家、コロネロ宅と自分の家の場所を綺麗に抉って跡形もなくしている無惨な眺めだったからだ。
「あ、ああ、あああ…」
お気に入りのゲームもマンガもゲーム機も財産一式何もかもを、灰にしてぶっとばされてしまった事態に信じられずガクガクと震える足を抱える。がっくりと膝を抱え顔を埋めて、ショックに呆然とするツナの横では背の高い男が居心地悪そうに立ち、ブーツの踵で飛んできた灰の塊を踏みしだいていた。
2006.3.26 up
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