睫毛長いなあ、鼻高いなあ、肌意外と綺麗なんだもんな、煙草プカプカ吸ってる癖に。 ほとんどくっつくぐらい近い獄寺くんの顔を見ながら俺は感心していた。どうしてこんな容姿に非の打ち所のない人間が、立派な男が、女なんてめんどくさいって思っちゃうんだろ。彼の場合かっこつけじゃなくて本気に面倒がってるから余計始末が悪い。要らない、ってっちゃうんだよ。要らないって、なんだよ。すごい贅沢発言!でも獄寺くん本当に要らないんだろうなあ。 「キ、キ、キス、とかしちゃってもいいですか!」 「どうぞ」 獄寺くんはもうバリッバリに緊張しているようだった。俺に呼ばれてもしばらく返事せずにぼーっと突っ立ってたし、見かねて俺が手を引いてきた。何もない所に座ろうとするし、足がもつれてまともに動けないし、こんな彼を見るのは………あー、ビアンキに会った時ぐらいかな? ただしあの時の彼は青い。今は赤い。其処が違う。 そっと触れるだけのそれが、何度も繰り返すとちょっとは長くくっついている。それもいいのだがいい加減、じれったい。俺は真っ赤になった獄寺くんの頭を掴むと、少し勢いをつけて自分のを押しつけた。ついでに舌も入れてみた。びっくりしたみたいに目を見開いた獄寺くんはぎゅうっと目を瞑りなおして、わたわたと俺の肩をおさえた。でも止める気はないみたいで、嫌がってもいない。よかった。せっかく始めたんだもんな、これでまた別の手を考えろとか言われたらもうそれこそ面倒で、面倒で、面倒見きれませんよ。 そういえばリボーンに今回の事を話したらあいつ珍しくぴったり10秒固まってたっけ。そいで人の顔見て熱あんのかとかバカがもっとバカになったかとかすごい言われようで、だって俺のせいなんでしょ獄寺くんが童貞なのって、で、お前が言ったんじゃんよ男にしてやれって。で、獄寺くん女の人面倒ってんだから俺が相手するしかないわけよめちゃ単純な図式。お前の責任の取り方が極端だって、獄寺の病気が余計酷くなるだけって、病気って失礼だろそれ。確かにちょっと行き過ぎではあるけども――― 獄寺くんはさ。 人よりちょっと、一点集中型なんだよな。彼ダイナマイト好きでしょ。いつも一緒にダイナマイト、ダイナマイトin獄寺隼人だよね?幾ら好きでも普通はそんな危険物体にまきつけたり自爆趣味でも無い限りしないじゃない。好きの度合いがちょっと、違うのね。 で、興味ないのには徹底して無視っつーか、見えてないってーか、とにかくそう、バラけて極端。勉強はオールでまんべんなく出来るけど、人付き合いはダメとかそういうの。 それで多分俺の事は会った瞬間から雷が落ちましたって(会った瞬間はヤワとか言われてたよーな気ィすんですけど………言わないよ?)結婚後のハイテンションで喚く女みたいな事言うし、半端じゃなく命かけてるし、好きなんでしょう。女は興味ないから、面倒なんでしょう。 そう考えてみると獄寺くんてえのはとにかく個性的に見られがち、でも本音はとてもまっすぐな人なんだと思う。まっしぐらなんだと思う。で、たまたま彼の一生を決めるまっしぐらがボンゴレ10代目の俺だったんだ。だから俺の事が好きで、男だけどそういうのは関係なくって、ただただ10代目10代目なんだろう。まるで他が見えてない。それだけで選択肢が俺になってしまうのだ。 俺はと言うと。 ようやくキスに慣れてきて薄目を開けた獄寺くんの目とか長い睫毛とかサラサラした髪を見ながら女の事を考えていた。ごめん! 俺が今付き合ってる女の人は………こっち来てバタバタして少し落ち着いて、じゃあせっかくイタリア来たしローマでも観光すっか!って思ってあちこちまわって、クリスマス市で有名なナヴォナ広場の四大河の噴水脇に座って足をぶらぶらさせながらカフェで買ったカプチーノを飲んでいた。大道芸人がいて、買い物帰りのおばさんがいて、人はいっぱいいるんだけどなんかのんびりした場所で気に入った。歩き通しで疲れた足をとんとん叩きながらぐるりと周りを見渡してたら、スッと前を横切った女の子が(といっても、俺より年下でもこっちの人はみんな女の人、大人に見える)隣に腰を下ろしてちらりと俺を見た。 後で分かったことだけど彼女は学生で、イタリアでも有名な大学で自然科学を勉強していて、特に環境問題とか動物保護の運動に積極的に加わるようなバリバリ主張の強い秀才だった。 いきなりイタリア美人が俺の顔じっと見てくるので緊張して、その時俺はTシャツにジーンズっていうティーンみたいな格好をしてて、学生とか………子供とか思われてんのかな、と思いながらチラッと視線を返したらいきなり彼女は鯨の話を始めたのだった。 どうやら日本人は全員捕鯨に賛成で、肉が大好きで、鯨の影を沖にみるや勇ましく小舟で出ていって銛でぐさぐさ突き海を赤に染め残忍な鯨大バーベキューパーティーをやるとでも思いこんでいたらしく、俺が鯨肉を食べたことがないと知るやその大きなハシバミ色の目をぐりぐりさせた。 鯨肉なんて食ったことないしできればあんまり食いたくないし、俺の周りの人もそんな感じで、多分鯨は大きいから昔の貧乏で肉買えないような日本だったらあのおっきな鯨はごちそうだったんじゃないかなと適当にずらずら言っていたら、彼女は謝った。自分の勘違いで失礼なことを言ったとすまなそうに言うので、俺はしなきゃならんと思って夕食に誘った。隠れて俺のガードをしていた部下の中から出来るだけ人相のいいのを選んで美味しいレストランに連れてってもらい、マフィアのボスやってますなんて事は伏せて置いた。驚かせちゃだめだと思ったんで、別に下心はなかったんだ。 でも3度目に会った時、彼女が俺の事を好きだと言ってキスをくれた時嬉しくて、ぎゅっと手を繋いで言おうか言うまいか悩んで結局―――言わなかった。ファミリーのボスなんて言ったら媚うられるかとことん嫌われるかどっちかなような気がして。 それで俺は目出度く3人目の彼女が出来て、今もそれなりにうまく言っている。俺が彼女に会えるのは週末よりも平日だけど、仕事の都合というとちゃんと納得してくれる。俺は会った時みたいなティーンの格好をして会いに行き、彼女の案内であまり知られていない名所を巡ったり、安物市をひやかしたりしてのんびり過ごす。たまに泊まる。彼女は家においでと言うけど、ボスは暗殺の危険があるので駄目なのだ。部下が抑えたホテルに泊まる。 彼女は美人で、頭が良くて、男なら誰もが羨むような恋人なんだけど、俺は割とそういう人に縁がある。前に付き合っていた2人もそうなのだ。彼女たちは個性と主張が強すぎて、普通の男だとこの女扱いにくいと考えるらしい。言われるらしい。俺は扱うより扱われる方がこと恋愛に関しては楽だから、黙って話を聞いている。時々、相づちをうつ。否定的な意見も、肯定的な意見も言わない。そういうのが、彼女たちには必要だから。かっこいい男よりも、頭のいい男よりも、俺みたいな薄味のがあうんだろう。 それで話を聞いて貰っていろいろ確認しながら女の子達は人生の選択をし、元々才能があるから上手くいき、それを俺のおかげだとか大喜びしながら去っていく。留学だの僻地だの飛んでいく。躊躇などせず、自分の夢を突き進む。俺は良かったねえと言いながら自分は自分でこんなイタリアくんだりまで来てマフィアのボスをやっている。 あの子もあの子もいなくなって、彼女も学校卒業したら予定があるみたいだから多分いなくなって、俺はまだこの地に用事が延々とあって、でも多分獄寺くんはずっと一緒なんだろうな、と気付くと大事にしなきゃあと思うのだ。彼は同級生で友人で親友で部下だから、俺を補佐して庇ってくれて、自分の事はひとまずおいてまず俺だ。そんな人は探したっていやしない。大事なんだ。唯一無二の獄寺くんだ。 そう考えると俺は獄寺くんをかなり、大分、頼りにしているように思うし、好きなんだ。だからこんなことしてもあんなことしても良いやって思うんだ。そしてそれは間違ってない。 だってホラこんなに嬉しそうだし。 獄寺くんは女とは違うけど、でも別にそれで嫌ということはない。ごつごつした指とか広い肩幅が気持ち悪いなんてことはない。むしろ、照れてちょっとゆるんだ目元も、高い鼻も、薄い唇も好みかもしれない。厚ぼったい官能的な唇より、冷たそうなその方が俺は好き。 やばい、俺、獄寺くんの顔好みかも。 「獄寺くんは、綺麗な顔してるね」 「は、はぁ」 「格好いいよ」 「ありがとうございます!」 「だからもうちょっと………ウン、先進もうか」 「はいっ!」 いい加減にしないと唇が腫れ上がるよ! キスばっか延々はある意味拷問だからね! おたおたしている手を拾って、とりあえずはめている指輪を全部外す。サイドチェストの受け皿にそれを置いて、次はバングル。次ネックレス。チョーカー……… 多いよ! 「すみません、面倒ですよね」 俺の心の声が聞こえただろうか。獄寺くんはすまなそうに謝ってからサササッと自分で外した。流石に普段から着け慣れてることもあって、取り外しの早いこと。 「じゃー俺獄寺くんの脱がせるから。俺の脱がせて」 「えっ?あっ、ハイ」 「そんなかしこまらなくていいよ…」 「すみませんっ!」 ………だめだこりゃ。 俺はあきらめてスーツのジャケットを割り、思い切りよく脱がす。ぽいっと放って、次はシャツのボタンを一つずつ外していく。元々第三ボタンまで外れてるので苦労はない。俺よりずっと厚い、逞しい、羨ましい胸板に手を置いて、唇を寄せる。煙草と火薬の匂いが……… あ。 「ダイナマイト、入ってる?」 「ちょっと待ってください」 獄寺くんはふところやら脇やらいろんな所に手を突っ込み、わさわさダイナマイトを取り出して床に積んだ。その数たるやすさまじい。 見る間に床はダイナマイトの山が出き、今此処に火が一つでも落ちたら俺はお陀仏じゃないだろうか。 「すごいねえ。重いよね?」 「慣れてますから」 「まあ………そうだろうね」 慣れなきゃこんな入れて歩けないって。走れないって。 細身で中距離攻撃ばかりでイメージ無かったけど獄寺くん、実は滅茶苦茶力あるんじゃないの?そういえば素手でも結構強いんだもんな。拳重いって、了平さん言ってたな。 先に俺の方が彼を脱がせてしまったので、後は大人しくされるがままになった。獄寺くんはキンチョーの面もちで俺のスーツを脱がせ、シャツを脱がせ、その間中ずっと手が震えてるもんだから時間がかかり、ますます緊張は酷くなるようだった。 「ごくでらくーん。おーい」 「は」 「も、大丈夫だって。落ち着こう?」 「10代目…」 普段は頼りがいのある彼が、めちゃめちゃ情けない顔でショボーンと俺を見上げてくる光景はなかなか面白く、俺は一人で笑った。動けないでいるのを引いて体を近づける。 俺だって初めての時すごく緊張したものな。ってか、殆ど彼女にしてもらったんだっけ。 うはあ情けない。 「どんなでも怒らないから」 子供をなだめるような口調になってしまったが、獄寺くんは目に見えてほっとしたようだった。 2005.9.12 up next |