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野次馬が集まってきやがった。そう呟くと男はツナを抱えてまた跳んで、建物裏手にある駐車場に下り立った。大型のランドローバーに放り込まれて体勢を立て直す間もなく、車は急発進する。
「イッ………テテ…」
後部座席は何か固いものでいっぱいだった。投げられた拍子にがっつんとぶつかり、ったくナンダヨと除けるとガチャガチャ音がする。
まず一番先に目に入ってきたのは、かなり大型のマガジン―――少なくとも拳銃の大きさではない。
「うわっ」
次になだれを起こして頭の上に降ってきたのがサブマシンガン、腹の下にあるのがショットガン、シートの上に積み重なっている拳銃と―――
なっ、………んだこりゃ店でも開くつもりか??!
「おい!」
がばっと前の座席に身を乗り出す。助手席の足下に置かれたライフルは、先程ビルを倒壊させた一本だ。
「黙って座ってろコラ!」
タイヤが何かを踏んづけたらしい。車体は激しくバウンドし、ツナはもんどりうって転がった。
高速で走る車内は話をするのに適当な場所では無さそうだ。ふてくされてシートの上の銃器を落とす。寝転がって目を閉じる。
「後できっちり説明して貰うからな、コロネロ」
その一台はゲートを潜り、夜のハイウェイを疾走する車の中に混じった。
夜明けの匂いだ。
ひんやりと冷たい空気を嗅いで目が覚めた。潮の香がツンと鼻をくすぐる、多分海に近いのだろう。
固いシートはツナの体温で温まり、まずまずの寝心地を確保していた。いつの間にかかけられていた毛布もありがたかった。深く中に潜りかける。
「起きねえのか」
「もうちょっと寝かせて………昨日遅かったろー誰かさんのせいで」
もそりと顔を出す。ドアを開けてツナを見ているのは、紛れもなくコロネロだった。
その細い指がツナの頭の上に被さった小銃の台尻部分を除けて、足下にスニーカーを置いた。
新品だった。
「服は我慢しろ。お前のサイズは無い」
「そりゃどうも」
大義そうな仕草で起きあがり、ウウンとノビをする。スニーカーに靴下の足を突っ込んで足先を軽く揺さぶるとズボッ。
入りすぎだ。
「大きすぎるよ…」
ツナの足は長さと太さが比例せず、既製品のスニーカーは実はちょっとだけ合わない。どうしても履きたいときは厚めの靴下を、なんて涙ぐましい努力をしている。
カポカポさせて外へ出る。寒いので毛布を巻き付けて、中はパジャマのままだ。
霧が深くて辺りが見えない。
「ここどこ?」
「海」
「見りゃ分かる」
「なら聞くんじゃねえ」
愛想もへったくれもない。眠い目をショボショボさせながら隣を睨むと、前の方からざくざくと足音が近づいてくる。潮に洗われたコンクリートを踏む音。
ザッザッザッ!
まるで軍隊みたいに揃いきった足音がちょっと後退ったツナと、平然とその場にふんぞり返るコロネロの寸前で止まる。
霧の中から姿を現した男達はニットを着て色褪せた帽子を被り、漁師の格好をしていたが目つきが鋭すぎた。おまけにツナを睨み付けた。
「………、………?」
「………」
わからん………
かろうじてイタリア語らしいことは分かる。けれどツナの語学力はお世辞にも良いとは言えず、大体英語だって習得するのにかなりの時間をかけた。そしてやっと覚えたと思ったら今度は母国語の日本語が怪しい。
どうやら自分の言語中枢は随分お粗末で不器用だと結論付け、ツナは会話の意味を推察することを早々に諦めた。どうせ訊いても教えてはくれないのだ。
男達は5分は話していた。その間、ツナは岸壁の金具に腰を下ろしてぼんやりと海を眺めていた。
霧が深くて遠くまではよく見えない。船も、この状態では航行出来ないのだろう。船影もない。
顔も手もいい加減潮っぽくなってきたところで呼ばれた。
元の場所からランドローバーは移動していて多分―――船に積み込まれたのだろう。コロネロが一人立っており、手には服を持っていた。
「着ろ。そのみっともねえパジャマでうろつくつもりかコラ」
「着ますよ着ますよ。ったく………みっともない?大きなお世話さま…」
ぶつぶつ言いながら受け取る。少々サイズが大きすぎるようだが、一応はまともな服だ。
大きすぎるウエストをベルトで締め上げ、シャツはそういうファッションだと思うことにした。靴下をもう一枚履いて靴を丁度にし、最後に服の袖で洗っていない顔を拭う。
「準備完了」
「よし」
邪魔なパジャマは丸めて、港でゴミに紛れさせて。
二人は歩き始めた。朝靄霞む港を出、ぽつんと立った停留所でバスを待つ。
「随分格好に差があるなァ」
「お前は予定外なんだ」
それを言うなら、ツナだって家を吹っ飛ばされるのは予定に入っていないのだ。
ぶつぶつと文句を言いながらやっと来たバスに乗り込むと、一番後ろの席に陣取る。コロリと身を横たえて隣に座った少年の腕をつついた。
「なんだ!」
「着いたら起こして。俺寝るからさ」
「置いてってやる」
「やめてね」
2006.3.26 up
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