獄寺が目を覚ますと、目の前に棒が二本突っ立っていた。 ウエー、気持ち悪ィ。吐きそー。なんだこれー。 完璧に二日酔いを起こしている。その辛さに、思わず無意識に掴む。 「ふんぎゃっ」 あっこの声は。 「お、起きたら起きたって言ってよ、驚くだろ!」 「あ…おはようございます……?」 彼の愛する10代目はいつもの見慣れたスーツ姿ではなく、まるで学生の頃のような格好をして鏡を覗き込んでいる。 この格好をする時。 それはツナが、現在の彼女に会いに行く日だ。獄寺はそれを知っていた。時々、ホテルの手配もした。その時は痛まなかった胸が、今ではぐるぐると気持ち悪さが渦巻いている。吐きそうだ。 酔っているから、だけではない。 「獄寺くん、昨日のこと憶えてる?」 「イテテ………はあ、いや、それが全然」 「ほぉ〜。そりゃ良かったねえ…」 頭痛と吐き気に悩まされながら上半身を起こすと、其処は洗面所だった。 広い床、バスマット、寝るのに支障があるとすればそれは固さぐらい。 獄寺は寝心地の良い寝台を強く求めるタイプではなかったので、まあ、それなりだった。 しかしまた俺はなんでこんなところに? 疑問はそれと、どうやら、10代目は俺にご立腹のようだという、それだけである。 「オレ何かしたんですか」 「何かした。何かした、と言えばした」 「何を?!………って」 「二日酔い?まーあれだけ飲めばね。獄寺くんが酔っぱらったの俺初めて見たよ」 「ぐ…」 獄寺の痛む頭に、まるで霞のようにおぼろげな記憶が浮かんできた。 酔っぱらった自分が10代目に何か……… 「何か………お尋ねしたよーな」 「そこかい!」 ツナは呆れたように足下の獄寺を見る。散々好き放題やらかして、中途半端のまま寝てしまった獄寺を。彼が人を煽るだけ煽って、乱暴にして、スヤスヤ寝てしまったので、ツナは大変苦労した。 まずクソ重い獄寺の体を横によけ………たはいいが、中に入ったままだったのでそれはもうヒイイッな目に遭い、ようよう体勢を入れ替えてさあ―――どうしよう。 寝てるやつ相手に一人でコく趣味もないので、散々文句と罵倒を呟きながら引き抜き、そのままシャワールームへ駆け込んだ。浴室でやっぱり文句と悪態をつきながら出して洗って、怠い体を引きずって戻って。 酷い格好で眠っている獄寺の後始末をしてやり、ボタンもゆるめて楽にしてやった。重かったけど。 そのせいで作業は難航し、途中何度もこのままスカッと楽にしてやろうかと思った。 結局積んであるバスタオルをかけてひえないようにしてやり、これが一番言いたくない恥ずかしい事実なのだが。 隣に、背中合わせに潜り込んで一眠りした。(だって一人で置いといたらかわいそうだし) 「いろいろ大変だったよ。まあ忘れてもいいけどさー」 軽い調子で言いながら、顔色のさえない獄寺に向き合い。 ツナは腕を組み、仁王立ちで暴走部下を眺め下ろした。 「君の質問に答えるのは骨が折れそう。複雑すぎて、正直自分でもよく分からないから………とりあえずできることをするつもりだ」 縋るような目が、じっとツナを見上げている。 「俺に浮気の趣味はないよ。今から彼女んトコ行って、謝ってくる」 出ていってしまった主の靴音が、いつまでも未練がましく耳の中でこだましている。 獄寺は最悪な気分で床につっぷつした。 どうしてですか10代目。 俺が失礼な真似をしたせいですか。ですよね。こんなアホ失望されましたよね。 でもそんなの、じゃあ、どうしてオレなんかと。 「泣きてえ………」 獄寺は前日に思う存分泣いていたが、都合良くその部分の記憶はあまり戻っていないようだ。 彼は失恋の痛みを抱え、重くて今にもげろを吐きそうな体を引きずって浴室に入り、スーツごとシャワーを浴びた。熱いシャワーを。 そして1時間後、生まれて初めて自主的に別れを告げたことにより盛大に片頬を腫らして帰ってきたツナをそのまま迎え、呆然とし、惨状に呆れられながらも、 「うわあ濡れる濡れるっ」 嫌がるのを浴室に引きずり込みながらじゅうだいめじゅうだいめごめんなさい大好き愛してますと泣きつく獄寺の姿がそこにはあった。 2005.9.16 up next |